第34話 鍛冶屋のゴング爺さん


結局、ガイナッツの国での拠点はミルトの街の冒険者宿に決まった…

まぁ、装備の新調と可能であればサスペンション付きの荷馬車を作ってもらい移動を楽にしたい!という目標は変わっていない。


腕の良い鍛治師も騎士団の鎧も担当した〈ゴング〉さんという鍛治師さんへの紹介状をギルドマスターのクレモンズさんと、騎士団長のボルトさんに書いてもらった。


少し気難しいらしいが紹介状が二通もあれば何とかなるだろう…


とりあえずこの街での初仕事の前にゴングさんという鍛治師の親方に挨拶に行こうと、クレモンズさんに教えてもらったメモを頼りに街の外れの鍛治工房に来たのだが、


…何とも活気が無い工房だ…


「ごめんくださぁーい」


と声をかけるが返事はない…


「留守かな?」


とも思うが建物内が少し温かい


「鍛治仕事をしてるのかな?」


と思い引き続き、


「ごめんくださぁーいっ!!」


と、叫ぶと奥でもぞもぞ動く影が見える。


そして、


「るっせーぞ!こっちは今寝たとこだ!用が有るなら一昨日来やがれ!!」


と、ご機嫌斜めな爺さんが現れた。


『また、キャラの濃い爺さんが出て来たな…』


と思いながらも俺は、


「起こして申し訳ありません」


と頭を下げると、


「坊主、謝るぐらいなら帰んな!」


と髭面の爺さんがハンマー片手に俺にボヤく。


俺は二通の紹介状を爺さんに渡すと爺さんは紹介状の中身に目を通して、


「けっ、また鎧の注文か!ワシは世界が驚くような大発明がしたいんだ。

金を稼ぐ為にやった仕事で名が売れちまってずっと鎧の仕事ばかりだ…」


とブツブツ言いながら俺の体を触って、


「坊主に鎧をこしらえても、数年で装備出来なくなる…どうしてもなら成長仕切ってから来な、

その時、ワシが生きていたらもう一度話を聞いてやろう。

クレモンズに宜しくな。

あと、騎士団のボルトの奴には修理くらいで持ってくるなと言っておけ…じゃあな。」


とけだるそうに工房に消えてゆく…相手にされなかった俺は少しムキなり、


「なーんだ、街一番の名工が客を選ぶのは仕方ないにしても客の話も聞かない頭の硬い爺さんだとは…」


と言ったら


「何を!?」


と肩をいからせて近付く髭面爺さんに俺は続けて、


「こんなカチカチ頭では、俺の考えた揺れにくい馬車のアイデアを実現も出来ないだろうから、他の鍛冶屋さんを巡るかな…」


と帰ろうとすると爺さんは、


「坊主、話をしよう…おじちゃん寝起きでちょっと機嫌が悪かったようだ…ごめんね…怖かった?」


と、ドンドン腰が低くなる爺さん…


〈なんでやんすか?この爺さん…〉


と、ガタ郎さんですら引く程の変わり身の早さで髭面の爺さんは、


「外は寒いだろ?さぁ、入って暖ったまりながら、馬車の話をしよう」


と、粘っこくいやらしい笑顔で話す。


『怖い…』


と怯える俺は、


「いえいえ、お構い無く他の鍛治屋さんに急ぎますので…」


と、わざと大袈裟に帰ろうとすると爺さんは、


「ワシがこんなに頼んで居るのにか?」


と、キレだした。


俺が、


「何を言ってる爺さん!

てめぇは、一度たりとも頼む言葉を口にしていない!

てめぇが客を選べる様に、客もてめぇに頼むかを選べるんだ」


と言ってやったら


「ぐぬぬぅ。」


と、唸ったのちに爺さんはシュンっとなって、


「すまなんだ…確かに、客に対して失礼だった…」


と言い出した。


〈爺さんの情緒が心配でやんす〉


とガタ郎がもう心配し始めている。


爺さんは、


「じゃあ達者でな」


と、俺を見送るので、俺は爺さんにスッと手を出して、


「ポルタです宜しくお願いしますゴングさん。」


と握手を求めた。


それから爺さんの工房で、中学の時に車好きの技術の先生から習ったサスペンションの授業を思い出して、爺さん相手に板バネサスペンションやついでにタイヤ1つずつバラバラに動くバネのサスペンションの話を図を交えて説明してやると、


「少し待っとれ!」


と言って工房の奥にきえてカンカン・ガンガンと何かを作っている。


俺は、手持ち無沙汰になって辺りを見ると、訳の解らない発明品がゴロゴロしている…


爺さんは鍛治のセンスは有るかも知れないが発明には向いて無いのかな…と思える何だかガチャガチャした物を眺めていると。


工房の奥から、


「おぉ、凄い!えっ、嘘…やだ…ナニコレ!」


と、聞こえてくる…


『マジでナニやってるんだ?あの爺さん…』


と俺まで引いてしまっているが、暫くして静かになった工房からドタドタと爺さんが帰って来て、


ズザザァー!と滑り込みその勢いのまま土下座をしている。


『見事な勢いと綺麗な形のスライディング土下座だ…』


と感心していると、


「頼むポルタ殿!この技術の特許にワシの名前も記して欲しい」


とお願いされた。


俺が、


「何言ってるんです?」


というと、


「やっぱり駄目かのう?」


と悲しそうなゴングさんに、


「共同開発どころか、ゴング式・衝撃吸収システムでも構わないよ」


と、答えたのだった。


だって、個人用の揺れない荷馬車が作って貰えれば目標達成なのだから…

すると、ゴングさんは、


「早速行くぞ!」


と言って俺を連れて何処かに向かう…


「いや、馬車もだけど防具も何とかしたいんですけど…」


との俺の言葉も聞こえていない様で、鼻息の荒いゴングの爺さんは止まらなかったのだった。

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