第112話 成ってしまった…


「お帰りなさい!」


「待ってましたよ~」


と、手を振られる。


そして俺も馬車から手を振り硬い笑顔で応える…


先に言っておきます。


拠点に戻った訳ではない…



何故か、ヨルドの町の領主にされてしまったから現在顔見せのパレードの最中である。


しかも〈子爵〉という、お貴族様階層のよく分からない平民には強いのかどうなのか解らない爵位まで賜ってしまった…


数日に及ぶフェルドナでの会議の後で、


「やれやれ帰れる」


と安堵したのだが帝国の要人の方から、


「皇帝陛下からのお言葉である!

帝国と魔王国の友好の為に、私有地を差し出した冒険者ポルタに褒美を与える。

詳しくは、フェルド王国、カーベイル国王より発表がある」


と告げられたのだが、議会場でキョトンとしているのは俺だけだった。


各国の要人は勿論、魔族のルキフグスの禿げまでもニコニコ笑顔で拍手をしている…


『全員グルだな!』


と感じて俺は酷く悲しくなった。


そして、告げられた褒美が、


帝国の子爵の位と、魔族に返還した魔の森の代わりにヨルドの町と周辺の領地を与える…という何とも迷惑な話である。


俺は、会議場で各国の要人が居るのもお構い無しで、


「いゃぁ~、自分冒険者なので…」


とか、


「商会が有るので…」


とか、


「家族が、心配で…」


などと、ゴネにゴネまくってみたがカーベイル様に、


「観念いたせ、その点は既に皇帝陛下も予測済みで、そなたに帝国が管理して一般には出回らない〈転移〉のスキルを預かっておる。

あと、我が友アルフリードからの伝言だ。

奴がゴネた場合は、〈お主の様な危険人物に他国に出ていかれると面倒だ、やりたい放題していいから帝国に居ろ〉と伝えるようにと…

これは遠回しに〈お願いします…帝国に力を貸して下さい〉と言っている様なものだからのぅ…汲んでくれ…」


と微笑みながら言われた…



一度拠点に帰り、帝都にて面倒な式典を済ませて俺は、


〈ポルタ・ドゥ・ラ・ヨルド〉


という長い名前を付けられた。


フェルドの子爵では無くて、マルス帝国の子爵がフェルドに出向する形となるので、何か有れば帝都に行かなければならないのが面倒だが、転位スキルで登録した五ヶ所に瞬間移動出来るので、便利になったのか?やらなければならない事が増えて不便になったのか…?

と、まぁ、なんやかんや有っての現在、フェルド王国での正式な手続きの後に、ヨルドの仮領主だった宰相様と一緒にフェルド王国の高そうな馬車でヨルドの街をパレードしている…という流れである。


ヨルドには拠点から数名の人と、多数の虫が移住してくれる事になった。


拠点の警備に〈カブ太〉を残して、今は空き部屋になっているヨルドの地下の蟲のヌシの出城に拠点の森から非正規従魔達が半数ほどが来るらしい


こちらではタンバの指揮下に入るとのことだ。


そして、マリーとハニーの蜂蜜組も拠点に残って蜂蜜づくりを頑張ってくれる事になり、家族も「環境が良いから残る」と言ったいた。


困ったのは正規の従魔達だ…


〈召喚して頂いて、休日は拠点で過ごしたいでやんす〉


と…確かに、家族の中に従魔達が溶け込んでいるので仕方ないが…なんか寂しい…


来てくれたのは、ファミリー商会ヨルド支店の店長になるセールス上手のヘンリーさんと、


親父であるオーガ村の長ゴルグさんに、


「死んでも側を離れるな!」


と気合いを入れられて送り出された鬼娘のルルさんと、何故か馬番として名乗りをあげたドテ君こと、通称ドテチンと、

そのドテチンの事が心配で雑用係りとして来てくれた〈ドテチン〉パパの〈ドド〉さん、

ちなみにドドさんは喋れるタイプの上位種のオーガで、ルルさん達の武芸の師匠でもある。


ドテチンは喋れないけどパパチンは見た目も厳ついオッサンのデコに角がある程度の見た目だ…


『本当に親子か?』


と疑いたくなるが、ドドさんは、


「ドテは、見た目も天真爛漫な性格も死んだ妻に瓜二つですので…」


と言っていた。


という事は奥さまはかなりワイルドな方だったらしい…


とまぁ、結局拠点から来てくれたのは、この四名だけだった。


アゼルとメリザは、


「ポルタ兄ぃと一緒にいたらクエストも出来ないから当分二人で頑張る」


と、言っていたしシェラはだいぶグズったが、


「下の子達が大きくなってタマゴ農家を継いでくれたらポルタ兄ぃのところに行く!」


と決意して、皆の生活の為にタマゴ農家を頑張るらしい…


ノーラ母さんに、


「シェラちゃん、ポルタ君は貴族様になったからお嫁さんの枠が増えたわよ、頑張ろうね。」


と言われていた…


『なんだかなぁ…』


そして何故かルルさんまでガッツポーズをしていたのはツッコまないでおいた。


そして、ビックリしたのがガイナッツ王国の爺さん達である、

鍛治師のゴング爺さんに、

家具職人のマット爺さんと、

細工職人のベルト爺さんのプロレス…もとい、職人爺さん達が噂を聞き付けて、工房を息子に譲り、数名の弟子と共にヨルドの町に引っ越してきてくれたのだ。


『もう、欲しい物を作りたい放題のやりたい放題してやる!こうなりゃ、もうヤケクソだよ…

ヨルドを将来、近代都市国家にしてやる!!

旨いもの作っても帝都には…いやあの皇帝には輸出してやらないんだからね!』


と、俺を追い込んだ奴らに、悔しがらせてやる事を誓う俺だったのだ。

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