第31話 降参


 ミーリアは宙に浮遊し、塗料をスカートから滴らせ、胸の中心部へ魔力を充填させていく。

 下半身は塗料でずぶ濡れだ。


(爆裂火炎魔法だとアリアさんに被害がいくかもだからね……師匠に止められてるけど……あの映画で観た魔法で……)


 迷いが晴れたミーリアは今までにない集中力で魔力を操作する。


(魔力変換――胸部充填――圧縮開始……)


 胸部中心部へ魔力の光が集約していく。


『少女よ話を聞いているか? 謎は解けたからだな――魔法障壁を我が――』

「アリアさん、なるべく離れてください」

「承知しましたわ」


 新しい魔法を使うとわかったアリアが即座に浮遊し、後退する。


 ミーリアは未だかつてないほどに張り切っていた。

 早く障壁を破壊して亡霊を退治し、アリアと合流することで頭がいっぱいだ。


 視線を向けると、アリアと目が合った。

 恥ずかしげに微笑むアリアを見てミーリアは大きくうなずいた。友達、最高である。


『少女よ聞いてほしい。これから魔法障壁を――』

「そこな亡霊! 成敗する!」


 祖母の影響か、古臭い常套句を言うミーリア。

 自分の胸元を魔力タンクに見立てて膨大な魔力を集約させ、さらに自らの手のひらへと魔力エネルギーが移行するようにイメージする。


(両手への魔力連結……成功…………イメージを崩さないように……もっと魔力をタンクへ……)


 キイィィィン、と不可思議な音を響かせてミーリアの胸部に光が集まる。


 莫大な魔力が集結していることに魔術亡霊マジックゴーストがドクロを震わせ、ふわふわと後退し始めた。亡霊は悟った。この魔法、我、一撃で滅す、と。


『待ってくれ少女よ――我はデモンズに頼まれただけで――魔法兵士を試すだけの試験官というかそんな存在で――』


 集中しているミーリアにはまったく聞こえていない。

 アリアが見たことのない魔法に冷や汗を流した。


「……なんて魔力ですの……」


(充填率――――百パーセント)


 ミーリアがイメージしているのは、かつて電気屋のテレビで流れていたSF映画の主人公が手のひらからエネルギービームを出す姿であった。高エネルギーで敵を貫通する攻撃方法で、電力を魔力に見立てて再現している。胸に一度魔力を集めたのはその主人公がそうであっただけであり、再現度を上げるためで、見ていないものを想像するより、見ているものを想像したほうが遥かに実現性が高いからだ。


『――待ってくれないか……いや、申し訳ない――しばし待って――』


 魔術亡霊マジックゴーストが透明な骨だけの腕を前へ出すと同時に、ミーリアが右手を突き出した。


「いけっ! 貫通魔光線マジックレイ!」


 ミーリアの小さな手のひらから魔法による光線が放たれた。

 集約させた魔力が膨大なため、ドンッ、という射出音がし、ミーリアの右手が跳ね上がった。


 貫通魔光線マジックレイは分断していた魔法障壁に衝突し、わずかに軌道を逸らすも減衰なく貫通して突き抜けた。


『――!?』


 浮かんでいた亡霊のあばら骨をかすめ、貫通魔光線マジックレイが部屋の壁にぶち当たり、さらに壁をも貫通して物質が溶解する低音を響かせて消えた。貫通魔光線マジックレイが通過した箇所が、溶解して赤くなっている。


 壁を限界まで貫通したのか、迷路の端まで穴が続いていた。

 ちなみに、実体のない亡霊にも魔法攻撃は有効だ。


「外れっ! もう一発!」

『待って――待つのだ!』


 ミーリアが今度は左手を突き出す。


 ドン、という音とともにミーリアの左腕が反動でかち上がる。貫通魔光線マジックレイが波打っていた壊れかけの魔法障壁に衝突し、破壊――貫通して亡霊のドクロ頭をかすめた。


 高エネルギーに耐え切れなかった魔法障壁はガラス窓が割れるような音を立てて、崩れ去った。

 魔法障壁がボチャボチャと塗料の池に落ちていき、原型を保てなくなり霧散する。優秀な魔魔法使い十人がかりでないと壊せない魔法障壁が、たった二発の魔法で消えた。


「ミーリアさん。さすがですわ!」


 アリアが浮遊魔法で飛んでくる。


「アリアさん、危ないので私の後ろへ!」

「わかりました」


 笑顔でうなずき、アリアが背後へ回る。


「すごい魔法ですっ。とてもカッコいいです」

「そうですか? SF映画……じゃなくて、ちょっとイメージしたらできるようになりました」


 満更でもないミーリアが胸部と両手を光らせたまま、振り返って笑う。

 亡霊は霊体なのに顔面蒼白であった。ドクロも色が変わるらしい。


 ミーリアが浮いたまま、右、左、と手を突き出し、貫通魔光線マジックレイを予告なしで撃ち込んだ。


 ドン、ドンと魔光線が放出され、亡霊に殺到する。


『――!』


 己の勘で身体をひねり、亡霊が貫通魔光線マジックレイを回避した。

 ダメージを負わなかったのはただの幸運である。


 亡霊はミーリアをやべえ女子だと認識し、両手を振って空中土下座に移行した。百年前に無茶を言われたデモンズより危険な存在かもしれないと動揺が隠せない。


『降参! 降参である! 撃たないでくれ! 頼む!』

「ん……?」


 右手を振りかぶっていたミーリアがぴたりと腕を止めた。


『我はデモンズに言われてそなたらを試しただけだ――害する気持ちはない!』

「そうなの?」

『そう……そうなのである!』


 貫通魔光線マジックレイで溶解した壁が塗料に落ちて、じゅわりと音を上げた。

 亡霊はよりいっそう深々と土下座をする。


「本当かなぁ……」


 ミーリアがうろんげな視線を亡霊へ送る。

 デモンズマップには苦労してきた。疑うのも無理ない。


「気をつけてくださいませ。罠かもしれませんわ」


 アリアも疑惑の目を向けていた。


『すまん! この通り!』


 亡霊は限界まで頭を下げ、空中に浮いたままターンテーブルのごとく回転し始めた。亡霊ドクロ魔術師の土下座回転……ファジーな曲が流れてきそうである。


『デモンズが言っていた最上級の謝罪だ! これで勘弁をしてほしい!』


 先ほどの禍々しい雰囲気からは想像できない滑稽な動きに、ミーリアとアリアは顔を見合わせた。





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読者皆さまへ


 いつも本作をご愛読いただき誠にありがとうございます。

 なんとこの度「転生七女ではじめる異世界ライフ」が第5回カクヨムWeb小説コンテストの大賞に選ばれました・・・!


 これもひとえに皆様が応援してくださった結果でございます。本当に本当にありがとうございます。厚く御礼申し上げます!嬉しいっ!


 書籍になりますので、ついにミーリアやクロエが絵になってくれますね。

 楽しみすぎてヤヴァイです・・・。

 今後、あのアカン家族たちもいずれがっつり登場する予定です。ぜひそちらもご期待くださいませ。


 進展がございましたら都度報告いたしますので、引き続きミーリアの新しい人生の冒険を見守っていただけると幸いです。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

 それでは、引き続きよろしくお願い申し上げますm(_ _)m


 作者

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