第2話 城下町へ
ミーリア、クロエ、アリアは王都の城下町へやってきた。
高級店が並んでいるアドラスヘルム大通りは人々で賑わっている。
着飾った貴婦人、それを相手にしている商人も高級な衣類を身にまとっており、行き交う馬車一つ見てもアトウッド領を走っているオンボロ馬車とは違い、美麗さに雲泥の差があった。
(アトウッド家が泥だんごだとしたら、王都は高級栗金時だね……)
なぜ比較の最上位が栗金時なのか。
ミーリアはきょろきょろと周囲を見回した。
時間があるときに転移魔法で寮を抜け出して何度か城下町には来ているが、ミーリアの行く先は毎回庶民派な下町であった。面白い食材や、名物を探し回っていたわけで、こうしてアドラスヘルム大通りに来たことはない。そもそもデモンズマップの件で忙しくて、指で数えるほどしか王都を回れていないのが現状であった。
「ミーリア、はぐれたら大変だわ。手を離さないようにね」
「はぁい」
クロエがミーリアに顔を向けて笑顔を作る。
こうしてクロエと王都へ出かけるのは初めてだったので、ミーリアは嬉しかった。思えば前世で家族とどこかに出かけた記憶がない。ミーリアはクロエの手をぎゅっと握り返した。
アリアは二人の会話を聞いて、女神のごとく微笑んでいる。
ちなみに、三人とも制服ではなく私服だ。
ミーリアはティターニアにもらった裏地に魔法陣の描かれた丈の短い紺色のローブ、白いブラウス、チェック柄のプリーツスカート、赤いリボンと白いハイソックス、子ども用の革靴である。
クロエはファンクラブの金持ち二年生からプレゼントされたハイウエストのフレアスカート、アリアは公爵令嬢らしい白を基調としたお上品なボレロ付きのワンピースだ。
(二人が美人すぎて眩しいっ。キラキラ輝いていますわ!)
美人な二人に囲まれたミーリアはお嬢様言葉にて脳内でつぶやいた。
一人だけ背が低いので、お姉さん二人に連れられた妹という感じである。
通行人の中にはアリアとクロエの美貌に、通り過ぎてから何度か振り返る者もいた。
「クロエお姉さま、最初にどのお店へ行くのがよろしいでしょうか」
アリアがレンガで舗装された道を姿勢よく歩きながら、クロエに尋ねた。
「あの人が高額商品を買ったお店から行きましょう」
クロエが毅然とした声色で言った。
地雷女ロビン何するものぞ、という気持ちらしい。
「それでしたら宝石店ムレスティナへまいりましょう。ちょうどあちらに見えますわ」
アリアが上品に手で指示した場所に、宝石店があった。
門の前には剣を持った執事服のイケメンが二人立っている。
(うっわ~……とてつもなく入りづらい……)
ミーリアはシャレオツな超高級店に尻込みした。
○
慣れているアリアを先頭に、三人は宝石店ムレスティナへ入店した。
アリアの名前を出すと、営業を取りまとめるお偉いさんが登場し、ふかふかなソファのある部屋へと案内される。
(極楽だよ。これ寮にほしいなぁ)
ミーリアはアリアとクロエに挟まれ、深々とソファへ身を預けた。
メイドがフラワリーローズガーデンという品のある紅茶を丁寧に入れて退室すると、向かいに座ったお偉いさんらしいカイゼル髭の中年男性が口を開いた。
「本日は宝石店ムレスティナへお越しいただき誠にありがとうございます。ムレスティナ店支配人のゲーデルと申します」
ミーリア、クロエが彼の挨拶に一礼する。
支配人ゲーデルはアリアへ視線を向けた。
「アリアお嬢さま、久しく会えなかったことを寂しく思っておりました。今日はどのようなご用件でしょうか? ご自身用の宝石をお探しでございますか?」
支配人はグリフィス公爵家に金がないことは百も承知である。
それでもアリアを無下にしないのは、グリフィス公爵家と宝石店ムレスティナが長い付き合いだからだ。どんなに勢い盛んな店や家であっても、浮き沈みはある。長い歴史の中で、互いに持ちつ持たれつやってきた信頼関係が両者には構築されていた。
「いいえ。今日はこちらにいらっしゃる、ミーリア・ド・ラ・アトウッド男爵の支払いの件でお伺いいたしました」
アリアがにこやかに言った。背景に薔薇が咲きそうな笑顔である。
「……」
会話は頼れるアリアに任せ、ミーリアはカップを手に取った。
(しっかし人様のお金で宝石を買うとは……時代劇なら成敗されてるよ……。本当に地雷女が王都に来ていると考えると、なんか背筋が……)
ミーリアは同じ街の空の下、ロビンがきゃはきゃは言いながら買い物をしているかと思うと、空恐ろしい気持ちになってくる。
(あー、紅茶が美味しい。癒し~)
紅茶の香りでささくれだった気分が落ち着いた。
「こちらのミーリア嬢は男爵でございますよ、ゲーデル支配人」
アリアが念を押すと、ゲーデルが何度かまばたきをした。
「男爵さま……、男爵ご令嬢、の間違いでは? アトウッド、男爵殿?」
カイゼル髭を手でひねり、ゲーデルが驚きの声を上げる。
急に話を振られたミーリアは、
「はい? あ、はい、ご令嬢ではないです。男爵です、いちおう」
と言いながら、あわててカップをソーサーへ置いた。
「請求書が私宛に届いておりまして……ええっと、これかな?」
魔法袋から請求書の束を出して、ミーリアはぺらぺらとめくり、宝石店ムレスティナのものを引き抜いてテーブルに置いた。
横で静かにしていたクロエが失敗した、という顔を作った。
「確かに、ムレスティナの請求書で間違いございませんが……ということは、お嬢さまが昨今王都で噂になっているドラゴンスレイヤー殿ですか?」
支配人ゲーデルが神妙な面持ちでミーリアを観察する。
どこからどう見て普通の女の子にしか見えない。
「ミーリア、ミーリア」
「なぁに?」
クロエに袖を引かれ、ミーリアは顔を寄せた。
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