第14話 やることは決まった
「お姉ちゃんが言った、叱るってこと、私もやるよ! 私の魔法があればだいたいのことはできるから! 月の彼方まであの人を吹っ飛ばすとかもオーケーだよ!」
ビシィッ、と親指を立ててウインクを決めるミーリア。
クロエにはいつもの自然な笑顔をしていてほしい。大げさに明るい声を出しているのはミーリアの優しさであった。
「実は試したい魔法があるんだよね。足の裏から風魔法をジェット噴射して、人間ロケットを飛ばすっていう……一回自分で試したけど、制御不能に陥って、結局飛ぶには重力魔法がいいってなったんだけど――」
考え始めたら思考がどんどん逸れていく。
クロエが右手で頭を押さえた。
「ああ、ああ、ミーリア。お願いだからやめてちょうだい。物理的にロビン姉さまを飛ばしても解決にはならないわ。“じぇっと”とか“ろけっと”の意味はわからないけど、なんだか恐ろしい魔法な気がするわ……」
「ジェットは連続で気体とかが爆発して噴射されることだよ! ロケットは遠くまで飛んでいく物体のことだね!」
「ますますダメじゃないの。ロビン姉さまにやらないでちょうだいね。あれでも家族ではあるんだから……認めたくないけど」
クロエが首を横に振っている。
それを見て、アリアがくすくすと笑った。
「あ、アリアさんすみません。つい話に夢中になっちゃって……」
ミーリアが謝ると、アリアがいえいえと柔らかく否定した。
「お二人を見ていると本当に仲がいいのだなと思いまして……私もディアナお姉さまに会いたくなってきました」
「ディアナさんって、ツンデレ系ですよね」
「ツンデレ?」
「ツンツンしてるくせに、時々デレる人のことですよ。可愛いは正義!」
テンションが上がってハイな状態なっているミーリア。
「よくわかりませんわ……」
「この子、たまに変なのよ……そこも可愛いんだけどね」
アリアが困った笑みを浮かべ、クロエが愛し気に目を細めてミーリアを見た。
「そろそろあの人が戻ってくるかもしれないわね……私に考えがあるの。聞いてもらえるかしら?」
クロエが真剣な表情になり、ミーリアとアリアへ顔を寄せた。
二人は黙ってうなずいた。
「ミーリアの男爵叙勲パーティーに、ジャスミン姉さまを呼びましょう」
「ジャスミン姉さまを?」
「そうよ。パーティー会場でロビン姉さまを追い詰める作戦ね……ミーリアの魔法があれば色々なことができるわね……あんなこととか、こんなことも……ふふふ……」
(クロエお姉ちゃんが黒い笑み……クロエミお姉ちゃんになってるよ……)
美人が不敵な笑みを浮かべているのは空恐ろしい。
クロエの考える作戦がまったく読めず、ミーリアは姉が味方でよかったと心から思った。
「アリア、申し訳ないのだけれど、お兄さまにご協力願えるかしら? 家族のいざこざに公爵家を巻き込むのは恐縮の極みだけどね……」
「ぜひともご協力させてくださいませ。ミーリアさんには一生かかっても返せない恩義がございます。グリフィス家は喜んで協力いたします」
アリアが食い気味に言った。
グリフィス家の義理堅さは国内でも有名だ。
「ああ、ちなみになのですが……お二人にはお話ししておかなければいけないことがありまして……お耳をよろしいでしょうか?」
防音魔法が張ってあるのはわかっているが、アリアはミーリアとクロエに近くにくるように、お淑やかに手招きした。二人が耳を向ける。
アリアが話すと、ミーリアとクロエが驚いた顔を作った。
「それって……ええっ!」
「なるほど……」
ミーリアは驚き、クロエは納得したようにうなずいた。
「なので、そのあたりのことは安心です。何なら、最後に種明かしをしたほうが、ロビンさまは驚くかもしれません」
「そういうことね……」
クロエが新しい情報を得て、腕を組んだ。
ミーリアには彼女の頭脳が、スーパーコンピューターのごとく計算をはじき出している様が目に浮かんだ。
(作戦はお姉ちゃんにまかせよう。私は自分にできることをやろう)
決意したミーリアはもう迷わない。
一度決めると最後までやり通す。その粘り強さが、ミーリアの特長だ。
苦手なロビンの対処ということもあり、混乱していた部分が大きい。クロエが方針を示してくれるのは非常にありがたかった。
考え終わったのか、クロエが顔を上げた。
「貴族関係のことはお姉ちゃんとアリアにまかせてちょうだい。ロビン姉さまの過去の浮気相手を探してみるわ。あと、ジャスミン姉さまの婚約相手も探しておきましょう。姉さまには幸せになってほしいもの」
「オーケー! 大賛成!」
やるべきことが決まり、ミーリア、クロエにも笑顔が戻った。
その後、細々した内容を決め、三人は早々にパーティー会場を出ることにした。
ロビンの相手はクリスにまかせておけば問題ないそうだ。挨拶もせずに帰っていいのかアリアに聞くと、平気ですとの返答があった。グリフィス家は家族の絆が強いみたいで、ミーリアはちょっとうらやましく思う。
(私にはクロエお姉ちゃんがいるもんね! ジャスミン姉さまもアトウッド家から出ることを喜んでくれるといいけど……)
クロエとアリアに近づいてくる男たちに眼球固定魔法をプレゼントしつつ、ミーリアはパーティー会場を後にした。
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