Episode:22 思わぬ告白
なんでもマギーの話では、白い幼女ことティアが俺に会いたがっていると言う。
「はぁ……」
俺は曖昧な相槌を打つ。
なんだかどう反応していいかわからなかった。
『一応、峯風艦長とレディオ社長には了承を得られております……あくまでルドガー少佐次第なのですが……』
「ええ、上から許可を頂いているのなら俺はいいですよ。それでその子、いえ彼女はどういう状態なんです? 俺はどう接すればいいのでしょうか?」
『普通で構いません。見た目は真っ白な複製体ですが、人体の構造は人間と何も変わりはありません……ただ抜群に知能が高く、とても幼女とは思えないほど聡明すぎる子です。本人曰く“サンダルフォン”6号機のOSと共有していたそうで、“シンギュラリティ”と化した時点でも“イヴFESM”から無理矢理に機体の管制など担われていたそうです』
つまり機体を制御する頭脳として“イヴFESM”に作らされた存在か。
きっと“サンダルフォン”6号機の記録から、当時のティアと俺の存在を知ったのだろう。
「わかりました。準備して直ぐに伺います」
俺は幼女ティアが保護されている軍事病院へ向かった。
軍事病院は徹底された厳重体制で24時間監視されている。
院内の地下にある個室に彼女がいるらしい。
俺が赴くと、病院の関係者から厳つそうな軍の関係者までが綺麗に整列して敬礼してきた。
「ルドガー少佐、お勤めご苦労様です!」
おいおい勘弁してくれ……どんな扱いだよ。
そういや今回の戦いで「少佐」に昇格したんだっけな。
すっかり忘れていたわ(笑)
俺がドン引きしている中、呼び出したマギーが出迎えてくれた。
「少佐、お待ちしておりました。早速ご案内します」
彼女に言われるがまま、俺はエレベーターに乗せられ地下へと誘導される。
地下は広々とした回廊となっており、監視役の黒服達から白衣を着た研究員まで多くのスタッフが滞在している。
軍事機密の存在なので仕方ないとはいえ、幼女一人に過剰なほど徹底された体制だ。
「こちらが面会室です」
俺はとある個室へと案内された。
さほど大きくない部屋だ。真ん中辺りに硬質強化ガラスで仕切りが設けられている。
「まるで凶悪犯罪者扱いだな……」
あまりにも禍々しい雰囲気にそう思えてしまう。
とても幼女との爽やかな面会とは思えない。
間もなくして、ガラスで区切られた反対側の扉が開けられる。
病衣を着た真っ白な少女が入ってきた。
「……ティア」
つい、その名を呟いてしまった。
大きな赤い瞳を宿した、4歳児くらいの可愛らしい幼い美少女。
だが面影は紛れもないティアその者だった。
幼女のティアは設置されたソファーにちょこんと座り込む。
「――貴方がルドガーね? 記録通りの人だわ。そのサングラス、外してもらえるかしら?」
幼女とは思えない、随分とませた口調。
伊達に“サンダルフォン”のOSと共有していたわけじゃなさそうだ。
「ああ、すまない」
つい謝罪してしまう、俺。
言われた通り、サングラス外して赤い双眸を晒した。
「……綺麗な瞳。私と同じね。貴方もこちら側のようだわ」
「さぁな……遺伝子はいじられているようだが記憶がない。案外、中途半端の存在かもしれん」
「そうなのかな? けど貴方は強いわ……どの存在よりも、きっとこれからは『奴ら』に狙われるでしょうね。“サンダルフォン”7号機のパイロットと同様に……」
「奴ら?
「私は“イヴ”に造られてから、ずっと“
「イヴ……“イヴFESM”だな? クラウとはなんだ?」
「簡潔に言えば
「“イヴFESM”の目的はなんだったんだ?」
「あいつの目的は“
「使命か……そういや、奴の言葉からよく『主』ってワードが聞かれていたな。そいつはなんだ?」
「……ごめんなさい。誰にも言うなって口止めされているの」
「誰にだ?」
「金髪の男、レディオ・ガルシアよ。それに私の言葉は全て“イヴ”から聞いた話だからね」
確かレディオは世界を牛耳る『賢人会』という秘密結社の一員になったと聞く。
つまり裏側のトップ達では、
まぁ、パイロットである俺が深く言及することもないか……人類にとって共通する敵には変わりない。
「キミは“イヴFESM”から造られたと言ったな? “シンギュラリティ”の人工筋肉を母体に
「そうよ。この幼い姿は搭載しやすいよう、あえて逆行させられたのよ。こうして外界に出たらちゃんと成長するから安心してね」
「……そうか」
一体何に安心しろと言うんだ?
俺が相槌を打つと、幼女のティアは話を続ける。
「“
「どうしてキミは俺の味方を? “イヴFESM”とも仲が悪かったように思えたが?」
「私は“サンダルフォン”6号機に搭載されたデータから人間としての知識を獲得しているのよ。その中にはルドガー、貴方の記録もあったわ。それにヴィクトル・スターリナのこともね。彼は“アダムFESM”ながら人類に味方したことも知っているわ。“イヴ”には獲得する能力はなく、ただ『主』の命令に赴くまま、人類を滅ぼすことしか頭になかった……だから嫌気が差したのよ」
「何度も俺に言葉を投げかけてくれたのも、“イヴFESM”を嫌っていたからか?」
「それもあるわ……けどそれだけじゃないのよ」
幼いティアは言いながら、何故か頬をピンク色に染め始める。
真っ白な肌だけにとてもわかりやすい。
そのまま小さな身体をもじもじとくねらせている。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「あ、相変わらず鈍感ね……キミを愛しているからに決まっているじゃない、ルドガー
「なっ!?」
突然の告白に俺は言葉を詰まらせる。
“サンダルフォン”と共有した記録だけじゃなく、ティア自身の想いも共有しているってのか?
しかも急に口調まで似せて……いやティアの身体を乗っ取った“イヴFESM”から
だったら……。
「――実はティア……俺もキミに、ずっと言えなかったことがあるんだ」
「え?」
「い、いや、なんでもない……どうか忘れてくれ」
はっと我に返り、片手で唇を押える。
まったく何を考えているんだ、俺は?
この子はティアであって本物の彼女じゃない。あくまで
見た目だって、まだ4歳児の幼女じゃないか……流石に言えないわ。
それにきっと俺達の会話はどこかで記録されている。
下手に誰かに聞かれたら、ロリコンだと思われてしまうじゃないか。
俺にとってそっちの方が大問題だ。
けど彼女が何故、俺に会いたいと要望してきたのかもわかったぞ。
素直に嬉しい……けど何か違う気もする。
一体どう捉えればいい?
「と、とりあえずありがとうと言っておくよ。それより、ついキミを『ティア』と呼んでしまっているが、それでいいか?」
「ええ、構わないわ。そう呼んで頂戴、ルドガーくん」
う、うーむ……やっぱり複雑だ。
次第にこの子が本物のティアに見えてしまう。
俺は「じゃあ、また来るよ……」と告げ、軽く手を振りながら個室を出た。
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