第143話 新たなる街の着工準備


現在俺は旧ヨーグモス王都であったオーツの街から東に2日程度の場所に騎士団二名を引き連れてきている。


北には山脈、

西には湖

南には広大な少し渇いた土地が広がり

東には魔の森の端が見える…


つまり、開拓するには持ってこいな場所な上に、オーツの街と魔王城のほぼ中間の場所という最高の立地なのである。


『実は来る途中から目をつけていた場所なのだ』


北の山脈からの水が川となり集まった綺麗な湖…

なぜ、滋賀に縁の勇者達がここに街を作らなかったのかと理解に苦しむ。


この旧ヨーグモス王国は全ての街や村は西側沿岸を中心に南北に配置してある。


『余程魔の森がそんなに嫌いだったのか?…』


とも思うが、あと考えられるのは昔の勇者一行が琵琶湖の東側出身者で西に広大な水辺が無いと嫌だったのか…?

まぁ、理由は解らないが空いているのなら有効に活用させて貰う事にする。


先ずは土木作業員の現地採用だ!


アリス達はこの後、列車の目処が立ち次第、オーツからヨルドに線路を作って貰うので待機してもらっているので、この街を作るための職員の新規採用が必要なのである。


俺は空に向かい、


「街作りぃぃぃ、手伝ってくれるぅ子!よぉっといでぇぇぇぇぇ!!」


と叫ぶ…


「シーン」と軽い耳鳴りがするぐらいの静けさ…

大声を張り上げて、息を乱した俺の呼吸だけが


「むふぅ~、むふぅ~」


と聞こえている。


騎士団二名の可哀想な子を見るような視線が痛い…


〈ポルタは仲間を呼んだ…しかし、誰も来なかった…〉


みたいなテキストが頭に流れる。


『…恥っずぅぅぅぅぅ…』


と、俺は耳まで真っ赤になって、あわや『恥ずか死』にそうになった時に四方から黒くうねる大群が押し寄せてくる…


『良かったぁ!』


と思う反面、


『ちょっと…多すぎない?…』


と不安になる俺は、どちらを見ても我先にと先頭を奪い合いながら迫りくる虫達の黒いうねりに怯え始めていた。


しかし、俺の気持ちを知ってか知らずか、それは何処からともなく増えて、徐々に合流し大きなむれになりつつこちらに向かってくる。


そして、


〈魔の森の西より参りました。築城蟻の一族二千でございます〉


とかはまだ解るが、


『周辺の虫、全て集めてみた!』


みたいな多種多様な虫さん達…数万匹…


俺は既に漏れイブハートをビッシャビシャに発動させても気を失いそうになりながら何とか大地に二本の足で立っているのがやっとである。


彼らは、


〈陛下のお好きな者にどうか指示を!〉


と頭を下げるが…てんとう虫君は何が出来るのよ…

可能ならば先日の俺とシシリーの結婚式で赤・青・黄色の衣装でサンバでも踊って欲しかったよ…


なとと俺が、


「今回は、街作りだから、穴堀りや壁作りが得意な者の採用だよ…」


というと、


〈陛下、そこを何とか!〉


と食い下がるカマキリさんやキリギリスさん…


『何か前より熱心だな…みんな…もしかして、虫の王のスキルがマックスに鳴ったからか?』


などと考えれながらも面接を続けて、塹壕蟻の一家、約1500は〈アリサ〉と名付けて、〈築城蟻〉へと進化し、

築城蟻の一家、役2000は〈アーリン〉と名付けて、城蟻へとなった。


そして、初めましての虫さんである〈岩蜂〉という、土をこねて、接着と硬化のスキルで岩の様な巣を作る蜂一家500の女王に〈レベッカ〉と名付けた…ロックで女王だけに…


すると、岩蜂達はラグビーボールぐらいの大きさから倍以上になり、石まで砕ける強力な顎の〈石食い蜂〉という蜂に進化した。


彼らは別に石が主食ではなく石を砕いてより頑丈な巣の材料にしているだけだ。


中には岩から出てきた鉱物資源のみで巣をつくる猛者もいて、別名〈宝蜂〉ともいわれる。


さて四千は採用したが、あと数万はお帰り願いたい…


〈そこを何とか!〉


と仲間になりたそうに見つめる数万の虫と既に軽く体が痒くなっている俺だが、ここは強気でビシッと、


「王命である!残りの者は、各自の住み処にて日々の暮らしに戻れ!」


と告げると、彼らは少し寂しそうに、


〈御意っ〉


と言って帰って行った。


なんか、少し罪悪感が残る俺は、


『街が出来たら、非正規の防衛隊として近所に地下シェルター付きの森でも整備して再度募集をするかな…』


などと思いつつ、


『先ずは開拓村を建設予定地の近くに建てる所からだ』


と気持ちを切り替える。


まぁ勿論、建設現場の近くに蟻と蜂の巣も作らなければならないのが先でありそうではある。


旧ヨルドの街の様に空堀で囲み、堀の壁面から入れる地下帝国に建設虫チームに住んでもらい、掘った土を使い壁と家を建てていく。


そして、


開拓村は割りとすぐに完成した。


完成した頃には〈オーツ〉の街に千人の元貴族達が到着し、住民達と国の為に頑張ってくれはじめており、ヨルド騎士団も一旦引き揚げてきている。


当初住民達が、俺に反感を持って居たらしく、


「国を取り返すなら民兵に志願します」


などと、言っていたらしいが、元王妃一家が中心となりこれまでの経緯の説明と団結して新たな国を盛り立てるために奮闘してくれている。


おかげで開拓村にも職人が旧ヨーグモス王国内からまばらでは有るが集まってくれた。



しかし、一度ガングロからの報告で、


「市民を集めて魔族排斥の為に動いていた男爵婦人が、夫の仇を討つために武器を揃えている」


と連絡が有ったので、


ガングロ達〈KGB〉こと、〈監視する〉〈Gの〉〈部隊〉に対処をお願いしておいた。


現在は旧ヨーグモス城の牢にて反省中らしいが、どんなお仕置きをされて居るのやら…


帝都の牢から解放されたとたんに、なぜ投獄されたかも忘れてしまう程の、根強い反魔族教育と俺への恨みは、直ぐにどうこうは出来ないのかも知れない…


なんとも厄介だな…

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