第63話 馬車のありがたさ


拷問器具の様な乗り合い馬車に揺られて、ダンジョンからクレストの街に帰ってきた。


象の討伐メダルも回収したから次回、転移陣で20階層奥からスタートできるが、


『当面はいいかな?…』


と、考えた瞬間に、様々な穴と切ない奴の声が頭を過る…


『もう行かないかも…』


ちなみに象さんの初討伐のご褒美宝箱は鋼の大剣だった。


『使わないしなんか嫌だから売っちゃおう…』


あと、集めた素材は冒険者ギルドで買い取りの依頼をだして、マジックポーションはなにかと便利なので自分で使うことにした。


アイテムボックスにしまって名前が判明したスキルスクロール七本は、


ライトなどの取得済みの生活魔法が、5本と、〈回避〉という回避率が上昇するスキルと、〈耐寒〉という寒さに強くなるスキルである。


ダンジョンショップで、鋼の大剣と生活魔法五本は売り払いお小遣いにするとして、回避と耐寒は取得することにした。


買い取りの為にダンジョンショップに行くと、販売促進部長になったニールさんと、その部下のお見合い市場主任に昇進したナッシュさんが物凄い勢いでもてなしてくれた。


そして、二人から、


「では、各売場の現状報告から…」


って、俺いつからダンジョンショップの外部取締役みたいな扱いになってるの?

もう、お手元の資料で経営状態の報告も要らないから…

解った、解った…とりあえず、前年より良く成ったのね…


みたいなイベントが開始されたのだった。


…ほんと、お小遣いを稼ぐ為だけだったのに一苦労だったよ…

まぁ、報告は全部終わったみたいだから当面はないみたいだからいいけど、ニールさんが、


「ポルタさんに、以前紹介状を書いてくださった。

伯爵婦人様から、ポルタさんがお見えになったら、

…お役に立てれず、申し訳ありません。…

との伝言を言付かっております。」


と、伝えてくれた。


俺は、


「なんだかかえって、ご婦人に気を遣わせたみたいで、こちらが申し訳なく思っておりますとお伝え下さい。」


と頼みダンジョンショップをあとにした。



まぁ、一通りダンジョンの成果を売り払い、やることも済んだので一旦工事中の我が家でも見にいくかな?芋虫君が羽化していたら荷馬車も回収できるから遠征にも行けるし、大工の皆さんに差し入れでも買ってかえろう…


と、市場を周り食糧などを買って、クレストの街の外に出てからクマ五郎を召喚した。


俺が、


「クマ五郎、皆の所まで乗せてくれる?」


と、聞くと、


〈いいよぉ~〉


と言って少し伏せて乗りやすくしてくれた。


馬車で丸1日の距離…


現在、熊に股がりお馬の稽古は絶対出来ないと感じている。


股がるには背中が広く股がり難く、熊は走る時に体をうねらせるので、上下に大きく揺すられる…


振り落とされそうになるし、乗り物酔いになる。


「うぷっ…クマ五郎…停めて…」


とお願いして、道の端でエレエレと朝ごはんとサヨナラしてから、『もう、歩こう…』と、徒歩にて拠点を目指すことにしたのだが横を歩くクマ五郎が、


〈じゃあ、こうするんだなぁ〉


と、俺をヒョイと抱き上げてお姫様ダッコをして残った手足で走り出した。


しかし、


クマ五郎の…上の手?にダッコされて走っているが、端からみれば、


鮭を咥える熊の構図だ。


背中よりは酔わないが、あまり嬉しい体制ではない…


「クマ五郎、もう、歩くから降ろして…」


とお願いするとクマ五郎は、


〈それじゃあ、これはどうかなぁ?〉


と、立ち上がりお姫様ダッコのままトテトテ歩く…


俺が、自分で歩くのとさほど変わらない速さと微妙な屈辱感…


俺は、


「クマ五郎、ありがとう。

歩くのとあんまり変わらないから自分で歩くよ。」


と告げて、


結局、クマ五郎とお散歩しながら2日の長いハイキングを楽しんだ。


途中、納得が出来ないクマ五郎が、何度が俺を背中に乗せて走ろうと試みるが、毎回リバースしてダウンする俺を見て、


〈ごめんなさい、なんだなぁ…〉


と、ションボリしながらトボトボ歩く。


俺は、


クマ五郎と並んで歩きながら、


「馬車が動かせるようになったらクマ五郎を頼るから、今回はユックリ歩いて帰ろう」


と、背中を摩りながら慰める…


歩きで帰るのが嫌だからクマ五郎を呼んだのだが歩いたうえで慰める作業が増えただけだった。


〈ぼく、役にたってるのかなぁ?〉


と不安そうに聞くクマ五郎に、


「凄く頼りにしてるよ。」


と語りかけ、


最終的に何とか自信を取り戻すのは目的地が見えたころだった。


結局、馬車のありがたさを痛感した旅になった。



やっとの思いで牧場の建設現場に到着し、大工の親方達に酒等の差し入れを渡して工事の状況を聞くと、既に水のみ場は完成していて、柵も半分出来ているとのことで、来月頭には厩舎が建ち、その次に母屋の予定だそうだ。


母屋が出来てから蜂蜜工房と事務所を建てて最後にパーシーさんの家の着工となる大工事なのだ。


出来るだけ大工の親方達とは仲良くやりたい…


あぁ、仲良くやりたいというと非正規組の、


〈正規採用をお願いします〉みたいなアピールが凄い…

でも、カナブンやダンゴムシを上手に使役して戦う自信がない…


ましてや、大百足君は強そうだが、ビジュアル的にまだ無理で、非正規のままだ。


あと、芋虫君はどんな感じに変態したのかな?


〈変態〉と言っても違うからね…形態が変化する方だからね。


使えそうな虫になっていれば正規採用もありかな…?

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