第37話 面の皮が分厚い人
ロビンは出席している女性にこれでもかと流し目を送りながら、ホールを闊歩する。
胸を腕に押し付けられている貴公子クリスは微笑を浮かべ、何も言わずにまっすぐミーリアのもとへ向かってきた。
(きたっ! 打ち合わせ通りに……!)
ミーリアは隣にいるクロエに目配せをすると、意を得たとクロエがうなずく。
ロビンはミーリアをぼんやり七女と思い込んでいるため、ジャスミンの登場後にその事実を伝える算段になっている。
(私は黙っていればオッケーと)
ミーリアは自信満々にカツカツとハイヒールを鳴らして歩いてくるロビンを見て、苦笑いになりそうな頬の筋肉を気合いで制御した。
ハイヒールには、一見すると宝石に見える魔石が煌びやかについている。
ミーリアは瞳に魔力を込めてハイヒールを見て、GPS機能が定着していることを確認し、安堵した。
(問題なしだね……。あとは……ロビンの悪事をバラシてお帰りいただこう。反省するなら王都で働き口を見つけてあげよう。まあ、態度によるけど……)
私もぼんやり七女だって黙っていたしなぁ、とミーリアは思う。
「平民の分際で生意気ね」「ロビリアとかいう女、平民でしょ?」「クリスさまにとっては女性は全員守るべき対象さ」
周囲からそんな声が漏れる。
ロビンはロビリアになりすましており、ミーリアの従姉という設定だ。
「ドラゴンスレイヤーの従姉だぞ。あまり大きな声を出すな」「アトウッド男爵の不興を買うぞ」
ミーリアとお近づきになりたい貴族たちは、ロビンとクリスの関係に対して大っぴらに発言するのを控えている。だが、目と耳は明らかにミーリアたちへ注目していた。
ロビンが主賓席の目の前まできて、軽く礼をした。
クリスがやんわりとロビンの腕をほどいて自分の主に挨拶するかのように、恭しく胸に手を当てる。彼の瞳は「これから楽しみですね」と愉快げに煌めいていた。
(次男クリスさん、イケメンだけどめちゃめちゃ変わった性格ってアリアさんが言ってたもんね。なんか、いたずらとか好きそう……。打ち合わせもノリノリだったし)
昨日、パーティーの段取りを話した際も、クリスは嫌な顔をせずロビンの相手役を引き受けてくれた。
「ごきげんようミーリア。あなたの従姉のロビリアが、ロビリア姉さまが来たわよ」
何も知らないロビンが顎を上げて、得意げに言った。
従姉のロビリアを強調している。
(いや、わざわざ二回言わないでも。あと、正体をバラすなよって猛烈な気迫を感じるんですが……)
ロビンの目はまったく笑っていない。
「ごきげんよう」
ミーリアはそれだけ言って返事をした。
ぼんやり七女モードだ。
「ふふっ、あなたがドラゴンスレイヤーなど、どんな奇跡が起きたのかしらね」
ミーリアがまぬけだと再確認できたロビンは、気をよくしたのか肩をすくめてみせた。
「ロビリア姉さま、ごきげんよう。クロエですわ」
横にいたクロエが立ち上がり、ミーリアの座っている隣へやってきた。
「あらクロエ、久しぶりね。まあ、まあ、そんなに大きくなって……男を釣るにはさぞいいでしょうねえ……」
ロビンが卑猥な視線をクロエの胸部に送る。
クロエはわずかに顔をしかめ、すぐに表情を真顔に戻した。
「品性のなさは次女のロビン姉さまとそっくりですね? 村でもそっくりさんと言われていましたもの」
「あらあら、私がロビンみたいな言い方じゃないの。あまりあの人のことは口に出さないでくれる?」
「ジャスミン姉さまのお世話、本当にありがとうございました。ミーリアとも仲がいいんですよね? 両方とも初耳ですけれど」
「あなたもどれだけわたくしが献身的にお世話をしていたか見ていたでしょう?」
「献身的……」
クロエは失笑して鼻から息を漏らし、反省する気ゼロだなと、あきらめ半分に目を細めた。
「人は嘘をつくとき、目が右上にいくと聞いたことがあります。お気をつけくださいませ」
「ふんっ。あなたが何を言いたいのかわからないわね」
「別に理解してもらおうとは思っておりません。ミーリアに比べて頭の回転が悪いと思いますから」
「なっ……」
ロビンが眉間にしわを作って主賓席に身を乗り出し、クロエに額がつきそうになるほど顔を寄せた。
「私がロビンだとバラしたら……ただじゃおかないわよ」
射殺すような視線でロビンがクロエを睨む。
(怖い怖い! 目が怖い!)
「まあ、そうですね……“今は”あなたがロビンだという確実な証拠がないので、黙っておきます」
「そう。ならいいわ」
ロビンは脅しが効いたと思ったのか、クロエから顔を外し、クリスへと顔を向けた。
「申し訳ございません、クリスさま。女同士の秘密の話をしておりました」
媚びるようなやや高い声でロビンが言う。
「構いませんよ」
クリスはにこりと笑い、ロビンに見えないようミーリアとクロエにウインクを飛ばして一礼した。
「ロビリア嬢、申し訳ないけど私はサンジェルマン伯爵に挨拶をしてくるよ」
「え? ではわたくしもご一緒いたしますわ」
「それにはおよばないよ。サンジェルマン伯爵とは男同士の話があるからね」
「男同士の会話には私も興味がございますわ! 父とも仲が良かったので、お手伝いできることがあると思います!」
ロビンが精いっぱい可愛らしい声を出し、胸に両手を当ててみせた。
(うへぇ……空気読めないってこれのこと言うんだね……)
ミーリアは頬の筋肉がピクピク動いた。
「ロビリア嬢、いい子だから待っていて。あとで誘いにいくから」
クリスが砂糖にはちみつをかけたような甘ったるい笑顔を向けると、さすがのロビンも「わかりましたわ」と承諾した。
(イケメン貴公子のスマイルすごぉおおぉぉっ! 地雷女を黙らせたぁぁ!)
ミーハーなミーリアは脳内でクリスに拍手を送る。
「君と話したい人たちもいるみたいだしね」
クリスが目を横へずらすと、未婚の男性がロビンへ熱い視線を送っていた。
「そうですわね。では、わたくしはあちらの殿方たちのお相手をいたしますわ」
ロビンはそう言うと、クリスに近づき肩に手を置いた。
「必ず……必ずあとで迎えに来てくださいね……」
芝居がかった仕草と声に、ミーリアとクロエは思わず目線を合わせて、げー、と眼球を上に向けた。この辺は息がぴったりの姉妹である。
クリスがサンジェルマン伯爵のもとへ行き、ロビンが得意げに男性陣の輪へ入っていくと、第二部開始の演奏が鳴り響いた。
ホールの中心部で男女が楽しそうにダンスを踊り始める。
高級魔道具を使った照明にレディたちの宝石が反射して輝き、ホールのムードが一気に明るいものへと変わった。
数曲演奏がされると演奏がぴたりと止まり、ラピスラズリ庭園宮の司会進行のタキシードを着た男が、ホールの中心部へと歩み出た。
「主賓であるミーリア・ド・ラ・アトウッド男爵から、ご親族のご紹介がございます」
いよいよ、ジャスミンの登場となった。
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読者皆様へ
お世話になっております。作者です。
おかげさまで「転生七女の異世界ライフ」の②巻が発売となります!
これも一重に皆さまの応援のおかげです。
誠にありがとうございますm(__)m
②巻は第2章にあたる部分なのですが、
大幅(70000字ほど)加筆修正いたしました・・・!
WEBとまったく違う流れになっておりますので、
書籍版は、より物語を楽しめる仕様となっております!
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↓
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発売日2021年6月25日
違う第2章が読みたい!!!
という方はぜひお手に取ってくださいませ~。
個人的には加筆して読んで大満足しました・・・!笑
それでは引き続き、本作をよろしくお願い申し上げます。
作者
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