第103話 すぐに来いと言われても…


伝令兵の〈モルドレット〉さんとウッスラ雪の積もった街道を西に向かい走っている。


馬のモルドレットさんはスピードを上げたそうだが、クマ五郎は悪路には強いがスピードは馬には劣る。


そして、夜間はタマゴが気になるだろうから馬車を残して送喚している。


早馬の伝令で二週間ぐらいで拠点まで来たのに、帰りはノーマルスピードで、ヤキモキしているモルドレットさんに、


「先に帰ったらは?俺は、後からゆっくり向かうから…」


と伝えると彼は、


「宮殿までお連れするのが自分の任務なので…」


と答えるが…


『移動中もキャンプ中も横でずっとソワソワされて…落ち着かない…』


そもそも「すぐ来い!」で行ける距離ではないし…

タンバを召喚して背中にでも乗れば馬よりも早いが鞍もないムカデの背中に振り落とされない様にしがみついて、何日も…

冗談じゃない抱きついた俺の腕の上下でうごめく赤い足…想像しただけで痒くなる。


それに、タンバはイイ奴だから傷つけたくないし…


『どうしようもないよ…』


一緒に帝都まで誘ったアゼルとメリザはこんな時期にワイバーンで飛ぶと死ぬほど寒いから遠出はしたくないと早々とダンジョンアタックに向かってしまった。


二人は低ランク冒険者で作るの冬越しクランのいる階層はガン無視して、お肉ダンジョンの中層以下を目指すらしい。


『冒険者しているな…』


と思うが、あの二人の一つ下の妹のシェラは最近は冒険者稼業はしていない。


『蜘蛛がトラウマになってないか?』


と心配していたらたまに装備を身につけて、ピョンちゃんに鞍を着けて、ブーちゃんと、アースワームというデカいミミズの魔物を狩りに山に行っているらしい。


山を駆け上がるのは馬の従魔のパカポコ君よりもピョンちゃんが適しているようで、野山を走り回り、ブーちゃんが見つけたアースワームを掘り返し、シェラが仕留める…


なんでも卵鳥達の食い付きや卵の質が良くなるらしく定期的にミミズ狩りに出掛けているそうだ。


『トラウマで冒険者を辞めたプリンチームみたいに武器が握れなくなったかと…タフな妹で良かった…』


と安堵したものだ…などと思いながらも気を散らすが、しかし、寒かろうと誘ったキャンピング馬車の中でも俺の横でソワソワされるのにも飽きてきた。


悩んだ俺はクマ五郎と会議をした結果、クマ五郎が、


〈後半月程でタマゴが孵るんだなぁ、生まれる瞬間は立ち合いたいから、寝る間を惜しんで走るんだなぁ!〉


と提案してくれて、やる気になったクマ五郎は見事に孵化前に帝都まで走りきってくれた。


〈もう、当分走りたくないんだなぁ〉


との言葉を残してクマ五郎も育休に入ったのだった。


我がファミリー商会は雇用形態こそ数千を越える非正規労働従魔に支えられているが、せめて福利厚生ぐらいはキッチリしたい!とは考えている。


住居の提供や各種の休暇にたまに現物支給の食事など…頑張っている方だと…思いたい。


さて、そんな感じで宮殿に到着したのだが、例によって、


「風呂で旅の汚れを落として下さい」


と風呂場に通された。


しかし、豪華な風呂に入っているが…全く落ち着かない…何故なら、前回と違いお風呂当番がうら若いメイドさんばかりなのだ!


『何の嫌がらせだよ皇帝陛下!?』


スッポンポンの俺に、複数の女性が取り囲み頭から体から丸洗い…前だけは何とか自分で洗ったが、


背中のついでに尻はイかれた…頬では無く、溝を…


アキバなどの養殖のメイドではなく、天然物のメイド…しかも宮殿で働く極上天然メイドが複数…


もう、若い女性にいきなり尻の溝を洗われたという事への衝撃よりも、


『皇帝陛下は何を仕掛けてきたのか?』


との不信感しかない。


心とナニかが少し鎮まるまで湯船に浸かり、俺の平常心スキルが頑張ってようやく風呂から出られた。


しかし、脱衣室でもメイドさんに体を拭かれて俺のサイズを計られた…


『違うよ、肩幅とか足の長さとかだよ!』


それからは着せ替え人形の様に服を着せられ、偽物貴族の出来上がりである。


着てきた装備をアイテムボックスにしまって今から謁見らしいが…既に俺のメンタルのゲージは赤色だ…


『流石だよ陛下…素直に誉めておくよ…精神的優位に立つ為に手段を選ばないとは…』


…どうやら皇帝という虎は、俺というウサギを狩る為にもメイド部隊という軍隊を投入するようだ。


メイド達にもみくちゃにされて出来上がった偽物貴族の俺は精神的にクタクタのまま長い廊下を案内される。


影の中のガタ郎が、


〈前回と同じおもてなしなら、そろそろ刺客に襲われるでやんすね〉


と不吉な事を言う。


ふざけないで欲しい…かぼちゃパンツのアホっぽい王子様スタイルで投獄されるなど人生で一回も要らない!


とは思いつつ、あの皇帝なら…と、内心少しビクビクしながら廊下を更に進み、俺のメンタルゲージがチリチリと削られながらやっとたどり着いた部屋で、俺のメンタルゲージはゼロになった…


そこには会議室の様な部屋に皇帝陛下をはじめガイナッツ国王に多分帝国の国々の王族と思われる知らない顔が並ぶ…ついでに一番端にワルド国王もいる…


多分、着ているお召し物から、


『あぁ~、どこぞの王様だ…』


とだけ解る人達の前に立たされた俺は皇帝陛下に、


「先の戦争の英雄は、長風呂なので既に全員揃っておる。

長旅のすぐ後でご苦労だが、帝国の未来を決める会議だ宜しく頼む虫の勇者殿…」


と言われた…


まずは、この状況…普通じゃないからなぁ!!


とりあえず誰か説明プリーズ…

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