第89話 店を買ってしまおう


結局、寒いのに雪の中ポプラさんの勢いに押され商業ギルドに出向きプリンの登録とクレストの街で店を購入する事になる。


ここでようやく効果を発揮するのが、Bランク冒険者という肩書きである。


そう、金だけ有っても街で家は買えない!

誰かからの紹介状かその本人の実績が無いと駄目なのだ。


店舗付きの中古物件を手に入れプリンのレシピ登録を済ませた。


プリンのレシピは当面は非公開として弟子のみに伝承していく方式をとる。


教えて欲しい人は例の蜘蛛の非常食だったマイト君とジム君にナナリーちゃんの三人習う事とした。


『レシピを公開すれば、金は入るが人脈は広がらない…色んな街に知っているお菓子職人がいた方が良いから…』


という狙いからである。


続いて陶芸工房に行ってプリン用の陶器を注文する。


今は一般的な軟膏などの入れ物を購入して試作していたが見た目が軟膏に見えてポプラさんは嫌だったらしく。


「あんなに美味しのに、一瞬、傷軟膏食べてるみたい…と思って台無しです。」


と言って、ウチ蜂蜜販売用の陶器のポットの小さいサイズを注文した。


手のひらに収まる湯飲み程度の壺形で、簡単な蜂のマークと、『ファミリー商会』という文字が刻印されている可愛らしい陶器のプリン用ポットを一つ大銅貨2枚だがポプラさんは


「2000個お願いします。」


と言っていた。


一瞬『そんなにいる?』と思った俺だがポプラさんは、


「このプリンポットは可愛いから欲しがる人もいるはずです。

数が減る事も予想しないと…プリンの価格にポットの代金を上乗せして、純粋にプリンが食べたい人はプリンポットを返却すれば、大銅貨1枚を払い戻す方式にすれば、壊して返金して貰えなくなったら嫌だから皆プリンポットを大事に扱って壊さない様にもします」


と説明してくれたが、俺が、


「プリンの代金に大銅貨2枚上乗せするから、返却したら大銅貨2枚のお返しじゃないの?」


と聞くとポプラさんは、


「お金を返したけど、少し欠けてたり見えにくいヒビが有ったりしたら次回使えないし、洗って再度使えるか確認する人件費ですよ大銅貨1枚は!」


と力説した…


『商会の経理をポプラさんに任せて正解だったな…』


と感心している俺をよそにポプラさんは陶芸工房で少し見映えの良いカップを50個その場で購入してから工房をあとにした。


俺が、


「あのカップはなに?」


と聞くと、


「宣伝の為のプリン用です」


と言っていた。


『何の事だろう?』


とは思ったが、もうポプラさんにお任せすると決めた俺はそれ以上深く聞かなかった。


最後はダンジョンショップで時間停止付きのマジックバッグを2つと生活魔法のクールを数本買って帰る。


クールは洗面器程度の水を一撃で薄氷がはるほどキンキンに冷やす魔法で連発すれば氷も作れる生活魔法スキルであるが、ダンジョンショップのニールさんは、


「料理人か治癒院の職員ぐらいしか買わない不人気スキルを…そんなに?」


と聞くので、


「料理も始めたんですよ」


と答えておいた。


拠点に帰り母屋でプリン担当の三人にクールのスキルスクロールとマジックバッグを2つ渡して、俺は、


「プリンを冷やす生活魔法です。

小川の水より冷せるので冷す時間も短縮できます。

マジックバッグは、新たに出来る店の在庫用と運搬用です。

拠点で作って店まで移動して店のマジックバッグに移しかえれば、これでいつでも出来たて新鮮、冷え冷えのプリンが提供できます。

店は春にオープンを目指として、プリンポットの納入も来月だから…」


と、それまでの三人の仕事は何を頼もうか悩んでいると、ポプラさんが、


「会長、三人を暫くお借りして構いませんか?」


と聞いてくるので俺が、


「当面は、やること無いから大丈夫だけど…」


と、答えるとノーラさんまで


「やった。

ありがとうポルタ君、これでロックウェル伯爵様に恩返しが出来る!」


と喜んでいる。


『…なんじゃらほい?…』


と、首を傾げる俺にノーラさんは教えてくれた。


何でも、冬から春までお貴族様は社交のシーズンらしくパーティーに明け暮れるみたいだ。


なので、どこの貴族もパーティーのメニューに頭を悩ませているらしい…


『確かに、秋から冬に高難易度の食材の依頼が冒険者ギルドに出されていたな…』


エクストラポーション以来、ロックウェル伯爵様にお茶に誘われたり贈り物にロイヤルハニーの蜂蜜を届けたりとノーラさんは交流が有ったらしい。


本当は俺も呼びたかったらしいが不在がちなので仕方なくポプラさんと一緒にお茶しに行った時に


「パーティーのメニューに困っている…」


と相談されたらしく、そこで、プリンの出番となった訳である。


『なるほど、陶芸工房で購入したカップ50個はその為か…』


と納得した俺は、


『なら、ロックウェル伯爵様ご夫妻には良くして貰ったから恩を返すか!』


となり、前世の記憶を頼りにクレストの街で買える食材で幾つかの料理を作ってみた。


お肉ダンジョンの恩恵で肉は各種豊富だったので、この世界で見たことが無い、トンカツと鳥の唐揚げをレシピに起こしてパーティー料理として伝える事にした。


まぁ、正確には豚ではなくて、猪系の魔物肉だけど…


実物と、レシピをロックウェル伯爵邸の料理人さんに渡せば何とかなるだろう。


レシピは門外不出でロックウェル伯爵のお家の味にすればパーティーメニューの悩みが一つ減るし、揚げ物で稼ぎたくなったらロックウェル伯爵様に一枚噛んで貰って仲間になって貰う手もある…


数日後、


プリンを届けに行くノーラさん達にトンカツと唐揚げを渡して送りだした。



ロックウェル様ご夫妻に喜んで貰えるといいな…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る