第43話 悪天使との再戦




 ビーッ!



 新たな警報音アラートが鳴る。


 待機中、考えごとをしていた俺はハッと意識を戻した。


「“ベリアル”か!?」


『イイエ、違うようデス。出現したホワイトホールの規模が大きすぎマス。軍隊タイプのFESMフェスム、増援カト」


「増援? 今までそんなことなかったのにな……殲滅したらしばらく間があった筈。それで数は?」


『400体デス。おそらくこちらが主力ではないカト』


「よ、400体? 数だけでも艦隊規模並みの戦力じゃないか……いや、前の連中と合わせると明らかに上回っているぞ」


 こりゃ“ベリアル”が現れる前に出撃だってあり得る。


 俺がそう予想した通り、“ミカエル”艦からAGアークギア部隊の出撃命令が下された。


 しかし“サンダルフォン”はそのまま待機とのことだ。


 あくまで“ベリアル”戦に備える意向らしい。

 艦長であるセシリアの意向である以上、俺は従うしかない。


 一番心配しているのは、やっぱり桜夢のことだ。


 彼女に危険が生じるのなら、セシリアに無理に言ってもお願いしてみるか……。

 俺はサブモニターを眺めながらそう考えていた。



 “ミカエル”艦の射出機カタパルトデッキから“エクシア”機が出撃していく。


 それから新型の“デュナミス”機が射出された。

 今回は20機ほどの配備らしい。

 前の戦闘で5機が残っているから15機ほど新たに導入したってところか。


 その中に学徒兵となったハヤタとアルド、それに桜夢が搭乗している。

 特にこの三人は第102期訓練生の上位三位に入っているので新型機が配備されたようだ。


「ホタル、桜夢はどの機体に乗っている?」


『50番機デス。識別マーカーを施しておきマス』


「……すまない」


『イエ。彼女を失うことで、マスターのメンタルが大幅に低下する方が問題なのデ』


 地味に嫌な言い方をする、ホタル。

 こいつ最近、イリーナに似てきたんじゃないか?



 それからも激戦が続く――

 

 

 各AGアークギアは連携を取りつつ各個撃破している。


 心配していた、桜夢も持ち前の操縦技術の高さから次々とFESMフェスムを斃している。


 ハヤタもカースト一位は伊達でなく、仮想訓練戦シミュレート通りの腕前で善戦していた。

 日頃の熱血は無駄ではなかったようだ。


 しかし、こいつらは危なっかしい。


『く、来るなァァァッ! クソォッ!! ユッケ、ガッズゥ、助けてくれぇぇぇ!!!』


『落ち着け、アルちゃん! まだそんなピンチじゃねーって!』


『つーか、アルドくんのAGアークギア、もろ新型じゃん! 俺らの“エクシア”より断然性能いいんだから頑張れよぉ!」


 思いっきり取り乱し醜態を晒すアルドに、一型前の“エクシア”に搭乗するユッケとガッズが呆れている。

 まだキーレンスと違い逃げずに果敢に攻めている分、辛うじてマシに見えるが……。

 ところで三人で連携するっつぅ、なんちゃらストリーム・アタックはどうなってんだよ?


 そんな中だ。



 ドオォォォン! ドオォォォン! ドオォォォン! ドオォォォ――――ン!



 次々と鳴り響く爆発音。


「なんだ!?」


 サブモニターの画面を切り替えて戦況を確認する。



 各AG機に向かって、深紅に輝く何かが鮮やかな軌跡を残して流れていく。


 さながら彗星の如き光跡が通過する度、AGアークギアが撃墜され大破していたのだ。


 いや、あれは彗星なんかじゃないぞ!


「――“ベリアル”だ!」


 俺はそう察した。

 ほぼ同時に“サンダルフォン”の出撃要請が下される。


 格納庫ハンガーが動き始め、漆黒の機体は射出機カタパルトデッキへと移動して行く。


「さっき出現したFESMフェスムの中に紛れていたのか!?」


 考えてみれば、奴はAGアークギアと同じくらいのサイズ。

 あの発光する紅色以外は際立った特徴もないから、他のFESMフェスムに紛れていても然程目立たないか。


 おまけに機動力が早すぎて、ホタルの索敵さえも追いつかないからな。


 クソォッ、前回のようにてっきり単独で乗り込んでくると思ったが迂闊だった。


『案外、敵側の戦略かもしれまセン……欺瞞ぎまん作戦とでも例えまショウカ』


「欺瞞作戦だと? 何のためだ?」


『推測範囲ですが、サンダルフォンを誘き出すタメ――マスター、カタパルト移動完了! 出撃可能デス!』


「わ、わかった! “サンダルフォン”出る!」


 機体が射出されると共に正面から強烈なGが襲いかかってきた。


 シートに押し付けられる圧に耐え、操縦桿をしっかり握りしめてアクセルペダルを踏み、補助噴射装置バーニアの姿勢制御を行う。

 俺が駆る“サンダルフォン”は漆黒の両翼を高々と掲げスラスターを全力で吹かし、遥か彼方の戦場へと突撃する。



 “ベリアル”は既に“デュナミス”と交戦していた。

 その神速ともいえる圧倒的な機動性でAGアークギア隊を翻弄している。

 

 正規パイロットは勿論、学徒兵達が次々と撃墜されていく。


『この野郎ッ! この野郎が、ロート少佐をぉぉぉっ!』


 ハヤタが乗る“デュナミス”は勇敢に突進するが、紅の残像を置いてあっさりと回避される。


 さらに、



 ――斬ッ


 

 ハヤタ機の肩先から片腕ごと斬り落として去って行った。


『うわぁぁぁ! ちくしょう!! こんなんじゃ、こんなんじゃよぉぉぉぉ!!!』


 悲鳴と絶叫を上げる、ハヤタ。

 己の無力さを痛感する咆哮に聞こえた。


 あの機体損傷では、ハヤタもう戦えないだろう。

 レクシーがしたように機動を停止させれば誘爆も避けられる筈だ。



『ひぃ、来るなぁ! 来るなぁぁぁ! アルドくん、助け――」


 刹那、“ベリアル”の猛攻で、1機の“エクシア”が胴体から斬撃を受け真っ二つに裂かれて爆発する。


 あれは確か……三バカトリオの一人。


『ガッズゥゥゥ!? アルちゃん! ガッズがぁ、ガッズが殺られちまったぁぁぁ!!!』


『……ガッズ? 嘘だろ……うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!』


 アルドはパニックを起こしたのか、霊粒子小銃エーテルライフルを乱射する。


 そんなデタラメ攻撃が当たる筈もなく、“ベリアル”は巧みに旋回しながら余裕で躱し、一気にアルド機へと詰め寄った。



 ――ドゥッ!



 寸前で霊粒子エーテル弾が“ベリアル”を襲い直撃した。


 “ベリアル”は体制を崩し、瞬時にアルド機から離れる。

 左肩の一部が破損しているようだが、あの程度なら回復できる範囲か。


 撃ったのは、桜夢が乗る“デュナミス”だった。

 あの超スピードを狙い撃ちするとは、彼女は抜群の狙撃センスがあるのかもしれない。

 だが、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。


 “ベリアル”は屈辱を受けたのか、標的を桜夢機へと切り替えて迂回する。


 桜夢は再び狙い撃ちするも正面からの攻撃は、全て奴に回避されてしまう。


 このままでは接近され、桜夢が危ない――!


「させるかァ!」


 俺は突進しながら“サンダルフォン”に武装された副翼の霊粒子大砲エーテルカノンを出現させ、直感力に委ねて撃ち放った。



 ドォォォォォ――……


 

 高出力の霊粒子エーテル弾が彗星の如く尾を引き、確実に“ベリアル”を捉えるも上体を捻り躱されてしまう。

 

 まあ、想定内だけどな。

 俺の目的はあくまで桜夢から標的を逸らすためだ。


 案の定、“ベリアル”は“サンダルフォン”の存在に気づく。


 また能面のような顔を歪ませている。

 さも「待ちわびたぞ」と言わんばかりに。


 野郎……好敵手ライバル面しやがってぇ!

 今度こそブッ斃してやるからな!


 俺は闘志を漲らせる。


 こうして再び“ベリアル”との戦いが幕を開けようとしていた。





───────────────────


《設定資料》


◇各AGの主要装備一覧


〇エクシア

・武装(固定)/霊粒子エーテル機銃×1(頭部)、霊粒子刀剣セイバーブレード×1

・武装(手持ち)/霊粒子小銃エーテルライフル霊粒子大砲エーテルカノン、ミサイルランチャー等



〇デュナミス

・武装(固定)/霊粒子エーテル機銃×1(頭部)、霊粒子刀剣セイバーブレード×2

・武装(手持ち)/霊粒子小銃エーテルライフル霊粒子大砲エーテルカノン、ミサイルランチャー等

・特殊機能/《EXMエクストリームモード》※

 ※量産化させるため機体安定のため調整された霊粒子推進機関エーテルエンジンを一時的に制限リミッター解除させ機動力を向上させるシステム。



〇サンダルフォン

・武装(固定)①/霊粒子エーテル機銃×2(頭部)、霊粒子刀剣セイバーブレード×2

・武装(固定)➁/レギオンアタック×40(第三副翼)、霊粒子大砲エーテルカノン×2(第二副翼)、ミラージュ・エフェクト×10(両腕部)

・武装(手持ち)/二連装式霊粒子小銃エーテルライフル、ミサイルランチャー×4(シールドの裏側にマウント)

・特殊機能/《ヴァイロン・システム》


【武装背景】

 霊粒子動力炉エーテルリアクターが高性能なAGほど、より強力な霊粒子エーテル系の武器による兵装が数多く可能となっている。



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