第95話 ワルド軍との戦い
夏の終わり…その時がやって来た。
銀狼騎士団が言っていた通り、2ヶ月後にやって来たワルド軍はヨルドの町を占領してからユックリと戦をしようと気楽な気持ちでこちらに来ている。
まさか、自分たちの魔物避けの音がそのまま100メートル間隔に配置された虫の偵察部隊に自分たちの正確な位置を教えて居るとは気づかないようだ。
タンバが、
「出城の偵察部隊20番から敵に動き有りと報告。2キロ先を接近中!
別動の偵察部隊から、数、約5000!!」
と報告しヨルドの町と森の出城は戦闘体制に入った。
タンバが、
「では陛下、先に出城の守りに向かいます。
出城にて、ほぼ敵軍を壊滅させてご覧にいれます。
ご期待を!!」
と言って出ていく。
俺は、絞り出す様に、
「気をつけて」
と送りだすと、タンバはシュルシュルとうねりながら出城に向かった。
タンバは以前俺に合った時に、俺にチラリと見ただけで目線を外されて、
『弱いと判断されて興味すら持ってすらもらえなかった…』
と感じて武者修行の旅に出たらしい…
ガタ郎から、
〈タンバは、ああ見えて繊細でやんすから出来るだけアイツをしっかり見て会話してやって欲しいでやんす〉
とアドバイスをもらっているが…
未だに慣れない…怖い…タンバは俺と話すと興奮して徐々に顔を寄せてくる…真面目でいいヤツのなのだが…迫りくる大ムカデの顔…もう漏れイブハートをしても下からも漏れイブしそうだ。
しかし、敵襲ということで俺もザックさんとバリスタ運用部隊と一緒に出城を目指した。
直線で500メートル程先の出城だが、たどり着くには隠し扉や隠し通路と、迷路ような道のりを正しくたどるしかない。
おかげで一キロメートル以上の移動距離となる。
出城に到着した時には、タンバが、
「敵500メートル付近、をこちらに向かって接近中!
一番隊、正面で囮の任務にでろ!
危なくなったら飛んで逃げろ。
城の正面に敵を誘導できたら二番、三番背後から敵を追いたてる様に進軍するので森の奥にて待機!」
と指示を出している。
ザックさんは2台のバリスタを運用する六名の兵士に、
「こっちも用意しろ!一撃で魔物避けを撃ち抜いてやれ!!」
と指示を出す。
俺もミヤ子とマサヒロとクマ五郎とセミ千代を召喚し、
「皆は魔物避け破壊後に、クマ五郎とマサヒロとセミ千代は合体して、敵の後方に回り込み最後尾をパニックボイスで撹乱して。
ミヤ子は、タンバの一番隊が避けたら先頭の部隊にパラパラっと例の粉を撒いちゃって」
と、遊撃部隊に指示をだした。
出城の前はわざと陸上トラック程の開けた場所を作り、バリスタが狙いやすく成っている。
そして、魔物避け魔道具の音や匂いを我慢しながら一番隊百匹が、毒液や魔法を敵の集団に当てながら飛び回り相手をイラつかせながら出城の正面に誘導している。
虫魔物に対抗するために荷車に乗せた魔物避けを中心に数百の弓兵士と魔法兵士が飛び回る虫ばかりに集中してまんまと広場に誘き出された。
『開けた場所に出て、戦い安くなった』
と陣形をととのえるワルドの遠距離部隊は、離脱していく虫の部隊に初めて、
「罠だ!!」
と、気がつくが既に遅い。
木々の向こうに見える砦からバリスタがしなり、物干し竿ほどある矢が打ち出される。
そして次の瞬間、高そうな魔道具はガラクタへと変貌する。
落胆するワルド軍の長距離攻撃部隊だが本当の恐怖はこれからだ。
キラキラと輝く粉が降り注ぎ、見上げた空には告死蝶が舞っている…
叫び声と紫の煙を上げながらワルド軍本体を目指す弓兵や魔法兵達。
しかし、ワルド軍本体は魔道具が破壊されたとたんに後方にからタンバ率いる二番隊、三番隊と〈クマ五郎ーゼット〉に追いたてられて広場へと進軍してくる。
『敵方の指揮官が完全にセミ千代の餌食になり、パニック状態で突撃命令でも出しているようだ』
四千余りの兵士は目の前で紫の煙を上げながら溶け死ぬ味方を目の当たりにし、恐怖した上に半狂乱の司令官からの命令で出城に向かい突撃をかける。
連携や作戦など有ったものではない…
無策のワルド軍の先頭集団から落とし穴の罠にはまり姿を消して行き、その間もバリスタは唸り続けさらなるパニックを生んでいる。
ワルド軍は仲間の尊い犠牲で罠の位置を判別し、数を減らしながらも出城に接近しバリスタが運用出来ない距離まで近づいたのでザックさん達は次の作戦へと移る。
俺の元にミヤ子も帰って、
〈王様、あまりにも手応えが有りませんわ〉
と不満そうなので、
「クマ五郎と、合流して奥の偉そうなヤツと指示を出してるヤツにパラパラしたら皆で帰って来て」
と追加の指示をだした。
出城の足元にワルド軍が集まり始めて、
「梯子隊前へ!中から門を開けろ!」
と叫んでいる。
その声を聞きタンバは、
「城蟻部隊壁上部より蟻酸攻撃よ~い!」
と、言うと真珠の色の蟻が壁の上にビッチリ並ぶ。
そして、
「放てぇぇぇ!!」
と言う、タンバの合図で尻から酸を吹きかける。
酸を食らったワルド軍が騒ぎ、梯子を守ろうと盾を持った重装兵が盾を頭上に掲げて密集し始め、空堀の中の人口が一定量を超えると、ザックさん考案の二重床トラップが発動し空堀内の全員がドスンと床ごと落ち込み千人近くを離脱させた…
一緒に落ちた梯子を立てて穴から出ようとしたが、城蟻の〈蟻酸〉を食らった梯子は脆くなり、鎧を纏った兵士に耐えられずに崩れていく。
もう敵軍は残り千人前後…
普通ならば撤退の一択たが、ミヤ子とクマ五郎達がこちらに向かってきているのを見つけた俺は、
『あー、溶けちゃったか…司令官…』
と理解する。
そして、俺はクマ五郎達と合流したら最後のお仕事を始める。
クマ五郎と一緒に出城の門を少し開ける。
ちなみに、出城の門に入っても直接出城の指令室には来れない。
門の先には迷路が広がるのみだ。
アリスの指示のもと、城蟻が壁を増設し敵を分断させるトラップ迷路に暴れ足りないヤツが配置されているエリアに敵を割り振るお仕事である。
突き当たりの広場にザックさん率いるフェルド騎士団が待ち構えていたり、タンバと斬首カマキリの軍団の徘徊する人工高難易度ダンジョンや、ガタ郎が影を移動して暗殺を繰り返す首チョンパ逃走中エリアなど…
なんだか可哀想に思えてきた…
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