第44話 漆黒の熾天使-ヴァイロン
咄嗟に俺は桜夢に向けて無線回線を合わせた。
「――桜夢、奴は俺に任せろ! お前はハヤタ機を回収してくれ!」
『カムイくん!? でもぉ!』
「悪いが誰もいない方がいい! 奴に勝てるのは“サンダルフォン”だけだ!」
『……わ、わかったよ。気をつけてね!』
桜夢機は後退していく。
良かった……“デュナミス”も健在だし、彼女の腕なら他の
アルド達も怯えながら逃げたみたいだ。
あいつらこそ、いても邪魔になるだけだし。
俺は気持ちを切り替え集中する。
コンソールのメインモニターに映る最大の敵を捉えた。
ん? “ベリアル”奴、もう左肩のダメージが回復しているぞ。
などと思った瞬間だ。
ギィィィン!
フッと姿を消した“ベリアル”。
しかしすぐに目の前に現れ、得意の両腕に備えられている
俺は咄嗟に反応し、“サンダルフォン”の
「ぐぅ、こいつ! 調子に乗るなよぉ!」
ならばと、アクセルをベタ踏みし、このままパワーで押し切ってやる。
きっと非力の奴は身体が体制を崩し吹き飛ぶだろう。
それを見計らい超至近距離から《レギオン・アタック》を浴びせてやるぞ!
だが直感で何か嫌な予感が過る。
『マスター、後ろデス!』
ホタルの声に反応し、迅速に機体を旋回させた。
ヴォォォンっと、“ベリアル”の
「クソッ、また後ろを取られ――うぉっ!」
回避し体制を立て直したと思ったら、奴は猛スピードで突撃してくる。
以前はつかず離れずの「ヒット&アウェイ戦法」だったのに今回はまるで異なる戦い方。
まるで引力か磁石のようにくっついて迫ってくる「インファイト」だ。
ならばと、俺も
しかし隙とも言えぬ僅かな間隙を突き、“ベリアル”は“サンダルフォン”の懐に飛び込んだ。
刃がぶつかり合う音がコックピット内で反響する。
またパワーで捻じ込んでやろうとするも、“ベリアル”は白い翼を羽ばたかせ素早く後退した。
体勢が崩されたと思うと再び死角に回り込まれ、ネチネチと何度も斬撃を浴びせてくる。
ズン――!
しまいには
それからも“ベリアル”の猛攻が続く。
なんとか応戦するも回避されては、死角に回り込まれ反撃を受けてしまう。
既に攻撃パターンは見切っている筈なのに、あまりにも桁外れの機動力に反応できない。
神速――そう言わざるを得ない。
「こいつ、前よりも速い!」
明らかに進化している。そう思った。
またこうして刃を交え戦うことで、“ベリアル”という
奴の存在意義というものが、なんとなくだがわかってきた。
「――そうか! こいつは……“ベリアル”は『対サンダルフォン』用に創られた
俺は自分で言いながらも疑念を抱く。
何者かが意図的に創った存在だと感じてしまった。
人類を滅ぼす兵器として――!
だから、そいつは人類の要である“サンダルフォン”が邪魔なのだろうと思えた。
それからも“ベリアル”とのドッグファイトが続く。
“サンダルフォン”の攻撃は悉く躱されてしまう。
おまけに
苦し紛れに《レギオン・アタック》を撃ち込むも、やはり回避されてしまい反撃を受けてしまった。
“ベリアル”から放たれた口もどき砲台の《
ドウッ!
「うわぁっ!」
激しい衝撃に、俺はシートへ打ちつけられた。
幸い、他の
『外部装甲、30%破損ッ! このまま攻撃を受け続けるのは危険デス、マスター!』
「わかっている! 雑念を断ち切る!」
脳内をフル回転し、意識と集中力を限界まで高めていく。
紅き閃光の如く動き回る“ベリアル”の動きを目視で精密に捉えつつある。
しかし機体が俺の反応に追いついていない。
コマンド入力しても僅かなロスタイムが生じてしまう。
クソォ!
ふと誰かの声で「サンダルフォンでも駄目なのか……」という言葉が過る。
それは幻聴なのか。あるいは自分自身の声なのか。今の俺には判断できない。
『――カムイくん!』
桜夢の声がコックピット内から響き渡る。
幻聴ではない、確かな音声だ。
すると、50番機の“デュナミス”が加勢しに向かって来ていた。
あの識別番号は間違いなく、桜夢機。
まさか戻ってきたのか?
なんで、どうして……。
「桜夢ァ、来るな!」
“ベリアル”は「邪魔をするな!」と言わんばかりに口から《
『きゃあ!』
高出力のエネルギー弾は機体をかすめる。
直撃こそ免れたが電磁波に似たエネルギー波動により、桜夢機は激しく吹き飛ばされた。
「野郎ォォォッ!」
――ドックン!
刹那
鼓動が脈を打ち叩きつけるように脳を揺らした。
激流のように内側から何かがこみ上げ押し寄せてくる。
「あ、頭が……こんな時に……ぐぅ」
『マスター、脳内のコルチゾール分泌値、急増加! ナノマシン制御不能! イケマセン、このままではパニック状態に陥りマス!』
ホタルの警告も空しく、俺の意識は暴走しトランス状態に陥った。
――まるで走馬灯の如く、これまでの記憶が断片的に浮かぶ。
自分の生い立ちから、
イリーナの父、ヴィクトルさんに助けられたこと。
“サンダルフォン”のパイロットになったこと。
学園のクラスで、いつも一人でいること。
周囲から陰キャぼっちとして嘲笑ていること。
正直、散々な記憶しかない。
――でも
でも最近は楽しいこともある。
セシリア、レクシー、シズ先生。
そして、桜夢にイリーナ。
心から守ってあげたい存在が増えていることに気づいたんだ!
「――俺に……俺に戦える力があるなら守ってみせる! そうだろ、“サンダルフォン”!」
『マスターの意識回復! “サンダルフォン”外部装甲以外、健在デス!」
「ホタル! 外部装甲を全て強制破棄! 後先を考えるな――《ヴァイロン・システム》発動ッ!」
『COPY! VAIRON SYSTEM START UP――』
俺の意志に連動され、漆黒の甲冑として覆われていた外部装甲が展開されていく。
頭部から胸部と腹部、両腕や両足などの装甲が全て外され、内部が露出される。
そのすらりとした姿はより人型に近く、拘束具から解き放たれた六枚の翼を持つ“漆黒の
制御リミッターが解除され、頭部のデュアルアイが赤く発光する。
また各部の関節部分から赤みを帯びた
これが《ヴァイロン・システム》モードに突入した“サンダルフォン”だ。
対する“ベリアル”は臆することなく、果敢に突進していく。
俺はアクセルペダルを蹴り回避運動をする。
真空の宙域で“サンダルフォン”は鮮やかな赤い軌跡を描き、素早くその背後を取った。
“ベリアル”は逃げ出すかのように直進して離れる。
しかし今度は“サンダルフォン”はつかず離れずの追随を行う。
機動性は互角。
いやリミッターを解除し最大稼動モードとなった、“サンダルフォン”が上だ。
その証拠に明らかに嫌がる素振りを見せる“ベリアル”。
旋回したかと思うと、口の砲台から《
今の俺は怯むことはない。
「《ミラージュ・エフェクト》!」
“サンダルフォン”の前腕部のギミックが作動し、10機の
瞬く間に幻影を作り出し、各々が独自の動きを見せながら“ベリアル”を攪乱させた。
誤認された《
だがそれは俺の狙い通り――
一瞬、奴の動きが止まった。
「もらった!」
俺は突撃を仕掛け、接近戦闘に持ち込む。
“ベリアル”も既に迎撃に転じている。
ギィン――!
紅の凶刃が“サンダルフォン”の左腕を斬り落とした。
「こんなものおぉぉぉぉぉ――――!!!」
俺が発した気迫の雄叫びと共に、“サンダルフォン”は怯むことなく体当たりを仕掛ける。
零距離で“ベリアル”の胸部を突き抜け、心臓部である『
“ベリアル”の外殻から亀裂が入り、そこから体内の
一拍後、全身が粉砕され泡ように弾け飛び広範囲へと膨張した。
残骸は星屑のように散りばめられ、やがて虚空の闇へと消えていく。
ついに“ベリアル”を撃破したのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……やった」
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