第16話 ジェットロケット設計図
ミーリアが取り出した用紙には、宝石がごてごてとついたハイヒールが書かれていた。
「靴?」
「そうです。靴にジェットロケット魔法を付与して、この宝石っぽい魔石に“GPS追尾”と“魔法燃料”の機能を付与しておきます」
「ほうほう」
「GPSをポイントごとに空中へ設置して、王都からアトウッド家まで、自動でハイヒールが装着者を運ぶ仕様です」
ミーリアは小さな指で設計図を指さした。
ハイヒールには宝石に見せかけた魔石が二十個ついており、GPSを設置したポイントで自動切り離しされる仕組みだ。
ロケットが宇宙へ飛ぶ際、何度か燃料を切り離すところから着想を得ているらしい。
(王都からアトウッド家まで①〜⑳番の目標をGPSで作る。ハイヒールが①に到着したら、①番の魔石が外れて、②番の魔法燃料に切り替わる。②番の魔石は②の目標地点へ――それをどんどん繰り返せば、地雷女ロビン強制輸送魔道具、自動操縦ハイヒールジェットロケット魔法の完成……!)
魔法はイメージ力だ。
前世に電気屋のテレビコーナーで見た、宇宙を舞台にした映画が生きている。
(順々に切り離していけば魔石の魔力不足もカバーできるし!)
テレビコーナーさまさまであった。
「面白いこと考えるわねぇ〜。でもこれだと、地雷女の身体がバラバラになるわよ」
ティターニアがしれっと恐ろしいことを言う。
「飛ぶ前に防護魔法を直接かけますよ」
「それがよさそうね」
「問題は魔石をどうやってハイヒールにくっつけるかと、魔石の大きさですね」
「魔石は私が提供するわ。こんな面白い実験、他にないもの」
ティターニアは昼食そっちのけで、設計図に釘付けだ。
やはりエルフは魔法に熱中する種族であった。
ミーリアが料理をテーブルの端に寄せ、自分の持っている魔石を魔法袋から出した。
「私もそれっぽいのは持ってるんです。アダマンタートルの魔石ってどうでしょうか?」
「あー、それだとちょっと大きくない? 私の持ってるレインボーティンカーウィスプの魔石を使いなさいよ」
そう言いつつ、ティターニアが魔法袋をポケットから出し、無造作にテーブルへ魔石を転がした。
虹色にキラキラ輝いている魔石だ。
ミーリアの出したアダマンタートルの魔石は灰色で、重厚感のある渋い魔石である。
レインボーティンカーウィスプの魔石のほうが宝石らしく見える。
がめついロビンのことだ。宝石が二十個ついたハイヒールだと勘違いすれば、喜んで履くだろう。
「魔力感知――なるほど、なるほど、いいですね! あ、でも、これってすごく貴重なものじゃないんですか……?」
「いいのよ。使い道がなかったし」
「でもなぁ……」
(かなり貴重じゃない? 二年間魔物を狩ってきたけど、こんな綺麗な魔石、見たことないよ)
遠慮しているミーリアを見て、ティターニアは笑みを浮かべた。
「師匠からの贈りものよ。黙って受け取りなさい」
「そうですか……じゃあ、遠慮なく使わせていただきます!」
ミーリアは指でつまんで太陽に魔石をかざした。
キラキラと光を反射させている。
「ハイヒールに魔石を付けるのは私がやっておくわ。ミーリアはお姉さん――ジャスミンだっけ? あなたはそれを捕まえて早く王都に持っていきなさい」
「いや、物みたいに言わないでくださいよ……。あと、それについても相談したかったんですけど、私の飛翔魔法で人を運んでも問題ないですよね?」
「防護魔法をジャスミンに使えばいいじゃない」
「あ、そうか」
「高いところが怖いなら、板の上にでも乗せて移動すればいいのよ。で、板ごと飛翔させればいいわ。今のミーリアなら余裕でしょう」
「そうですね!」
ジャスミンは手厚く送迎し、ロビンはジェットロケットである。
結構な差だ。
「んん? ミーリアあなた……」
何かに気づいたのか、ティターニアが自分の両目に魔力を可視する魔法をかけた。
サーモグラフィーのように魔力を色付きで可視できるものだ。
「は? ええっ……魔力が増えてる……?」
ティターニアはちょこんと椅子に座っているミーリアを二度見した。
「ただでさえ多かった魔力量が増大してるわよ。三割増しぐらいね……あなた何かあったの?」
「え……? 本当ですか?」
「いつもと違った感覚はない?」
「そういえば、転移魔法の消費魔力が少ないなーとは思ったんですけど……」
「それ、魔力の最大値が増えたからよ」
ティターニアはミーリアの身体に渦巻いている魔力を見て、喜ばしいことだけど、量が量だけにどうしたものか、と思案した。
小さな身体の中でドラゴン十数匹分の魔力がゆっくりと循環している。地底を流れる大河を思わせる底知れなさを感じ、ティターニアは何度も瞬きをした。
「この子、そのうち時空を歪ませたりしないわよね……」
空恐ろしくなってきて、独り言つぶやくティターニア。
「そんなに増えたんですか? うーん、心当たりは全然ないんですけど……。ま、多いに越したことはないですね! よかったです!」
「まあ、それはそうだけど……。うん、そうね!」
えへへ、と嬉しそうにしているミーリアを見て、ティターニアは考えるのをやめた。
この子、本気になったら隕石を降らせて周囲一帯をクレーターにできるんです。だから変なこと吹き込まないでください、と言って回るわけにもいかない。
出逢ったときから規格外の子だ。
この先、どうなろうとも不思議ではない。
あと、八歳から施してきた道徳教育を信じようと思う。
「ミーリア。魔法は人のために使いなさいね。約束よ。約束」
「はい! 悪いことには使いません!」
「いい子ね。本当にいい子でよかったわ」
ティターニアは母なる世界樹に感謝をし、ミーリアの頭を撫でた。
それから、二人は中断していた昼食を済ませ、ティターニアはハイヒールの魔改造、ミーリアはアトウッド家へと向かう運びとなった。
(正面から行くのはいやだから、こっそりジャスミン姉さまと会おう)
「師匠、いってきます」
「いってらっしゃい。地雷女って、足のサイズ大きいのね」
ティターニアがミーリアから預かったハイヒールを手に持ち、しげしげと見つめている。
「昨日、あの人が泊まっている宿から拝借してきたんですよ。GPSをくっつけて、いつでも場所はわかるようにしてますからね」
「あなたのお金で買ったものだから……拝借じゃなくて返却させた、じゃない?」
「そうかもしれません」
二人は笑い合って、うなずいた。
「では、いってきます」
「はーい。気をつけてね」
ミーリアはティターニアに手を振り、飛翔魔法を使って空を飛んだ。
目指すはアトウッド家だ。
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