第23話 後味の悪い依頼


コンガリ炭のように焼き上がったゴブリンを焚き火会場ごと地中に埋めた後に、やっとお目覚めになった奥さまに、


「えー、改めましてDランク冒険者のポルタと申します。隣て心配そうにしているクワガタはガタ郎です…えーっと、お名前は?」


と、当たり障りの無い所から話を始める俺に、奥さまは、


「えー、行商人〈トークス〉の妻〈ライラ〉と申します。

この度は、私を…わたし…ヒック…私は、助かったのですよねぇぇぇ…」


と、泣き出してしまったのだった。


『…けど、無理もないか…』


と、彼女の味わったであろう日々を思い俺は、


「ライラさん、とりあえずもうすぐ日が暮れますから街に移動しましょうか」


と促す。


布一枚でギルドまではキツいから、依頼主の羊農家さんの家まで行き馬車をお願いする事にしたのだ。


羊農家の奥さんには、ライラさんを見るなり慌てて洋服を持ってきてライラさんに貸してくれ、何とか街を歩ける格好になったが、

こんなガキでは役にたたないからと気を利かせてくれた様で、羊農家の夫婦がライラさんのお世話をしてくれる事になった。


羊農家のご主人が出してくれた荷馬車に乗り冒険者ギルドに向かい、ギルドに到着して窓口で事情を話すと、ライラさん達は女性職員さんに連れられて奥の部屋に移動し、俺は別の窓口職員さんに詳しい説明とゴブリンの討伐の証や魔石に上位種の死体にゴブリンの装備…それと、巣穴で見つけた木箱を全て冒険者ギルドに提出した。


どうやら木箱はゴブリンに襲われて奪われたライラさん達の行商の品や私物だったのだが、ギルド職員さんは中身の確認をしながら「旦那は多分…」と口ごもる…


『ゴブリンは女は拐って犯し男は弄んで殺す』


それは冒険者でなくても知っている事実だ…今回の依頼で冒険者ポイントはかなり入ったが、とても後口の悪い依頼に成ってしまった。


ギルド職員さんにライラさんの今後を聞くと、

教会の施設に入り、『身を清める』という名目の、隔離期間を過ごしてゴブリンの子供を宿して無いと確認出来てから解放となるらしい…


『あんな酷い目に遭って尚、過酷な…』


とライラさんの今後を哀れに思うが、もう…なんか、どっと疲れて、俺が付き添ってくれた羊農家さんに挨拶をして宿屋に帰ろうとすると、


「待て坊主、ヤバい事になってるから話を聞きたい…」


と、マントを羽織ったオッサンに呼び止められた。


俺は、


「身も心もクタクタで帰って休みたいんですけど?」


と理由を告げて帰ろうとする。


しかし、マントおやじは、


「まぁ待て、話を聞いたら寝かせてやるからギルマスのお願いは聞くもんだぞ、坊主。」


という。


ギルマスと名乗るのマントのオッサンに、


「クタクタの子供を引き止めてまで、お聞きになりたい事とは?」


と少し嫌そうに聞くと、


「もう少し愛想良くできないのかぁ?坊主…」


と呆れているギルマスに、


「坊主でなくて、〈ポルタ〉と呼んでくれたら、もう少しは愛想良くなるかもしれませんよ」


と俺がいうと、


ギルマスは、やれやれといった仕草をしたあと、


「ポルタだな、私はここのギルドマスター、元Aランク冒険者、風魔法使いの〈エイムズ〉だ。

ギルマスでも何でも呼びやすい様に呼ぶと良い…」


と自己紹介をしてくれたので、俺が、


「じゃあ、マントのおじちゃんオイラに何の用だい?」


とアホっぽく聞くと、


「命令だ、以後ギルマスと呼ぶように」


とギルマスに釘を刺された。


俺が、観念して、


「では、ギルマスは何を俺から聞こうと?」


と、ギルマスに質問すると、ダサマントおじちゃんは真剣な顔で、


「提出したハンマーは間違いなくゴブリンジェネラルが所持していたんだな?」


と、静かに聞く。


俺は、


「はい、報告した通りにゴブリンジェネラルが巣穴から担いで現れました」


と真面目に答えた。


ギルマスは「はぁー」とため息を1つ吐いたあと、軽く目頭を押さえて、「ダダン…」と呟いた。


俺が、


「お知り合いの武器でしたか?」


と察して声をかけるとギルマスは、


「昔、助けたガキが俺を慕って冒険者になったが、CランクからBランクへの昇格を焦って無理をしてな…連続で依頼を大失敗した…

パーティーの違約金を1人で肩代わりし借金奴隷として戦争に送られた。

そんな馬鹿で優しい漢の相棒のハンマーだ…

奴隷商人のキャラバンで北の戦地に送られたはずだが…多分キャラバンごと襲われ男は皆殺しで、奴隷の女は苗床にされている確率が高いのだ…」


と悔しそうに語る。


『それはお気の毒に…』


とは思うが俺にはどうしてあげる事も出来ないので、


『帰るか…』


と考えていたのだが、ダサマントおじちゃんギルドマスターの話が続く…


「実は、ポルタの仕留めたゴブリンジェネラルとは別に、ここ数日内で3つのゴブリン集落を潰した報告が上がっているが、その全てをゴブリンジェネラルが率いていた。

確実に馬鹿デカいゴブリンの群れが裏にいて、全てがその群れの分家だな…確実にゴブリンキングが、頂点の上位種ゴロゴロのゴブリン軍団がいる…」


と、言ったギルマスが俺の肩をポンと叩き、


「Dランク冒険者ポルタ…ギルマス権限でCランク以上推奨の〈レイド〉に参加を認める。

尚、ソロでゴブリンジェネラルを倒す奴を連れて行かない訳が無いからな…強制だから。

今日は休んで明日準備したあと昼にギルド集合だから」


と、勝手な事を言って小金貨一枚を俺に渡す糞ダサマントおじちゃんギルド糞マスターは、


「それで、弓矢とかポーションとか必要な物を買っておけよ」


と言って去っていった…


『 勘弁してよ…』

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