第14話 銀髪姉妹
デモンズマップの件は、しばらく様子見ということで落ち着いた。
話題はミーリアの魔法力に移った。
「ヴィー、ちなみになんだけど、ミーリアは規格外だから覚えておいてね。この子、本当に常識が通用しないから」
クロエが心配げに眉根を寄せ、ミーリアの背中に手を置いた。
「魔古龍ジルニトラを討伐するなんて……ああ、血の気が引くわ……」
「うーん……そんな大したことないと思うけどなぁ。私、師匠より魔力操作はだいぶ下手くそだし、ジルニトラも弱ってたから倒せただけだよ?」
ミーリアは変わらずお気楽な調子だ。
ジルニトラは絶好調だったが、猫型カウンター、爆裂火炎魔法、風刃――魔法三発で終わったのも事実だった。ミーリアから見て調子が悪かったと見えなくもない。
「へえ、そういうことだったの」
ヴィオレッタは妙に納得してうなずいた。
スパゲティで頬を膨らませている少女が、魔古龍を単独で撃破したとはどうにも思えない。やはり訳ありか、と得心する。
「ちなみにだけど、討伐のときはどんな魔法を使ったの?」
「えーっとですね……」
ミーリアはスパゲティを飲み込んだ。口についたソースをクロエが拭き取ってくれる。
「ありがとうお姉ちゃん。えっと、使ったのは猫型カウンター魔法と、爆裂火炎魔法、あとは風の刃ですね」
「……猫型カウンター? 爆裂火炎魔法?」
ヴィオレッタがシャープな瞳を開閉し、片眉を上げた。
彼女は魔法科三位の実力者だ。聞いたことのない魔法に首をかしげる。
「はい。猫型の魔法陣で相手の攻撃を受け止めて、猫パンチでお返しする魔法です。パンチパンチです。爆裂火炎魔法は爆破のベクトルを内側に収縮できる魔法です。初めて生物に使いましたけど、なんか凄い音がしました。ボカーンドキュ〜ンみたいな音です」
身振り手振りで説明するミーリア。
ヴィオレッタにはスパゲティの食べかすほども伝わっていない。
「クロエ……通訳をお願いしてもいいかしら?」
「ごめんなさい。私もわからないわ」
「ええっ、わかりませんか? あのですね、ジルニトラの口からですね、ビーム砲みたいのが発射されたんですよ。ビカビカ光ってるやつです。それを私は魔法陣で受け止めたんですね。で、猫パンチで顎にアッパーして、倒れたところに特大の爆裂火炎魔法を使ったんです」
これでどうだとミーリアは胸を張った。
「……こういうとき、なんて言うのが正解?」
ヴィオレッタがクロエへ視線を向けた。
「私も困るの。爆裂火炎魔法は危険な響きがするわね……。ミーリア、学院で使わないでちょうだいよ?」
勘のいいクロエがミーリアに注意した。
「使わないよ〜」
ミーリアが笑いながら返事をした。
すると、背後から可愛らしい声が響いた。
「あなた、また適当なことを言って煙に巻こうとしてるでしょう? ね、お姉さま。言ったとおりでしょう?」
ミーリア、クロエ、ヴィオレッタが振り返ると、銀髪ツインテールの美少女が立っていた。
魔法少女ことグリフィス公爵家三女のアリア・ド・ラ・リュゼ・グリフィスだ。
「クロエ、あなたの妹は変人みたいね」
さらにもう一人、アリアの後ろから、銀髪ツインテールの美少女が輪に入ってきた。
銀髪を太ももまで伸ばしているロングツインテール姿で、商業科のベレー帽をかぶっている。首のリボンは赤。薔薇がモチーフのローズマリアだ。
アリアの姉らしい彼女は、滑らかな白肌、整った輪郭、妖精が集めた蜜のように美しい緑の瞳をしている。まだ十二歳のアリアと違い、出るところはしっかり出ている体型だ。
彼女はアリアよりもさらにツンケンした様子で、じろじろとミーリアを見てくる。
(銀髪ツインテール姉妹! すごっ! 超絶美少女が二人っ。お姉さんもとんでもない逸材だよ)
なんの逸材なのだろうか。
ミーリアが瞳を輝かせていると、クロエがかばうように前へ出た。
「ごきげんよう、公爵家次女――ディアナ・ド・ラ・リュゼ・グリフィスさん。また私に
クロエが淡々と告げると、ディアナは眉間にしわ寄せた。
「公爵家次女のわたくしにそんな口の聞き方をしてもよろしくって? 弱小田舎貴族の六女様?」
「女学院にいる四年間は身分差は関係がないわ。何度言えばわかるのかしら?」
「学院を出てからが見ものですわよ。あなた、聞けば商家になりたいそうじゃない。わたしに楯突いてどうなるかわからせてあげますわ」
「人の夢を権力で邪魔する卒業生にあなたが初めてなるわけね。女学院卒業生の情報網は太くて広いわよ? 理不尽な行いをすればたちまち伝播されるでしょうね。それも見ものかしらね」
「不正などするものですか。正真正銘、正々堂々あなたを阻止すると言っているのです」
「どうぞご自由に」
(クロエお姉ちゃんに対抗してるのかな?)
銀髪ツインテール姉、ディアナがクロエにつっかかっている印象であった。
話が長くなりそうな予感のしたミーリアは、魔法少女とあだ名をつけたアリアに笑いかける。
笑顔を向けられたアリアは目を見開き、そっぽを向いた。
(きっと……きっと恥ずかしがり屋さんなんだね)
ミーリアはいいように解釈して、フォークでスパゲティの赤い具をぶすりと刺した。
「アリアなら、あの横断幕を浮かせるぐらいわけないわ。我が領地でも稀有な魔法の才能を持っているわ」
「ミーリアも同じよ。何時間でも横断幕を浮かせられるわよ。誰がなんと言おうとドラゴンスレイヤーなんですからね」
いつしか話題は妹自慢になっていた。
こうなるとクロエも引かない。
魔法科の学院生が交代で宙に浮かせている横断幕へ視線が移動する。
「ミーリア、それくらいできるわよね? ミーリア」
「ん、なぁに?」
「ほら、あの横断幕を魔法で浮かせることよ。できる?」
「できるよ」
スパゲティの赤い具を口に運び、うなずきながら咀嚼するミーリア。
そして彼女は固まった。
「アリア、自称ドラゴンスレイヤーと勝負なさい」
「わかりました、お姉さま」
銀髪姉妹がそんなやり取りをした瞬間、ミーリアは跳び上がった。
「からぁぁぁああぁああぁあいッッ! 水ッ! みずぅぅぅぅぅぅぅううぅぅぅっ!」
「ミーリアッ! ペペロの実を食べたの?!」
クロエが大慌てで水を取り、ミーリアに飲ませる。
ペペロの実は直接食べると死ぬほど辛い。一般常識である。
「……」
「……」
「……」
アリア、ディアナ、成り行きを見守っていたヴィオレッタはアトウッド姉妹を見つめ、ミーリアが本当に魔古龍ジルニトラを討伐したのか疑問に思うのであった。
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