第62話 脳内会議の結果
一週間程20階層を拠点にして、レベル上げにいそしむ毎日を過ごす。
素材もマジックポーションもかなりの量になり、スキルスクロールも7本と中々の成果だ。
新たなラッキーアイテムの幸運のペンダントの効果かな?
という具合でスキルスクロールこそ、1日に一本有る無しだが、マジックポーションの宝箱は結構な出現率だ…
『だいぶ頑張ったからボスを倒して一旦クレストの街に帰るかな?』
と決めてボス部屋の前に移動する。
この一週間で、20階層のボス部屋に挑戦したのは1日に1~2組程度、
現在は誰も居ないのでそのままボスに挑める。
本日担当のガタ郎は俺の影の中で、
〈旦那様、頑張るでやんすっ〉
と、気楽な応援をしてくれた。
そして、
ボス部屋の扉を開くと既に〈象の魔物〉が奥に見える…
盾と雷鳴剣を構えて近づくと、ある程度まで近づいたとたんスイッチが入ったみたいに、
キランと、目が輝き、
「パオォォォォン!」
と鳴いて俺を睨み戦闘態勢に入った。
そして振り上げた鼻の先から〈ストーンバレット〉を飛ばしてくる。
『水じゃないのかよ!…なんか鼻くそ飛ばされているみたいだな!!』
とボヤキつつも、拳大の石を避けつつ敵に近づくのだが、普通サイズの象に少し安心する。
『デカく無くて助かったぁ~』
と…ん?!
『いや…普通サイズの象って…十分ヤバくないか?』
と、普通という感覚が麻痺しているらしい自分にツッコミながら、近づく度にデカく見える象…
『いや、やっぱり普通サイズでも実際にデカいんだよな…やっぱり…』
と、軽くビビるが、ここはボス部屋…倒すか倒されるまで解放されないデスマッチ会場だ。
鼻から射ち出される石の弾丸をかわして、間合いを計るが、
〈…どうやって倒そう…
とりあえず、鼻からの魔法は厄介だから、何とかしたいが、皮膚もガチガチで固そうだし、切り飛ばせるか不安だ…〉
機動力を削ぎたいからと、試しに前足に叩き込んだ飛爪の一撃は象の皮膚を切り裂き、少し傷を付けだが、
「パオっ」
と短く鳴くと傷口が光り、みるみる回復する…
〈えっ回復魔法も使えるの?…ずるくない?!〉
これは普通の手段では駄目だ…
と、並列思考で戦いながも脳内会議を開く。
炎魔法…皮膚が硬いし、デカいから焼き肉にするにも、時間がかかるし回復される…
では、魔法剣を試すか?…切れ味は飛爪と変わらないし…あの程度のでは回復されて、俺の魔力が先に尽きる…
…あーでもない、…こーでもないとやっている最中も象は鼻を高く構えて石を飛ばし、二本の牙で俺を串刺しにしようと突進してくる。
突進をかわしても巨体に似合わぬ機敏なターンで、再度突っ込む象…
ガタ郎が、
〈クマ五郎を召喚して、押さえつけるか、女性陣を召喚して、ヤバい毒で倒すでやんすか?〉
と、影の中からアイデアをくれたが…
『それは最終手段だ』
と一旦保留にした。
脳内会議班が暫くフル回転をした結果。
出した答えが〈罠をはる〉だった。
土魔法の〈ピットホール〉で穴を開けて、わざと突進を誘い、穴の手前で〈跳躍〉を使ったジャンプで、象さんを穴にインさせてから、じわじわ攻撃をかける…
それで駄目なら召喚ということになった。
ピットホールは旅の最中に何度が練習したのでどれくらいの穴が出来るかは見当がつく。
だいたいフルパワーで直径三メートルの深さも三メートルあまりの円柱状の穴が開く、魔力の腕輪無しなら3発も撃てば魔力切れになって気絶しそうになる強力な魔法だ。
三メートルの穴では象さんの全身は厳しいが、ハマってもたついてくれれば勝機も見えてくるかもしれない…
『ヨシ、殺るぞ!』
と、気合いを入れてからわざと象を挑発するように前をウロチョロする。
勘に触った象は、
「パオォォォォン!」
と怒りの形相で突進してくる。
『ヒィィィィ!』
と、声にならない叫びをあげながら、
自分の前方にピットホールの魔法で穴をあけて、逃げるスピードのまま踏み切り、跳躍のスキルで飛び超える。
穴の対岸にたどり着いて後ろを見ると、穴の存在に気がつき急ブレーキをかけた象が前傾姿勢のままゆっくりと穴に沈む瞬間だった。
「ぱおっ?」
と小さく鳴いた象は、ズドーンと大きな音を発てて、頭から地面に刺さっている。
落ちきるには浅く、体を引き抜くには深い落とし穴に落ちた象は、何とかしようともがくがおかげで重力に負けて余計に穴に深く刺さる結果になる。
時折聴こえる。
〈えっ?〉とか〈あれ?〉みたいな「ぱぉ?」がもの悲しい…
さて、こうして罠にははめれたが、どうやって倒すかは考えてなかった。
下手な攻撃をしても回復されるし…弱点でも有ればいいのだが…
目の前にあるのは、穴にハマりほぼ詰んでいる象さんの臀部…並列思考をフル回転で脳内議会を開くが、
『時間をかけて相手の魔力切れまで持ち込んで、削りきれ派閥』
と、
『もう、弱そうなのは尻の穴しか無さそうだから、フレアランスでもブチ込んでわからせてやれ派閥』
に意見が割れている…
脳内議員も並列思考で二倍にしたために偶数となり、五分五分の勢力のまま、
〈いや、流石に穴は…〉
〈バカ野郎、穴しか無いだろう!〉
と熱い穴論争の最中、
ガタ郎議員が、
〈旦那様、もう尻の穴で構わないから、楽にしてやるでやんすよ…〉
と、象を哀れむ一票を投じて、
『象の紋所、ガン責め法案』が可決したのだった。
アイテムボックスからマジックポーションを数本取り出し準備をして、穴にハマって動けない象が〈控えおろう!〉とばかりに目の前にさらけ出している穴に向かい…俺は…
「なんか、ごめんね…」
と言って、フレアランスを叩き込む!
「ぱぁおっ」
っと短い悲鳴をあげる象は、熱くて太いソレを何とかしようとお尻に力を入れる。
凹む尻エクボに、収縮する紋所…
『俺は、いったい何を見せられているのだろう…』
と攻撃しながらも悩む俺にガタ郎が、
〈尻でやんす…〉
と真面目に答える。
いや …知ってるよ…
と、思うその間も象に深々とぶっ刺さる魔法の槍が一本また一本と増えていき、魔力の腕輪の予備の魔力が尽きたのか俺は少しダルく感じてくる。
けだるそうにマジックポーションを数本か飲み干しながら再び穴責めを続ける…
『なんだか戦争で無理やり殺される動物園の象の話があったよなぁ…』
と、意識を散らしているのだが、攻撃をしているのに何故か俺がじわじわと精神にダメージを食らうのが解る…
そして、象の回復スピードをガバガバにされた紋所周辺のダメージが追い越した様で、自前の穴から炎の槍を複数生やした象の声が地面の穴の中から、
「パッ、パッ、パオォォウゥゥン!」
と切ないく響き渡り、後ろ足をピーンと伸ばした象がブァッシュン!と消えた…
「やっとイッたか…お前のおかげでお腹チャプチャプだよ…」
と呟きながらぐったりした俺は、
『…もう、帰って寝たい…寝て忘れたい…』
と遠い目をしてボス部屋の出口を見ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます