第64話 従魔の子分
大工の親方達に挨拶もすませて今回の一番の目的の馬車回収に向かう。
既に荷馬車の前にガタ郎達が待っていたが…
なんだか、周りのその他の方々が数が多い気がする…
単体では大分ましになったが、数の暴力にはまだ免疫が少なくワラワラと虫が居るのは恐怖でしかない…
俺は近付くのをやめて、
「ガタ郎さんだけ、ちょっといらっしゃい!」
と、大声でガタ郎を呼びつけると、ぶぅーんと飛びながら
〈何でやんすかぁ~〉
と近付くガタ郞に、
「あの集まりは何!?」
と、俺が聞くとガタ郎は、
〈えっ?旦那様のお出迎えでやんすが…?〉
と、答える。
俺は、
「要らん、要らん!毎日徐々に増えた20匹は、我慢出来るが、久々で、いきなりの20匹は心臓に悪い…
あと、来る途中にもチョイチョイ居たけど、虫軍団増えてないか?」
というとガタ郎は、
〈だから勢ぞろいしたんでやんすよ。
森に住んでた奴らが、旦那様にご挨拶をしたいと…
マリー達のコロニーの下っぱ達の代表やら、森でブイブイいわしてたのを軽くシバいて子分にしたりした奴らでやんすよ。
まぁ皆、旦那様に一度ご挨拶をと集まったんでやんす。〉
となどと説明を受けるが、
だからといって、ワラワラと居る虫の所へ『ヨシ!行こう。』とはならない…
凄く嫌だがガタ郎に、
「俺は、ここに居るから、一匹ずつ挨拶に連れて来て下さい。
そして、挨拶が済んだ者から解散です…いいですね!」
と、指示をだした。
しかし…それからは軽い地獄だった。…
来る途中にちらほら居た奴らは森中でも下っぱと言うか、ガタ郎達にシメられたやつらで、そいつらはもう挨拶を済ませた計算にしてもらった上で、多種多様な虫達を代わる代わる見せられて、本人から、の挨拶のあと軽い自己アピールタイムを受ける。
長時間に渡り、目の前で昆虫図鑑のページを開いて特徴を教えられている様な不快感が続く…
しかし、彼らに悪気はないし、むしろ、住まわしてもらっている大屋さんに挨拶に来ている感覚なのだろうが…
ウーバーのカバンくらいのカミキリ虫や、
抱き枕サイズの毛虫…
ホームベース程あるカメムシ…
俺はもう、いったい何処を見れば良いか解らない!
いや、むしろ大丈夫なパーツが少ない…
デカくて大迫力の虫のオンパレードに、虫酸が走るどころか、ロケットエンジンで加速しダッシュする勢いだ…
しかし、何度も言うが、彼らに悪気はない…むしろ好意すら向けてくれている…人として我慢せねば…
精神を削られるイベントも終盤、
うちの正規従魔達が特別にご紹介したい虫を一緒に連れてくる。
マリーは、下部組織のリーダー〈ビックハニービー〉の女王
クマ五郎はランドセルサイズのセミ
ガタ郎は子分のカナブン
そして、ミヤ子は羽一枚が畳程ある蝶々…あの芋虫君の成長した姿だ。
全員と挨拶を交わし、
正規雇用枠がまだ有るので、どうしようか?と悩んだが、やはりカナブン使って戦う姿が思い浮かばないので、
『雇用は保留にしたままにしよう…』
と決めた時にふと気がつく、
『百足が居ない…』
ガタ郎に、
「あのやたらデカい百足君は?」
と聞くと、
〈アイツなら旦那様に気に入られる強い漢になって戻ってくると、修行の旅に出たでやんす〉
と答えた…
うーん、有難いけど…強くなってごっつくなった百足さんを俺が受け入れられるだろうか?
カサカサやウニョウニョ擬音が強めの奴はまだまだ苦手だからな…
どうしよう、百足さんが次に帰ってきた時に、宮崎作品の空飛ぶ百足みたいになってたら、ブレイブハート以外も漏らす自信がある…
そんな事を考えていたら、
俺の横のクマ五郎がセミと話している。
セミは、
〈クマ五郎の親びん、あたし、もうすぐサヨナラなの…〉
と話している。
クマ五郎は、
〈どうしてなんだなぁ?旅にでるのかなぁ?〉
と心配そうだ。
セミは首をふり、
〈違うの、親びん…あたし…夏の終わりと一緒に…〉
と口ごもる…
クマ五郎はオロオロしている。
「…はい、従魔のみなさーん!もう一度子分を連れて集まって!!」
と俺は、皆を呼び寄せる。
確かガタ郎が、従魔にしたら寿命が延びるって言ってたし…
「えー、皆さんの〈補佐〉として子分の代表を従魔契約することに、たった今!決めました。
皆さんが旅のあいだの拠点の管理などの業務をお願いするとおもいますが、よろしいですか?」
と聞くと文字通り子分達は飛んで喜んだ。
…名付けを済まして俺はクレストの街に向けて、クマ五郎の引く幌馬車に揺られている。
マリーの配下のビックハニービーに〈ハニー〉と名前をつけると〈ロイヤルハニービー〉という上位種の蜜蜂魔物になった。
特に大きな変化はないが、彼女の巣から取れる蜂蜜は超高級品になるらしい。
分家などは一人立ちした娘とはリンクが切れるのか〈ビックハニービー〉のままだった…ルールが難しい…
ガタ郎の手下のカナブンには〈コブン〉と命名すると、サンダルくらいの大きさに縮み、辺りの景色に溶け込む〈隠密カナブン〉という種類に進化した。
あれかね、親分の系譜に繋がるのかな?…ガタ郎の影の軍団の副団長の誕生か?!…
ミヤ子のオススメのあの芋虫君は、デカい蝶々になり、〈マサヒロ〉と名付けると、〈疾風アゲハ〉という飛ぶことに長けたデカい蝶々に進化し、青みがかった綺麗な羽になり大分俺的に安心な見た目になってくれた。
そして、マサヒロはなんとクマ五郎の背中にしがみつくだけで、クマ五郎が空飛ぶ白熊に変身するウイングユニットみたいになる。
俺も飛べそうだが、高さと絡み付く足が怖いから当面はパスだ…
そして、クマ五郎の友達のセミには、長生きしてくれとの願いを込めて〈セミ千代〉と名付けると
…フサフサの毛と、丸い耳の様なパーツが着いたセミになったが…〈熊ゼミ〉って…そうじゃないはず…
まぁ、羽の生えたテディベアみたいな牛乳パックサイズのセミは嬉しそうに大音量で「ミンミン」と鳴いて、クマ五郎と一緒にはしゃいでいた。
ただ、皆進化して虫感が少し薄くなってくれて助かったよ…。
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