第19話 デモンズマップを鑑定
ミーリアはすっかり目が覚めてしまったので、音を立てないように掛け布団を脇へよけ、ベッドの背もたれに枕を置いて体重をあずけた。豆電球魔法を操作し、デモンズマップを照らす。
(同室の新入生は……起きてないね)
耳をすませると薄い寝息しか聞こえない。問題なさそうだ。
(念のため……魔力変換……熱感知サーモグラフィー発動……!)
両目に魔力を込めると、視界が青白く明滅し、ベッドに寝転がっている同室の姿が赤く見えた。
三人とも寝ているらしく、胸のあたりが上下している。
一人はすれ違って挨拶しそこねた騎士科の学院生だ。身長が高く、胸の付近が大きく膨らんでいる。他は細身で平均的な身長の人物が一人と、ミーリアと同じくらいの体格が一人だ。
(私と同じくらいの身長……丸まって寝ている。猫みたいな寝相)
友達のほしいミーリアは、同室のメンバーと仲良くなれればと思う。
(寝てるからこのまま地図を見てても平気だね……見つかって、デモンズマップのこと質問されると……私のうっかりが恐い……)
なるべく人目につかないところで見ようと決めている。
というのも、聞かれたらうっかり喋ってしまいそうだからだ。デモンズマップの仕掛け=クロスワードパズルだと知られたら学院に二度と入れない、とルールには記されていた。命の危険もあるとほのめかしている。
(命の危険は魔法でどうにかするにしても……アトウッド家に戻ることだけは絶対にイヤだよ……あんな場所……)
次女ロビン、脳筋領主を思い出して胃が痛くなるミーリア。
お口直しに魔法袋から餅モッチ焼きの包みを取り出して、口に放り込んだ。
(うん……美味しい……さすが王都でいま人気のお菓子……夜食の背徳感〜っ。もっと食べたいけど……師匠に夜のつまみ食いは一品までって言われてるし、太ったら困るもんね)
ミーリアは胃のむかむかを餅モッチ焼きで帳消しにした。
(それじゃ歯石取り魔法と歯ブラシ魔法で洗浄……っと。うーん、さっぱりはするけど歯磨きしたくなるのはなんでだろう。それはさておき……ふんふん、起きる気配もないね。よし)
熱感知サーモグラフィーを切って、視界を元へ戻した。
デモンズマップを見やすいように広げて改めて観察する。
(ルールがあるし、デモンズマップ自体にも魔法の仕掛けが施されてるんじゃないかな? よーし、鑑定魔法……げっ……!)
両目に魔力を込めると、デモンズマップが真っ赤に染まった。
毛細血管が張り巡らされているかのように、複雑な魔法陣が幾重にも施されている。
ミーリアの鑑定魔法はティターニアよりも精度は低いが、それでも、このマップの異常性は理解できた。
(これは……ルールを無視すると本当に学院に入れなくなるかも。呪いをかけられちゃう感じか……? 話してはいけないってルールだから、書いたり、ジェスチャーとか試そうと思ってたけど……恐ろしくてできない。今すぐ爆裂火炎魔法で燃やしたほうがいい気がしてきた)
なんだか物凄くイケない物を持っている気がしてくる。
鑑定魔法の精度が低いせいで、表面部分しか魔法陣が見えない。ティターニアに聞かなければこれ以上の解析はできそうもなかった。
(デモンズマップを解析して答えが出せれば一番よかったんだけどね……。やっぱり正攻法でいくしかないかな? そういえば、魔法科一位の成績者が持ってるってウサちゃん学院長が言ってたけど、今この学院でデモンズマップを持ってるのって……私と、二年生、三年生、四年生だよね……)
現在、ミーリアを含めて四名の学院生がデモンズマップを所持している。
謎を解けなければ年度末に返却――ということらしい。
今までデモンズマップの謎を解いた学院生はおらず、成功すれば
(他の所持者って違うクラスの人なんだよな……だから相談はできないんだよねぇ)
これはクロエに言われたことだ。
(よし。正攻法で、地道に行こう!)
ミーリアは継続のできる女子である。
裏技を使うのはやめることにした。
鑑定魔法を停止させ、豆電球魔法でデモンズマップを照らす。
羊皮紙にびっしり文字とマスが書かれている。
これから全部解くと思うと少々腰が引けてきてしまう。
(よーし! やるぞ!)
気合いを入れ直すミーリア。
全部で設問は五百個あった。まずは縦マス設問①へと視線を滑らせた。
(なになに、縦マス設問①は……銅貨百枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚。銅貨十枚で◯◯◯◯◯◯一枚。なるほど……早速わからない……)
どうやら地球に存在していたクロスワードパズルと同じ要領だ。
◯の部分にこちらの世界の文字が入るらしい。
ちなみに、ミーリアはこっちの世界の文字を日本語として認識している。視覚では謎の異世界語に見えるのだが、認識は勝手に日本語になるという理解不能な仕様だ。元のミーリアと本物のミーリアが混ざりあったせいかもしれないが、推測の域を出ない。
(じっくり考えるとゲシュタルト崩壊するからやめてと……。うーん、銅貨十枚で両替できる通貨って聞いたことないけどね。そういえば銅貨の商品を銀貨で買うと嫌な顔されるんだよなぁ……おつりが面倒くさいからね……)
縦マス設問①でつまずいてしまった。
しばらく考えても答えは浮かばない。
ミーリアは一旦保留にして、確定でわかる問題を探すことにした。一つわかれば文字が埋まり、他の問題のヒントになるからだ。
細かい文字に目を走らせる。
(縦マス設問②、北の大地を支配していたポンポンピェン族は大寒波でその数を激減させた。一族滅亡の危機を救ったのは◯◯◯草である…………一族の名前どんだけー。全然わからない。次っ)
(縦マス設問③、風とともに◯◯◯◯◯◯。え、これだけ? 去りぬって入れたいところだけど、こっちの世界に映画はないし違うに決まってるか……。あれかな。ことわざみたいなやつかな? わかんないから次行ってみよう)
こんな調子で上から順に設問を追っていくミーリア。
五十を過ぎても、残念なことにわかる設問がない。
縦マス⑤⑤でやっとピンとくる設問がきた。
(エルフの◯◯◯は意外と大きくて長い――笑える。……あっ、これ、アクビじゃないかな?!)
魔法袋からペンを取り出し、マスにアクビと書き込む。
ミーリアはティターニアのあくびを思い出し、ほくそ笑んだ。
(ふっふっふ、これは私しか答えられないんじゃないかな)
自分でも気づかぬ内に、ミーリアはクロスワードパズルに没頭していくのであった。
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