第87話 安堵と移住者


母蜘蛛は俺の魔法で尻を焼かれ糸が出せないようだ。


なので、空中にいる俺に近寄る手段も絡めて引きずり降ろす手段も無くて、毒霧に注意して風向きを気にする事と不用意に近寄らなければ問題ない、


俺はアイテムボックスのリストにマジックポーションが在るのを確認し、一本飲んだ後に再び集束スキル付きのフレアランスを今度は毒霧を吐こうとこちらを睨む母蜘蛛の目を狙い打ち込む。


炎の槍は威力そのままに『矢』程に圧縮されて、ターゲットスキルの赤い点に向かい一本、また一本と俺から撃ち出され飛んで行き、8つある目玉を次々に焼かれ、盲目と成った母蜘蛛は足元に張り巡らされた蜘蛛の糸も所々焼け落ちたてしまっているのも知らずに、足を踏み外し木の先端から根元へと落下する。


哀れ母蜘蛛は地面に頭から落ちて、大ダメージを受けたらしく虫の息となるが、足元を埋め尽くす様な黒いうねりが母蜘蛛を飲み込み、その中で虫の軍勢に生きながらに食われはじめた…


俺は辺りの子蜘蛛達との戦いが終わっている事をその場でグルリと見回して確認した後にシェラの元に急ぐ…

コブンのバリアーを一旦消して貰いウッスラ蜘蛛の糸でパッケージされたシェラを糸から解放する…


しかし、身動き一つしない妹に、


「ゴメンよ…守れなかった…」


と泣きながら頬を触ると妹は、


『まだ、暖かい…』


と、手から感じる温もりにやりきれない気持ちになる…すると、ガタ郎が、


〈そうでやんすね。

キツイ麻痺状態だから早く毒抜きをした方が良いでやんすよ。〉


と言った…


『…えっ?』


と驚く俺は思わず、


「シェラ…死んじゃったんじゃ?」


とガタ郎に聞くと、相棒は、


〈新鮮なご飯が良いから、ピクリとも動かない様にして保存するんでやんすよアイツら。

多分上でブラブラしてるアレも生きた獲物でやんすよ〉


と教えてくれた。


俺は、


「ガタ郎さん、手分けして全部下ろして」


と頼み、急いでシェラにクリアとライフヒールの魔法ををかける。


既に魔力が少ない俺はマジックポーションを飲みながら妹の様子を確認すると、みるみる顔色が戻るシェラは大きく息を吸い込み、ハッっと目覚めた…


安堵し気が抜ける俺にシェラが、


「ポルタ兄ぃ、何で泣いてるの?」


と、呑気に聞いてくる。


俺は、


「可愛い妹が、殺されたと思ったら生きていて、もう、何だか解らなくなった涙だよ…」


と、シェラの頭をワシワシした。


従魔達に礼を言って、次は、この戦いに駆けつけてくれた戦士達に礼を述べに向かう…そう、あの黒いうねりの集団である。


でっかいカブトムシを筆頭にカミキリ虫や、カマキリ、蜂やアブ…等々様々な虫が並ぶ…

そして勿論いるよね…コックローチ一族も…

しかし、シェラを助けて蜘蛛を倒したい俺の願いを聞いて集まってくれた戦士達だ…無下には出来ない!


俺は、頭を下げて、


「助力、感謝する」


というと、ギチギチという何とも言えない音がきこえる。


俺はあまりの音の圧力と迫力に、魔力切れ気味なのとは関係なく意識が遠退きそうになるが、ブレイブハートのおかげで踏みとどまる。


どうやらあまりに沢山の対象にはスキルも対応していないのか、声でなくて顎を打ち鳴らしたり、羽を擦り合わせたり、足を踏み鳴らしたりと実際の音で彼らは答えてくれた様だ。


すると彼らは倒した蜘蛛の魔石の山を俺の前に並べはじめて、一匹のカブトムシが、


〈ここに集まった者は家族や友人をあの蜘蛛に食われた者達です。

陛下の「憎い蜘蛛を倒せ!」との思いを聞き付けて馳せ参じました〉


と頭をさげた。


ガタ郎が、


〈全部下ろせたでやんす〉


と、俺を呼びにきたので戦士達の事は一旦ガタ郎に任せて保存食を解放していく。


跳ね鹿にアタックボアあとは卵鳥達…それと、冒険者が三人…クリアをかけて毒抜きをすると、三人共に復活した。


話を聞けば、Dランク冒険者の三人パーティーらしく、冬越しクランに入り損ねて焦って冬までに獲物を少しでも狩ろうと森でキャンプしていたそうだ。


今日の日にちを伝えると、どうやら彼らは一週間以上ぶら下がっていたとのこと…


『お食事の順番が来なくて良かったね…』


と、思う俺だったが、三人が歩ける事を確認した後に彼らには冒険者ギルドへの報告をお願いした。


何故ならば俺が行くには、まだ少しかかりそうだからである…

最初にシェラか助けようとした卵鳥には飾り羽根があり、どうもクイーン卵鳥のようだ。


クイーンはシェラに懐いているようで、助けようとしてくれた事への恩義なのか傍らをはなれない…


保存食の卵鳥達にも、俺はマジックポーションを片手にクリアをかけていく。


魔力も少なくなり腹もポーションで水腹で苦しいが、アタックボアと跳ね鹿は…どうしよう?…


『残念、お前達はお肉だぁ~』


とは、可哀想で言えない…なので俺はそっとクリアをかけて放置しておいた。



さて、虫の軍団さんだが…


「ガタ郎さぁ~ん、ちょっと…」


と、虫軍団とお話し中のガタ郎を手招きで呼び、


「集まってくれた皆さんに何か御礼がしたいんだけど、何が良いと思う?」


と聞くとガタ郎は、


〈仲間が沢山居る拠点の森で住みたいみたいでやんすよ〉


と教えてくれた。


『そうか…カブトムシ君がみんな家族を食われたって言ってたからな…安全な場所を認めているのは解る…う~ん…コックローチ一族もいるが…仕方ない、頑張ってくれたんだもんね…』


と俺は腹をくくり虫達前に進み出て、


「皆はウチの森で住みたいらしいけど、色々な種族の皆さんが住みやすいかどうか解りません。

なので、そこのカブトムシ君を森担当のリーダーにします。

何かあれば彼に相談してください…いいですか?」


と、カブトムシを見ると彼は仲間になりたそうな目をしながも、


〈陛下、私で良いのでしょうか?…あぁ、何たる幸運、何たる幸せ〉


と、俺に確認した後にカブトムシは後ろの軍団に向き直り、


〈皆…すまん…皆の為に身を粉にして働くのでどうか力を貸して欲しい。〉


と、頭を下げて皆からの了承を求める。


すると軍団は拍手をするように地面を叩き、顎を打ち鳴らす。


俺はカブトムシに手をかざして、


「カブ太!」


と呼ぶと、ただでさえ大きなカブトムシは軽自動車サイズに大きくなり、メタリックな色合いになったのだった。


カブトムシは、


〈鎧カブトムシのカブ太、この命、陛下と皆の為に…〉


と忠誠を誓ってくれた。


そして、シェラはなぜか、〈クイーン卵鳥〉に〈コッちゃん〉と名付けて従魔にし、クイーンであるコッコちゃんの能力で、他の卵鳥も合わせて配下にしていた。


あと、何故か逃げずにウロウロしていた跳ね鹿〈ピョンちゃん〉と、

同じようにアタックボアに〈ブーちゃん〉と名付けてしまったいた…


あの二匹はどうやら助けられた御礼にスリスリしてたらシェラに名付けをされたらしい…まぁ、本人達が良いなら良いかな?…


と、まぁ一気に居住者が増えてしまったけど…


今回ばかりは仕方ないな…

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