第86話 油断と後悔と怒り


冬までに妹のシェラを強くしてクイーン卵鳥のスカウトが出来るまでがとりあえずの目標だが、どのくらいまで強くすれば良いかよく分からないのが本音だ。


卵鳥自体は角ウサギより少し弱いが群れで居るために確実にクイーンより強いとクイーン本人に思わせないとテイムは難しいんじゃないかな?とも思う。


下手なレベルでシェラを群れに近づけたら、〈皆で攻撃したら行けるかも?〉とか思われて一斉に攻撃されたら厄介だし…

どこぞのジムで、バッジもらったらある一定のレベルの魔物が命令を聞くとかならシェラにジム戦をやらせるが、この世界では別に冒険者のランクを上げても直接従魔スキルには関係ない。


あくまでも、ご主人様の配下になりたいと思わす何かがいる。


卵から孵して親と思わすとか手は色々とあるが、やはり配下にして制御するには、単純な力関係という物差しが有った方が良い。


と、云う訳でシェラは現在、真面目に俺のサブウエポンであるゴング爺さん作の魔鉱鉄の槍を、スライムにサクリと刺すだけの簡単なお仕事を頑張っている。


「ポルタ兄ぃ、スライムって何匹倒したらいいの?」


と、流石に飽きたのかシェラが聞いてきた。


『まぁ、かれこれ半日スライムばかりをサーチ&デストロイしてるからな…』


と考えた俺は、


「よし、シェラ、次は牙ネズミを狙ってみるか?

血とか出るけど大丈夫か?」


と、俺が聞けばシェラは、


「アゼル兄ぃやメリザ姉ぇの狩ってきた獲物をさばいてるから大丈夫!」


と答える。


武器もそこそこちゃんとしてるし角ウサギでも良い勝負しそうだ。


さばいて料理してるから血をみてパニックになることも無さそうだし…

よし、移動しよう!と、水辺のエリアから、冒険者ギルドの職員さんに教えてもらった草原エリアに移動して索敵をかけて獲物を探して、ガタ郎に追い立ててもらって槍で牙ネズミを倒しているシェラ…


何とも真面目な槍さばきだ。


俺の教えた我流の槍さばきを綺麗な形で繰り返す。


『コレはちゃんとした師匠…せめて槍術スキルの在るアゼルに教わった方が良いかもしれないかな?

アイテムボックスに有ったから槍を使ってもらっているが、もしかしたら他の武器の方が得意かもしれないし…

いや、気遣い上手のシェラは、そもそも武器が嫌いで冒険者が嫌かもしれないが俺の為に無理して頑張っている可能性まであるな…〉


などと、あまりに単調な作業に色々な事を考えてしまう。


そんな冒険者としての日々を過ごしながらギルドの宿をとりかれこれ一週間…シェラは角ウサギも倒せる様になり、見事にFランクに上がった。


Fランク昇格のお祝いとして、シェラにダンジョンショップに予約していたお見合い市場で好きな武器を選んでもらった。


すると、手にするのが片手剣ばかりだった。


理由を聞いたら、


「槍は持ち運びが大変だし防御力に不安が在るから盾が使いたい。」


と、シェラが答えた。


なるほど…やはりシェラは色々と考えて動けるタイプらしい…ちなみに、シェラが決めた装備は鋼のショートソードだった。


〈切れ味〉と、〈インパルスショット〉という、6割程度の斬撃を20メートル程飛ばせるスキルが付いた使い勝手の良い品だ。


これならば盾で守りながら遠距離攻撃で戦える。


シェラには時間停止付きのマジックウエストポーチをダンジョンショップで購入して渡して、


俺の使わなくなった〈ミスリルコートの盾〉もプレゼントした。


シェラはマジックウエストポーチより大きな盾がニュンっとポーチに収まるのが不思議な様で、何度も出し入れしているのだが、ひとしきり繰り返して満足したのか、


「ポルタ兄ぃ、ありがとー」


と喜んでくれた。


俺のアイテムボックスからシェラが最近ずっと使っていた槍もシェラに渡すと、自分のマジックウエストポーチに入れてみるシェラは、槍もニュンと収まったのを確認して、


「おぉ?!」


と驚いている。


『確かにどう考えても入りそうでない大きさの物が収まるからビックリするよね…』


と、嬉しそうにマジックウエストポーチに色々と出し入れしている妹を眺めながら、


『さて、シェラの武器も決まって、折角Fランクになったから、次は森に行って跳ね鹿やアタックボアでも狙うかな?

真面目でがんばり屋のシェラだから、もしかしたら雪が降る前にクイーン卵鳥と従魔契約が出来るかもしれないぞ…』


と思い、翌日から森での狩りをしている。


やはり、シェラは器用で頭脳派だ。


ガタ郎が追い立てた跳ね鹿が高いジャンプをしたのを見計らい、着地予想地点にインパルスショットを打ち出して足を切り払い、機動力を失った鹿に盾を構えて近づき仕留めている。


凄く順調なシェラの訓練に、俺は少し調子に乗って居たのかも知れない…

秋の冬眠前の魔物の食欲…冬用の餌を蓄える為の狡猾な罠が、あちらこちらに有るにも関わらず気を抜いてしまったのだ…


何かしらの罠にかかったのか逃げようとしても逃げられない卵鳥を見つけたシェラが、


『可哀想だ』


と駆け寄り罠を外そうと卵鳥に近づく。


俺が、


「罠で狩りをしている猟師さんも居るから触っちゃ…」


と言った途端に、


「キャァァァァァァ!」


と、シェラが罠にかかったようで足に紐が絡まり逆さまに吊るされる。


そして、音も無くスルスルと樹上より糸を伝い降下してくるタンク付き便器程ある蜘蛛が数匹…


俺が、


『しまった!』


と、思う暇も無く、シェラをひと噛みするとじたばたしていたシェラがピクリともしなくなったのだ…


「てめぇら何しやがった!!」


と、真っ青な顔のシェラの周りの蜘蛛達を睨む…


そこで初めて、木の上に糸にくるまれた〈何か〉が無数にぶら下がり先ほどの数匹がただの先見部隊だと知る…


ワサワサ動く無数の蜘蛛…

普通で有れば鳥肌モノだが、今はシェラを守り切れなかった怒りと悔しさでそれどころではない。


影の中のガタ郎が居るだけで他の従魔を連れて来なかった事を後悔する。


〈旦那様、どうするでやんす?〉


とガタ郎が聞いてくる。


俺は、


『シェラを下ろしてやってくれ、俺は皆を呼び出す』


と、心で指示を出すと、ガタ郎さんは電光石火でシェラをパッケージ作業中の蜘蛛を引き裂き、シェラの足から伸びる糸を掴み顎で切り離す。


ガタ郎さんがシェラをゆっくりと地面に下ろすのを横目で確認しながら俺は召喚と指示を出していく


並列思考を使い二匹ずつ


『クマ五郎・クマ美、召喚!』


と呼ぶと二匹のシロクマが現れ、俺は、


「二人はシェラに近づく蜘蛛迎え撃て!」


と先ずはタンク役にもなる二人を出して、


次に、


〈コブン・マサヒロ、召喚!〉


「コブンはガタ郎に代わってシェラをバリアーで守れ、マサヒロは俺と合体」


と、指示を出すが、


『ミヤ子は俺らも危ないから今回は休みでいいな…

セミ千代もあの蜘蛛が錯乱状態になったら逆に収集が着かなくなる』


と判断して、マリー達拠点組も休みにして、


「このメンバーでいくぞ!」


と、冷静に判断する自分と、蜘蛛達に対して言葉にならない様な怒りに震えて自分がいる…


「シェラを何としても守り抜け!

俺は、マサヒロと一緒に蜘蛛を薙ぎ払う!

ガタ郎もこい!!」


と、指示をだして俺はマサヒロの翼で舞い上がる。


「てめぇらだけは許さねぇ!1匹残らず叩き殺してやらぁぁぁぁぁ!」


と龍鱗魔銀の盾と雷鳴剣を構えて、


『マサヒロは蜘蛛の糸に注意しながら奴らの間を飛び回ってくれ』


とだけ頼むと、


〈了解しました。王さまっ!〉


と答えて、百近い蜘蛛隙間を風の様に飛ぶマサヒロの力を借りて、俺は雷鳴剣で飛爪を発動したまま手当たり次第に怒りにまかせて蜘蛛に斬りかかる。


『よくも可愛い妹を…許さない、許さない、許さない!!』


かなりの数を斬り捨ててもまだまだ居る蜘蛛達…


マサヒロの羽を借りて木の上まで舞い上がると、

下の蜘蛛の母親らしきデカブツが俺に向かい糸を飛ばしてきた。


『アイツが元凶か!ぶち殺してやる!!』


と、親蜘蛛らしき巨大な蜘蛛に向けて俺は、集束スキルを使ったフレアランスの魔法を連続で叩きこんだ。


蜘蛛の糸は火に弱いらしくいとも容易く燃え落ち、デカブツの尻にもフレアランスが突き刺さり燃える。


そこで異変に気がついた…


四方から黒いうねりが木々の合間をぬってくるのだ。


そのうねりはまっすぐに、まだ木々に隠れる子蜘蛛を噛みちぎり、毒針を差し込み、切り裂く…


そう、多種多様な虫の軍団が一丸となり蜘蛛に立ち向かっているのだ。


『援軍か…』


と、無数の虫の大群にゾワッとしながらも新手として戦う訳でない事にホッとしたのだが、俺の役目はまだ終わってない、


傷を負い「キシャァァァ!」と前足を上げて威嚇する母蜘蛛を睨み、アイテムボックスからマジックポーションを出して飲み干し、


「よし!」


と気合いを入れてから俺は母蜘蛛との一騎打ちにうつる。


近づくとよく分からない液体を飛ばす母蜘蛛だが、


『そんなもの毒無効の在る装備を身につけた俺には効かない!』


とドヤる俺の背後で、


〈僕は、効きます…体が痺れます…〉


と報告するマサヒロに慌てて俺はクリアをかけた。


『くそ、地味に厄介だな…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る