第26話 魔法合戦


 特大の魔法陣が現れたかと思うと、ドライアドが躊躇なく魔法を行使した。


「――鋼鉄の枝撃ちアイアンブランチ


 空中に出現した枝がぎゅるぎゅると束になって回転していき、大きな錐のように変形した。さらにそれが高速回転し、ミーリアに向かって発射された。


「本気で撃ってますよね?!」

『ミーリア! 状況は見えないけど、とにかくカウンター魔法よ! あなたのカウンター魔法を破壊できる魔法使いはほとんどいないわ!』

「信じますよ、その言葉!」


(猫型魔力防衛陣――魔力充填……カウンター魔法発動……!)


 猫の顔をした巨大魔法陣が現れた。

 例の、猫の顔に複雑な図形が描かれた、可愛いのかスタイリッシュなのか判断のつかない魔法陣である。


「くっ――」


 鋼鉄の枝撃ちアイアンブランチを受けとめた。


 魔古龍ジルニトラの一撃よりも重い。


 接触部分から金属が擦れるような音が響き、鋼鉄の枝撃ちアイアンブランチが駒みたいに魔法陣の上で踊る。


(魔力注入! 弾き返せ!)


 カウンター魔法へ魔力を込めると、鋼鉄の枝撃ちアイアンブランチがくるりと反転し、ペルシャ猫へと変形してドライアドへ飛びかかった。


 まさか弾かれ、訳のわからない猫カウンターをされると思っていなかったドライアドは、さっと腕を振って複数の魔法陣を空中へと重ねる。


「――葉の魔法盾リーフシールド

「にゃああん」


 ペルシャ猫が魔法盾に猫パンチをお見舞いする。


 パリンと盾が壊れ、続けざまに「にゃん、にゃん、にゃあん」と連続で魔法盾を破壊した。


「――ッ!」


 葉の魔法盾リーフシールドの防御をすべて抜かれ、ドライアドが心底驚いたように目を見開く。咄嗟に魔法を展開するが、葉の魔法盾リーフシールドの維持に魔力を練っていたので発動が遅い。


「にゃああん」


 ペルシャ猫がぺしりとドライアドを叩いた。


「あっ――」


 ミーリアが言うのと同時に、ドライアドが吹っ飛んだ。

 ぴゅーと効果音がつきそうな飛びっぷりで、回廊の奥へと消えていく。


「にゃあん」


 カウンター魔法のペルシャ猫はぺろりと自分の手を舐めて、空中へと霧散した。


(……あっ……れぇえええ~?)


 ミーリアは小さくなっていくドライアドを見て冷や汗が流れた。


「お、おかしいな。カウンター魔法を使っただけなんだけど」


 ドライアドが視界から消えるまでばっちり目が合っていた。気まずさマックスである。


『ミーリア、どうしたの?! 次の攻撃に備えなさい!』


 気を抜くな、とティターニアが叫ぶ。


「師匠、あの、カウンター魔法でドライアドさんが吹っ飛びました……」

『……なんですって?』

「だから、一撃で吹っ飛んでしまいました」

『……常識外れの魔法にびっくりしたのかしら……私でも互角だったのに』


 ティターニアと話しているうちに、ドライアドがふわふわと飛んで戻ってきた。


 ミーリアは駆け寄ってドライアドの顔を覗き込む。見たところ外傷はない。うまく魔力で全身をガードしてくれたみたいだ。


「あの、大丈夫ですか?」

「……少々効いた。変な魔法」

「変、ですかね……?」


 ドライアドはミーリアをじっと見て、無表情に手を上げた。


「まだ、終わってない――」


 そう言って、ドライアドが魔法陣を展開。枝の矢を無数に作り出して放った。


(まだやるの?!)


 ミーリアはまたカウンター魔法を使う。


 なんなく弾き返し、ドライアドへ猫パンチが飛んでいく。


 ドライアドは猫の風体に惑わされず、猫パンチをかわして、魔法を次々に放った。

 ミーリアはカウンター魔法に専念して、波状攻撃を防ぐ。


 魔法の射出音、猫型防衛魔法陣が防御する際に発生する金属音、猫の鳴き声が枝の回廊にこだまする。いつしか他のドライアドのギャラリーが集まっていて、皆が無表情にミーリアと少女の戦いを見つめていた。


(いつ終わるんですかね、これ?!)


「師匠! こんなに長いんですか?!」

『私のときは五回ほどやりとりして終わったわ!』

「じゃあなんで私はこんなに――カウンター!」


 ミーリアが魔力を込めると相手の魔法が猫へ変化し、魔法陣から三毛猫が飛び出した。


 さらに攻防が続くと、ドライアドがぴたりと魔法をやめた。


(終わった……?)


 ミーリアは両手を下ろす。

 彼女にじっと見つめられ、ごくりと息をのんだ。


「あなたから、攻撃して」

「え? 私から?」


 思わず声が裏返ってしまう。

 ドライアドが何を考えているのかまったくわからない。


「きて」


 そう言って、彼女は葉の魔法盾リーフシールドを大量に生成し、展開した。


 魔法陣を変形させて構築した葉の魔法盾リーフシールドは半透明に透けている。


 それでも量が量なので、ドライアドの姿がほとんど見えなくなった。


「えっと、いいんですか?」

「強いやつでお願い」

「……かなり危ないですけど……?」

「私はドライアド。問題ない」

「師匠にも止められている魔法なんですけど……」

「私はドライアド。問題ない」

「魔力を圧縮して高出力で撃ち出すヤバめな魔法ですけど……」

「私はドライアド。問題ない」


 平坦な声には不退転の意思が込められている。


「ああっ! もうどうなっても知らないからね!」


 ミーリアは魔力を胸に充填していった。


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