第23話 互助関係
四色の花が彩る庭園のベンチに、ラベンダー色の髪をしたミーリアと銀髪のアリアが座った。
二人が座ることで周囲の色彩がさらに華やかになる。
だが二人はベンチに座り、「重力魔法を教えますね」「そうね……」と言ったきり無言であった。
(アリアさんの話しかけるなオーラが……なぜ……)
アリアは目を逸らしたままだ。
心の中で何かを葛藤しているように見える。
ミーリアとしては、これをきっかけにお互いのことを知れたらと思っていた。
小、中、高校と友人がいなかったミーリアにとって、二度目の人生では親友と呼べる友達がほしかった。
放課後に出かけてお茶をしたり、互いの家に遊びに行くなど、ごく当たり前の学生生活が憧れだった。父親にこき使われていたせいでそれも叶わず、すぐ手に届きそうな小さな幸せが、遥か遠くに感じていた。仲良さそうに談笑しているクラスメイトたちが羨ましくて、眩しかった。
新しい人生ではあきらめないと心に決めている。
だから、微妙な顔をされようとクラスでは挨拶を心がけ、初めて話しかけてくれたアリアとは縁を結びたかった。
思い返せば高校時代、何となくクラスメイトから距離を置かれていたが、自分から距離を詰めようとしたことはなかった。
(この世界では後悔したくないからね……)
転生したせいなのか、物事を前向きに捉えられるようになっていた。なぜかはわからない。以前の自分ならあきらめていたように思う。
彼女の美しい横顔をちらりと一瞥し、ミーリアは表情を引き締めた。
「では、試しに実演してみますね」
ミーリアはそう言って、魔法袋からダボラの羽を出して膝の上に置き、重力魔法で浮かせた。
こちらを見ていないアリアが我に返り、ミーリアを見て背筋を伸ばした。
「教えてくれるというのに……おかしな態度で申し訳ございません」
「いえ、いいんですよ。何かありましたか?」
「ええ……やはり、対価を払わずに教えてもらうというのは気が引けますわ」
ミーリアはダボラの羽のつかみ、魔法を切った。
「アリアさんのお姉さんを重力魔法で浮かせてしまったので、そのお詫びですよ? ディアナさんもそれでチャラと言っていたので。あと、上手く教えられるかわかりませんし」
「ですが……」
アリアは生真面目な性格をしているみたいだ。
それに、こうして話していても壁を感じる。
(何か手伝いをしてもらったほうが、アリアさんの気持ちも軽くなるかな?)
ミーリアはしばし考えて、デモンズマップを思い浮かべた。
前半の設問は知識系になるのでどうしても図書館で調べる必要がある。
放課後、図書館に入り浸っているが、調べる量が多すぎて①〜⑨⑨はまだ十個も埋まっていなかった。
「図書館で歴史などの資料集めを手伝ってくれませんか?」
「資料集め?」
アリアが大きな瞳を瞬かせた。
「はい。ど田舎に住んでいたので歴史とか王国のことに疎いんです。放課後は図書館で資料集めをして勉強してます。それを手伝ってもらう、というのはどうでしょう? その代わりに重力魔法をできる限り教えるという感じです」
アリアはしばし考えると、ミーリアを見つめた。
「……あなたが殊勝な勉強をしているのに驚きですわ。授業も見つからないように居眠りしていますし」
「それは……アハハ……春眠暁を覚えずですよ」
「なんですのそれは? また変なこと言って」
「地方のことわざです。はい」
アリアがふうと息を吐くと、うなずいた。
「いいですわ。その交換条件でいきましょう」
「はいっ!」
ミーリアは嬉しくなって笑顔でうなずいた。
アリアがそれを見て、口もとを強引に引き締めた。
「理解していただきたいのは、わたくしは遊びにこの女学院に来ているわけではありません。誰とも馴れ合うつもりもありませんし、魔法科で一位になることが目的の一つです――」
彼女の意思は固いみたいだ。
だが、その中には焦りとも悲しみとも取れる、何かが隠れているように見えた。
ミーリアは一瞬だけ見えたアリアの表情が、切迫していた過去の自分と重なった。さすがに無視できなくて、あまり踏み込んではまずいと直感する。前世の自分も、父親のことを触れられるのはイヤだった。
「とにかく、あまり馴れ馴れしくしないでくださいますか? それがこちらの条件ですわ。あなたはライバルなのですから」
「わかりました。互助関係でいきましょう」
アリアはミーリアがもっと食い下がってくると思っていたのか、あっさり納得したので肩透かしを食い、何度か瞬きをした。
「……それでは、あらためまして、よろしくお願い致しますわ」
「はい。よろしくお願い致します」
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