第43話 金貨十二万枚と焼き肉について
クシャナ女王の一声で財務官と小姓が金貨を運んでくる。
ミーリアの目の前にテーブルが置かれ、銀のトレーに金ピカの金貨が積み上げられていく。
(きんかじゅうにまんまい……じゅうにまん……?)
隣にいるクロエも完全にフリーズしている。
「お姉ちゃんどうしよう……お姉ちゃんがもらってくれる?」
「冗談はやめてちょうだい……」
ミーリアはこの期に及んでクロエへ金貨爆弾を誤爆させようとしている。
さすがに本人の目の前では無理だ。
「続いて、魔古龍バジリスク討伐を評して
呆然としている二人をよそに、クシャナ女王が宣言した。
小姓とメイドが素早くやってきて、ミーリアの制服の胸元へ
ミーリアはされるがままだ。
龍を雷で貫いた銀色細工の
「うむ。
「ありがたき幸せにございます」
もはや、そう言うしかない。
「さて、バジリスクの査定もしておかねばな。状態がよければ買取金額を引き上げよう」
「あ、ありがとうございます」
(なんかすごい勲章が二つ……金貨いっぱい……目立ちまくり……)
そんなことを考えながら、ミーリアは半ば放心状態でバジリスクを取り出す。今度は頭と胴体すべてだ。悔しそうな顔つきで絶命しているバジリスクが再び登場した。重力魔法で浮かせるのも忘れない。
王宮魔法使いのダリアが壇上から降りて、縁無し眼鏡をくいと上げた。
「首の肉がないな。ミーリア・ド・ラ・アトウッド男爵、どうしたのだ?」
初の男爵呼びに困惑するミーリア。
やはり芋しか連想できない。
「首の肉は私が取りました。美味しいと言われたので……」
「そうか! では、半分譲ってもらえぬか? 私が私財で買い取ろう」
「いえ、売りません」
ミーリアが速攻で返事をした。
肉のことになると食い意地が張っている。目上とか年上とか一気に関係なくなった。
「なんだと? そういわずに頼む」
「ダメです」
「三分の一、いや四分の一でいい。バジリスクの首肉を食べてみたいのだ」
食い下がるダリア。
彼女も食通として知られている人物であった。
「自分で味を確認してからならいいです。食べる前はダメです。美味しかったら焼き肉リストに入れるので譲れません」
ぽわっとしていたミーリアがここにきて一番ハキハキと受け答えする。
ダリアや女王がちょっとばかり驚いた。
「ミーリアよ、その焼き肉とはなんだ? 肉を焼くのか?」
クシャナ女王が瞳を鋭くして聞いた。
ミーリアにとって特別な思い入れがあるものだと察したらしい。百万人に一人の逸材である魔法使いの趣味嗜好を知っておこうという腹積もりのようだ。
「ミーリア、やめておきなさい。あまり人様に話す内容ではないわ」
クロエがやんわり止めに入った。
食い気の多い女子と思われるのはどうかと思ったのだ。
「大丈夫お姉ちゃん。ちゃんと説明するから」
「そういう意味じゃ――」
「はい。焼き肉というのはですね――」
ここからミーリアの説明が始まった。
語ること十五分。
ダリアが心から興味を持ち、クシャナ女王の琴線にも触れた。
「――という、贅沢の頂点が焼き肉なのです」
「ふむ……おもしろいではないか。焼き肉パーティーとやら、招待しなさい」
「私もだ。絶対に呼んでほしい。そうだ、招待してくれたら、私が編み出した破壊魔法を伝授しよう」
女王が参加表明し、ダリアは誰にも教えたことのない魔法を対価にしてでも参加したいらしい。
クロエが心配そうな顔で様子を見ていたが、やがてあきらめたのか、手で額を押さえている。
「そのときが来ればいずれ」
ミーリアが真面目な顔つきで言った。
気分は焼き肉大使である。
(自信を持って焼き肉ができるとわかったら誘おう! まだまだ足りないものばかりだしね。タレもお肉も全然ないからなぁ。王都へ買い物に行きたいよ)
ミーリアはここが王城だと忘れて、ジョジョ園で食べた焼き肉を思い出していた。
霜降り肉、タン、ハラミ、カルビのランチセット。デザートに杏仁豆腐がついてきた。最高だった。鼻をぴくぴく動かせば、炭火に焼かれる肉の匂いが鼻孔をくすぐる。記憶力がいいのか、かなりの再現度だ。
(どうせならこの世界のお肉を全部集めたいよね。タレも開発したいし)
「査定に話を戻そう」
クシャナ女王が言った。
気づけば財務官や魔物素材のエキスパートがバジリスクを検分していた。
財務官の一人に査定結果をもらったクシャナ女王が、メモに目を落とした。
「ふむ。バジリスクは金貨十一万枚で買い取ろう。鱗の状態は最上級。内蔵にも傷がない。首肉があればもっと値段は上がったな」
小姓が金貨をミーリアの前に追加し始めた。
それと引き換えに、ダリアがバジリスクをすべて魔法袋へと回収する。
ミーリアは現実に引き戻された。
「パーティーと言えば、そなたも男爵だ。叙勲のパーティーを開催せねばならんぞ。グリフィス公爵に聞くがよい」
「パーティー、ですか?」
「アトウッド領にいたそなたにはわからんだろうな。参加する皆には、多少の無礼講は許すようにと言い含めておく」
「よくわかりませんが、わかりました」
「よろしい」
クシャナ女王が斜め上に伸びた眉を、少し下げた。あどけないミーリアの顔を見ていたら、思うところが出てきたようだ。
お気に入り登録しただけあって、ミーリアが心配らしい。
「賞金で金貨二万枚か……規定とはいえ……ふむ、魔古龍を二匹退治した報酬としては少ないか。よし、王都にある屋敷をそなたにやろう。財務官、女学院から近い空き家を探してミーリアとクロエの名で登録しなさい。寮だけでは不便であろうからな」
クシャナ女王がさらに褒美を追加した。
財務官が渋い顔をしているが、功績に見合った褒美なので何も言えない。
「ああ、ミーリアは一年生か。確か一年生は通年で寮住まいがルールであったな。ではクロエ、そなたが寮と家を行き来して住むがよい」
「承知いたしました」
話をいきなり振られるのに慣れたクロエが一礼した。
ミーリアは勲章と爵位と金貨十三万枚、ついでに家もゲットした。
(あとで整理しよう……もうよくわからないよ。金貨、魔法袋にしまっておこ……)
「では、話はこれで終わりだ。ご苦労であった」
クシャナ女王が言って、謁見は終了となった。
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