第42話 艦長からの作戦と指示
数時間後、目的地である絶対防衛宙域に到着する。
浮遊していた残骸も粗方撤去され、見晴らしがよくなっていた。
ただ幾万、幾億の星々が煌めく幻想的で静かな海。
――無限の宇宙。
俺達が撤退した後、
奴らは一度姿を見せると、しばらく間は同じ宙域に現れないという謎の法則がある。
特に殲滅してやると、その期間は一ヶ月以上も空く場合があった。
今回はノトス艦隊の奮闘と、その後の“デュナミス”部隊の活躍で殲滅近くまで追い込んでやったからな。
しかし“ベリアル”は未だ健在だ。
基本、
きっと損傷が回復次第、すぐに現れるだろうと踏んでいる。
「……主力戦艦である“ラファエル”も復活したようだな」
俺は“サンダルフォン”のコックピット内で待機しながら、サブモニター越しでその姿を眺めている。
所々に傷は目立つも戦艦としての役割は果たせるまで修復されたようだ。
主力戦艦の周囲に新しく編成された巡洋艦が幾つも並んでいた。
いやに手際が良いというか連携が取れている。流石は国連宇宙軍だと思った。
「こう見ると、一応は
『イエス、マスター。ミカエル艦はゲスト枠となりマス。当戦艦には新型AG機と“サンダルフォン”を保有しており、対ベリアル戦を想定しての配置デス』
つまり「切り札」的なポジか……まぁ慣れっこだな。
それ程あの“ベリアル”が危険視されているってわけだ。
などと考えごとをしていると、艦内から「ビーッ!」という
どうやら
俺は脇に置いてあったヘルメットを被りバイザーを下げた。
いつでも出撃可能な体制を整える。
何せ今回の“サンダルフォン”出撃許可は、全て艦長であるセシリアに委ねられているからな。
彼女の采配と判断ですぐ戦場へと赴くことになるだろう。
『マスター、
「ブリッジからだと? 別に構わないけど……俺の正体がバレないようにしてくれ」
『イエス。マスターの声質と姿にスモーク処理を施しマス。ブリッジからマスターは特定されマセン』
ホタルの適切な配慮でブリッジとの回線が繋げられる。
メインモニターから小枠のウィンドウが開かれ、艦長服姿のセシリアが映し出された。
普段のほわわんとした表情とは異なり、引き締まった上級士官の顔つきだ。
『“サンダルフォン”のパイロット、応答に応じて頂き感謝します。わたくしは国連宇宙軍、第四艦ゼピュロス艦隊所属、セラフ級戦艦ミカエルの艦長、古鷹 セシリア大佐です』
おまけに口調まで違うぞ。
これが艦長としてのセシリアか。
普段の彼女とは違う一面を見て、なんだか気持ちが弾んでしまう。
「艦長、悪いがこちらは名乗ることはできない。俺のことは特務大尉と呼んでくれ」
『了解しました、特務大尉』
「敬語はいい。階級と立場は貴女のほうが上だ」
今は中佐並みの発言権を有しているも、艦長であり大佐であるセシリアの方が上官に変わりない。
しかし俺はあえて敬語を使わず素っ気ない口調で答えることにした。
セシリアだけならともかく、きっとブリッジにいる他の船員達も聞いているだろう。
彼らに俺の正体を知られるわけにはいかない。
たとえ声や姿をわからなくしても、こうして直接会話するなんて本来であれば異例なことだ。
『……いえ、この方がわたくしも話しやすいので』
「そうか、それでなんの話だ?」
『この度は貴方とヘルメス社の意向で、“サンダルフォン”の出撃及び指揮権を与えて頂き感謝いたします』
「いや、こっちもあの紅い
『はい……ありがとうございます。それで特務大尉が出撃する件ですが、我らはこれから間もなく敵と交戦いたします。“サンダルフォン”は、その紅い
「了解した」
『“サンダルフォン”はあくまで“ベリアル”のみを相手してください。それ以外の
学園のセシリアからは想像もつかないドライな指示だ。
作戦遂行するため
前日、苦しくて泣いていたセシリアの姿が過る。
艦長として毅然に振る舞っているが、心の中は相当葛藤して辛いのだと思う。
「……了解した。とっとと
『……はい、ありがとうございます。どうかご武運を――』
瞳を潤ませ、セシリアは敬礼をして見せる。
プツっと彼女との通信が切られ、ウィンドウが閉じられた。
俺は溜息を吐きながらシートにもたれる。
「……お互い頑張ろうな、セシリア」
――それから間もなくして戦闘が始まった。
ホタルに頼み前回と同様、宙域の戦況をコンソールのサブモニターで映し出してもらう。
また対象とするAG機の音声通信を
特に戦闘に参加する「桜夢」やクラスメイトである「第102期」の連中が気になるってしまう。
桜夢はともかく、あの連中に義理や情けなんてないけど、それと命を失うのは別だと思った。
無論、俺は助けてやることはできない。
あくまでセシリア艦長の指示に委ねるしかないのだが……。
けど、桜夢だけでもなんとか守ってあげたい。
彼女にも、そう約束もしているわけだし……。
まずは主力戦艦“ラファエル”と他の巡洋艦とから、“エクシア”機が出撃して迎撃に向かった。
遥か遠くから高密度の《
簡単に取り乱さないところは訓練生とは違う正規のパイロット達である。
しかも今の攻撃は間違いなく『灰色の
“エクシア”部隊は連携し、他のFESM《フェスム》を斃しながら“バルバトス”の狙撃位置を特定し、その機動性を駆使しながら奴が苦手とする接近戦闘に持ち込んで撃破している。
さらに超大型で主力戦艦のサイズを誇る
また各戦艦から主砲による《
無論、どれも容易い相手ではないので凶弾で墜とされてしまう
今のところ、ゲスト枠である“ミカエル”艦が応戦するまでもないようだ。
が、
「“ベリアル”の姿はまだ見られないのも気になるけど、出現した敵総数300体か。前回よりも数が多い……しかも最高位とされる
焦りか……何故そう思ったのか自分でも不思議だ。
元々よくわからない連中だが、人類が太陽系を事実上の支配下に置いたことで、それ以来
そもそも100年前にあのまま地球を支配していたら、人類側が力をつけることはなかったのにな。
一説では
現に人類の総人口が70%減少したことで皮肉にも地球の環境が改善されつつあるらしい。
もし
奴らにとって人間はどんな存在だと言うんだ?
───────────────────
《設定資料》
〇バルバトス
最高位である
その姿はシュモクザメに似た形状をしており、全身が灰色で胸鰭と思われる個所に白い双翼が浮遊して存在する。
弓型の円弧を描く頭部の中心から『
一方で近接戦闘が苦手とされている。
《補足》
バルバトスの由来:ソロモン72柱の悪魔。戦う勇猛な射手。
〇レヴィアタン
全長1,565mの主力戦艦ミカエルを彷彿させる超巨大な
その全貌は歪なマッコウクジラに見え、また
動き自体は非常に遅いが、防御力が高くそう通常攻撃では永久機関の
前方の口部分から、戦艦の主砲並みの『
底面(腹の部分)が弱点とされている。
《補足》
レヴィアタンの由来:旧約聖書に登場する海中の怪獣、あるいは悪魔とされている。
実は正式登録ではソロモン72柱「フォルネウス」とされており、その見た目と獰猛ぶりから、いつのまにか「レヴィアタン」と呼ばれ認知されてしまった経緯があった。
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