第97話 戦の褒賞
ワルド王国の一方的な負け戦から2ヶ月…王子の手紙を読んだワルド王が、全面降伏という形で終戦となった。
現在、ヨルドの町で終戦の調印式を行っている。
ヨルドの町のパンイチ達は調印式前にワルド本国に送り帰された。
『アイテムボックス持ちから没収した食糧が尽きる前に決着して良かった…』
それもこれも、生死の確率二分の一の戦場でリード王子が生き残ったのと、フェルド国王のカーベイル様が銀狼騎士団を処刑せずに我慢してくれたから話がこじれなかったのが大きい。
フェルドナ自体に食糧が足りていないのに数ヶ月銀狼騎士団を食べさせた王様の決断力…流石としか言いようがない。
カーベイル様は、
「どんな喧嘩でも落としどころが要るだろう…」
と言って笑ってみせていた。
『先が見えている人間とはこうも器がでかいのか!?』
と俺は感心したのだった。
先の戦で自国の貴族や騎士を倒しまくり、今回も密命で潜入していた工作員だ。
気持ちで動けば処刑していてもおかしくない。
しかし、カーベイル様は、
「戦場以外で死ぬことは無い」
と投獄だけで我慢したのだ。
器のデカさに、国としても漢としても負けたワルド王がフェルドの属国となる事でひとまずの決着となった。
あとは放っておいても、カーベイル様なら大丈夫だろうしリード王子も頑張ってくれるだろう。
困っていた蟲の主も根城に帰れたし、アリスは魔の森支社職員として働いて貰う事にして、先ずはヨルドの町からワルド王国まで安全に移動出来る地下道の整備を任せた。
地下道が出来れば人や物が行き交っても蟲のヌシの根城の側を通っていざこざを起こさなくて済む…
タンバは当面は蟲の主の所で厄介になるらしい。
まぁ、いつでも召喚出来るし、タンバが本気で走ったら馬車よりも早く拠点に来れる。
全て片付き拠点に戻ろうと思っていると、ヨルドの町での終戦会議を終えてフェルドナに帰るカーベイル様が、
「おいおい、功労者が何も受け取らずに帰ってしまってはフェルド王国が笑われる。
城で改めて祝いの宴を開こうではないか、秋の収穫が有ったので以前より豪勢だぞ」
と、笑っている。
仕方ないからフェルドナに寄ってから拠点に戻る事にしてヨルドの町から出発する事にした。
ヨルドの住人からは、
「虫の勇者様行かないで、」
「虫の勇者様、ヨルドの領主様になってよ」
と、引き止められたが…
『何その虫の勇者って…波と戦うの?』
と心配になる俺は、
「勇者って柄でも、領主って柄でもないから…、
俺は、Bランク冒険者でファミリー商会の会長のポルタだから、もしも、仕事が欲しければ相談してね。
アルトワ王国の王都クレストから南に1日の所に住んでるから、じゃあ、皆元気でね。」
と手をふり、クマ美の引くキャンピング馬車でヨルドの町をあとにした。
カーベイル様の馬車の列の後ろを走りフェルドナまで移動すると、街の入り口から城まで戦争を勝利で収めた騎士団を讃える人だかりでザックさんが馬の上から手をふり応えている。
正直、従魔に指示をだしただけの俺は凄く居心地が悪い…
もう、食糧を運んだだけの商人っぽい雰囲気をかもし出しながら馬車の列の一番後ろから城を目指す。
そして、その日は城の客室に泊めてもらい、翌日に、謁見の間で褒賞式が行われた。
敵の魔物避けの魔道具を撃ち抜いたバリスタチームには勲章が授与され、バリスタ隊の隊長は男爵位を賜った。
ザックさんも男爵から伯爵になり、領地も与えられる事になっていた。
そして、全ての褒賞が授与された最後に俺の番になる。
このペースなら爵位を渡されて貴族になりそうだが、そんな面倒臭いことはゴメンだから先に俺の褒賞をお願いしてある。
フェルド王国とワルド王国に挟まれた魔の森の所有権と魔の森で虫魔物に喧嘩を売らない事、蟲のヌシからもからもいきなり縄張りに入った人間に喧嘩を売らない約束をもらっている。
書類上はアリス・ポルタ・ファミリーという女男爵の領地となる。
つまり、城蟻の女王 アリスが領主だ。
そして俺には、この後、魔族の件で帝都で会議をする予定のカーベイル様に、同級生の皇帝陛下に俺にした仕打ちについてコッテリとお灸をすえて貰う事をお願いした。
次、何かを耳にした場合は『虫の王の力をお見せする事になります』との伝言と共に…
その夜のパーティーで、ドノバン様が、
「ポルタ殿、我が孫娘と結婚して爵位を持たぬか?」
と誘われた。
貴族になる気はないが、一応、一応よ!?
「孫娘さんはお幾つで?」
と聞くと、ドノバン様は、
「可愛いぞ、きっと気に入るはずだ…七歳になる…」
と……
『 アホか!犯罪じゃ!!』
俺は、ひきつりながら、
「有難いお話ですが…」
と丁重にお断りした。
あと、10年待っても17歳…しかも、面倒なお貴族様の義務付き…
ドノバン様は残念そうに、
「そうか…やはりマリアーナ姫のような年上が好みか…」
との不吉な呟きは聞かなかったことにして、カーベイル様に改めて、
「皇帝陛下がチビるほど怒って下さい」
お願いして頭を下げるのだった。
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