第49話 お茶会という名の何か


Cランク冒険者になれたというのに、


現在、装備をすべてタッグさん達に預けているために冒険にも出られない…流石に武器が何も無いのは不安なので、


魔鉱鉄のナタだけ先に耐久力の付与を施してもらいアイテムボックスにしまってある。


といっても特に使う予定も無いのだが…


そして、外に行くにも門の外のストーカーが気になる…

別に害が有るわけではないが、物陰から顔を半分だけだして暇さえ有ればこちらを伺っている…


『顔半分だけ日に焼けて、アシュラ男爵みたいなっちゃいますよ…』


などと心配する俺の思いも届かぬ姫様…流石にガイナッツ王もあのストーカーが気になるらしくて、


「ポルタ君、流石に嫁入り前のお姫様が1日中我が館を覗いているのは…ねぇ…マズいと思うんだよね…」


というが俺がさせている訳ではないので、


「はぁ、そうですね」


としか答えられない俺に王様は、


「だよね、駄目だよね。

よし、ボルト団長に連絡して宮殿に行こう」


と、言い出す。


『なんでよ…』


と渋る俺だが、しかし王様に対して館に居候の身の平民の俺は逆らう事も出来ずに 、騎士団が操る馬車に乗り宮殿に向かう事になってしまった。


館の入り口のストーカーにも王様は、


「これはこれは姫様…お散歩ですかな?

我々はコレよりポルタ君と宮殿へ向かいますが、ご一緒に馬車で宮殿へ参りませんか?」


とわざとらしく誘う。


すると、マリアーナ嬢は、


「そ、そうね、ガイナッツ様…お願いしますわ、ミーシャが少々疲れてしまい一休みしていたとこですの…そうよね!」


と、侍女のミーシャさんとやらに圧をかける。


「は、はい、姫様…あぁ、めまいが…」


と臭い芝居を始める侍女さん、


『大変だね…』


と、侍女さんを眺める俺だが、王様もこの安い芝居に乗ってあげるらしく、


「それはイケない!ささっ、馬車にどうぞ。」


と乗車を促す。


御者さんが足場を出す前に姫様はぴょーんと乗り込み俺の隣にちょこんと座る。


ミーシャさんが「姫様…」と何か言いたそうだが、姫様は聞いちゃいない。


しかし、がっついて飛び乗った割には真っ赤な顔でうつむき別に何も喋らない…


短剣を振り回して、勇ましく向かってきたヤバい奴と同一人物とは思えないのだが…


結局、宮殿に着くまで一言も発することなく、ただ空気清浄機の様に俺の横で、スーは~、スーは~と真っ赤な顔で俺の周辺の香り、酸素を全て吸い取るつもりでは?と思うぐらいの呼吸を繰り返す…


なんだろう?…お綺麗なだけに残念感が凄いよ…姫様…



宮殿に着くと、姫様は、


「疲れましたので、先に失礼して自室に戻ります。

皆様どうぞ、ごゆっくりして下さいまし…」


と言い残してミーシャさんと一緒にソソクサと消えて行った。


王様が、小声で、


「ポルタ君、どうするの?」


と聞くので俺は、


「俺がどうこうしなきゃ駄目ですか?」


と聞き返すと王様は、


「駄目なんじゃないかな?嫁入り前の姫様にナタで一撃…峰打ちとはいえ傷物にしたんだし…」


と、静かに答えた…


『グフッ…それはそうなのですが…』


ハートにダメージを負いシュンとなる俺の肩をポンと叩き王様は、


「あとは、皇帝陛下と話して決めましょう…」


と、慰めではなくトドメの言葉を放った。


あぁ、どうしよう、逃げ出したいよぉ~



…てな訳で、現在皇帝陛下とその奥さま方が三名に囲まれてお茶会という名の裁判がとり行われています。


第三婦人のマリア様がニコニコしながら、


「マリアーナちゃんが、最近刃物を振り回さなくなって、女の子らしい表情に変わったの…」


と嬉しそうに話す。


『あぁ、多分マリアーナさんは第三婦人の娘なんだな…目元がそっくりだ…出来れば性格までそっくりで有れば良かったのに』


と、感じる俺に皇帝陛下も、


「いかにも、我が娘ながら頭の痛い行いが目立ったが、ポルタ君に恋してからは、おしとやかになりおったハッハッハ…」


と上機嫌、


『ハッハッハじゃねぇよ…いやいや皇帝陛下の頭が痛いのより、マリアーナ様ご本人が痛いのが問題なのですよ…』


と呆れてしまう。


すると俺の心を知ってかしらずか、第二婦人のイザベラ様も呆れた様に、


「他の子供達の婚姻にも悪影響でしたので、可能ならばこのまま嫁に行って欲しいですわ」


とご立腹の様子。


『あぁ、俺とは違ったベクトルで呆れてらっしゃるのね…本当に何をしたのマリアーナ様は…』


と、ウンザリスピードしてしまう。


そして、第一婦人のカトリーナ様は、


「全ての縁談が上手く纏まらず、名付け親の私も気を揉んでおりました。

あの娘も、冒険者に憧れていましたのでこの際冒険者の嫁にしては?…ねぇ、ポルタ君。」


といきなり俺にふる…


飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながらも、なんとか堪えて、


「わ、私でございますか?」


と聞き直す。


王様は、


「ポルタ君意外いないよね」


とイタズラっ子みたいな笑みを浮かべる…


『…だめだ、敵しかいない…』


このチャンスに一族のいわく付き物件を何とかしたい皇族の方々に、もう、楽しむ事にしたガイナッツ王…そして、宮殿の騎士団から要らぬ援護射撃が入る。


「ここ数日、マリアーナ姫様が護衛も付けずにお出かけになられており困っております。」


と報告して、王様もここぞとばかりに、


「皇帝陛下、それでしたら姫様はポルタ君を見たさに我が館に参られております。

屋敷の側は我が騎士団が目を光らせておりますが、宮殿からの道中が心配であります」


と…


『あっチクりやがった!…モウ、敵しかいない…四面楚歌状態だよ』


と泣きそうな俺に皇帝陛下も、


「それはまた、面白…いや、困った事態だな…26にしての恋…応援してやりたいが、危険が伴うのは良くない…あぁ、困った、困った。

わざわざ、宮殿を抜け出さなくても意中の男性が宮殿に来てマリアーナの話し相手にでもなってくれたらなぁ。」


と、わざとらしく困っておられる…


『最悪だ…皇帝陛下も、楽しんでるよ…』


と、誰も信用出来なくなりそうな俺を他所にご婦人達は、


「マリアーナを平民にするか?」

「ポルタ君に適当な爵位を与えるか?」


と勝手に話を進めようとしている…


『ヤバい!激痛、面倒臭い、ドM、ストーカー女子を押し付けられる!!』


頑張るんだ俺!、考えるんだ俺!、何とかして時間だけでも稼ぐんだ!!

などと、購入したばかりの並列思考スキルまで使い、二倍の量考えたが元々こんな危機的状況の回避手段も知らない俺が、何人集まろうと打開策など出てこない。


せめて、もう一人知恵をだしてくれれば三人寄れば文殊の知恵的な事も有ったかもしれない。


しかし、俺の味方の三人目は、


〈もう、鬱陶しいから交尾してしまうでやんす〉


と、影の中から野生の強いオス理論を持ち出してくる…


詰んだ…

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