第11話 条件反射
新年初投稿です。
今年もよろしくお願いいたします!m(__)m
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(ジャスミン姉さまを出汁にして王都へ来たのは確実だよね)
ミーリアは集音魔法と千里眼魔法を使いながら腕を組んだ。
(さっき、子爵次男があの人のことを“いとこ”って言ってなかった? てことは……ロビン姉さまは親戚のロビリアって設定で動いているのかな…………他人のふりして男探すとか、相変わらずやばいよ……)
アトウッド家にそんな人いたかな、と家系図を頭に浮かべると、脳筋領主アーロンの弟が村の西側に住んでいるのを思い出した。その娘がロビリアとかロビリアムとかそんな名前だった気がする。
(次女ロビンは悪名高いから、ロビリアを名乗っていると……そういうことか)
さすがにロビンにも、自分の現状を理解する脳みそはあるようだ。
ジャスミンと婚約するには、私も結婚させろと言っているところが、なんともロビンらしい。
こんな条件で了承する家があるのか疑問である。
(だいたいさ、ロビリアは騎士爵の娘でもなんでもないよ? アトウッド騎士爵家の親戚だけど、完全に平民だし、その辺の事情は貴族的にどうなんだろ? ロビリアが子爵次男坊と結婚するのは可能なのかなぁ?)
疑問が浮かんでくるミーリア。
ロビンの作戦には無理があるのではと思えてしまう。
すると、収音魔法にロビンの猫なで声が響いた。
『ジャスミンを本妻にしていただいて、わたくしを第二夫人とするのがいいのではないでしょうか? そうすれば、ジャスミンの面倒も見れますし、わたくしも安心でございます』
『そうですか……』
(そんな手があるとは……!)
ミーリアは貴族の恐ろしさを再認識した。
平民は本妻になれないが、妾なら問題ない。
これには子爵次男も納得なのか、うなずきつつ、ちらりとロビンの胸の谷間を見た。
(男ってバカなのかな……)
ミーリアはため息をついた。
『ところで、ドラゴンスレイヤーであるミーリア嬢とは仲がよかったのですか?』
子爵次男がロビンに聞いた。
『ええ、それはもう仲良しでしたわ。一緒にラベンダーを摘んだり、パンを分け合ったりしたものです』
(仲良しはすれ違いざまに頭を引っぱたくんですかねぇ?)
ミーリアは顔を能面のようにした。
もうツッコミを入れる気にもならない。
『そうなのですね? どんなお嬢さまなのでしょう?』
『それが……あまり頭のいい子ではないんです。いつもぼんやりしていて、口を開けて歩いていました。口の中に小虫が入ることも多々ありまして……』
『そ、そうですか……ドラゴンスレイヤー殿がそのような……』
(勝手に小話を捏造しないでよ?!)
ミーリアは憤慨した。
魔法で野いちごを浮遊させて口に放り込んだことはあるが、小虫が口に入ったりはしていない……と思う。
『わたくし、あの子がドラゴンスレイヤーの勲章をいただいたのが、少々腑に落ちないのです。ぼんやりした子がドラゴンを退治するなど……本当にできるのでしょうか?』
ロビンの発言に、子爵次男や周囲の男性陣は静まりかえった。
勲章の授与が間違いとはっきり言えば、クシャナ女王を否定することになる。
『ですので、あの子のことは、わたくしが面倒を見てあげようと思っております。魔法使いであるなら、人様のお役に立てることは間違いありませんもの。王都に出てきたのには、そういった意味もございますの』
『……そうだったのですね』
子爵次男が神妙な顔つきでうなずいた。
『はい。わたくしがジャスミン、ミーリア、両方とも面倒を見ますわ。ですので、ジャスミンの婚約相手さまは安心なさってくださいませ』
ロビンが満面の笑みを浮かべて男たちを見回した。
皆がロビンを魅力的な女性として見ているようだ。
目が悪いというジャスミンの生活をサポートしてくれ、しかもドラゴンスレイヤーの手綱も握れる。第二夫人として結婚するには優良物件。そんなふうに見えているらしい。
何より、女を二人娶るというのは男心をくすぐるようだ。
皆が勇ましい顔つきになってロビンを見つめた。
『……婚約相手を選ぶような真似をしてしまい、申し訳ございませんわ。ジャスミンのためを思ってのことです。ご容赦くださいませ……』
子爵次男相手に空気を読まず、よく言えたものだ。
ロビンにとって幸運だったのは、ミーリアは学院に入学したばかりで強引な婚約は厳しい。よって、狙いは四女ジャスミン。親戚になって外堀から埋める。これが貴族たちの共通認識であることだ。
皆から注目されているドラゴンスレイヤーの家族とあっては、子爵次男も不用意な発言はできない。
ミーリアはロビンの口の端が、ぴくりと上がったのを見逃さなかった。
(あの顔、絶対にジャスミン姉さまを結婚させるつもりないね……。あと、私からお金を巻き上げるつもりでしょ? 胡椒岩塩のときも、あることないこと母親に言いふらして、なんとか自分のものにしようとしてたし……あのときと一緒だよ)
ミーリアはアトウッド家にいた頃を思い出して、口の中が苦くなった。
軽いトラウマである。
(わかってきたよ。ロビン姉さまは私が去り際までぼんやりしてたから、アホだと思い込んでるんだ……。だから、強気に行動してるんだね)
ロビンの行動すべてがつながってきたように思う。
(整理しよう。えーっと……)
ミーリアはロビンの行動原理をまとめようと、魔法を切った。
視界が観葉植物の裏へと戻る。
(その1、ロビン姉さまは私をぼんやり七女でアホだと思い込んでいる。
その2、ジャスミン姉さまは王都に連れてきていない。
その3、自分をいとこのロビリアだと嘘をついている。
その4、結婚して、私を利用しようとしている。
その5、ジャスミン姉さまを王都へ呼び寄せる気はない。
どうだろ、こんな感じかな……?)
ロビンはミーリアをぼんやり七女だと思っているため、請求書払いをしたり、ロビリアに成り代わったりと、強引な手を使っているらしい。ミーリアに会えばどうにでもなる。そういう魂胆が見え見えであった。
(さて……どうやって王都からご退場願おうかな……)
今まで散々いびられてきた意趣返しをしようと、ミーリアはむうと下唇を突き出した。
向こうがぼんやり七女だと思い込んでいるのは大きなアドバンテージだ。うまく利用しない手はない。できれば自分の地雷で自爆させたいところだ。
(あの人がロビリアではないって否定できる材料を集めないとな。ジャスミン姉さまにも協力してもらうのがいいか……。というより、ジャスミン姉さまの結婚については、お手伝いしようと思ってたし、このままいい相手を探しちゃおう)
ミーリアにとってジャスミンは姉というより、同志に近い存在だ。
アトウッド家でロビンに物理的にいびられるのは、ミーリアかジャスミンのどちらかであった。そのため、それとなく二人でかばい合ってきた。
女学院に入学するまでは、決して誰にも自分が魔法使いと言ってはいけない、とクロエに念を押されていなければ、ミーリアはジャスミンに秘密を打ち開けていただろう。クロエほど大切とは言えないまでも、放っておける存在ではなかった。
(この地雷女がいなければ、すんなり婚約できたのに……)
ミーリアはジャスミンの長い前髪と、どこか幸薄く感じる笑みを思い浮かべた。
胸が締め付けられる。
王都に来てから自分のことで精一杯であったため、ジャスミンに対して申し訳ない気持ちが膨らんできた。
(あとでジャスミン姉さまにも会いに行こう)
ミーリアは下唇を引っ込めて、うんとうなずいた。
(ジャスミン姉さまの相手探しと、ロビン姉さまと関係のある貴族も知りたい……その辺はアリアさんとクロエお姉ちゃんに当たってもらうのがいいかな)
小さな魔法使いは意外としたたかである。
前世では誰も頼れる人はいなかった。
今では姉のクロエと、初めての友人アリアがいる。
(素の自分をロビン姉さまに見せるのはちょっと怖いけど……大丈夫……)
――パチパチパチパチ
ちょうど音楽隊の演奏が終わり、パーティー会場の皆が会話を止めて顔を上げて拍手をした。ダンスホールで踊っていた男女も笑みを浮かべて手を叩く。
「よし」
ミーリアはクロエたちと合流しようと、観葉植物の陰から出た。
そのとき、ロビンがたまたまミーリアのいる方向を見た。
(あっ……)
まずいと思ったときには遅かった。
ロビンはワイン片手にミーリアを二度見し、男性陣をかき分けてこちらにやってくる。
ミーリアのラベンダー色の髪は遠くからでもよく目立った。
(見つかったぁ……!!!)
「……やっぱりあんたね……」
険しい表情のロビンが見下ろしてきた。
「……」
ミーリアは条件反射で、ぼんやり七女バージョンへと自分を切り替えた。
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