第7話 美少女艦長と転校生
翌日。
「おい、知っているか!? 昨日の戦闘、ゼピュロス艦隊の圧勝だったらしいぜ!」
「ああ、また“サンダルフォン”だろ。今回は先陣を務め、たった1機で半分以上の
「すげー! やばくね!? 一体、パイロットどんな奴よぉ!?」
「本当、カッコイイよね! 憧れちゃうなぁ!」
生徒同士で、もう昨日の戦闘が話題となっている。
あの後、俺が戦線離脱してから、「正規のAG部隊」も頑張ってくれたらしい。
士気が向上したのか、1機も撃墜されることなく快勝できたそうだ。
そして案の定、いいニュースほど軍から大々的に報じられ、
しかも大分話を盛られたように感じてしまう。
悪いニュースの時は最小限の情報しか開示されず、下手すりゃ隠蔽する癖にな。
ぶっちゃけ、どうでもいい。
「に~し~き~く~ん、おはよう! お久しぶり~!」
俺の席隣で、やたらとハイテンションな声で挨拶をしてくれる少女。
ふわっとカールが巻かれた亜麻色の長髪。
若干目尻が垂れたブラウンの瞳に、おっとり系の顔立ちで表情の豊かな美少女。
おまけにスタイルも良く、きっと同年代の中では一番の巨乳なのかもしれない。
彼女は、『
確か日本人の父とフランス人の母を持つハーフだと聞く。
そして、ああ見ても『ゼピュロス艦隊』を指揮する主力戦艦“ミカエル”の艦長であり、階級は大佐である。
なんでも12歳の頃、飛び級で国連宇宙軍大学の士官学校に進み、戦略シミュレーションで無敗を誇る才色兼備の天才だとか。
その肩書もあり、先の戦いで戦死した艦長の代役で異例の抜擢を受けたという経緯がある。
本来なら学校なんてくるような子じゃないんだけど、本人は普通の女子として学園生活を味わいたいために普段は副艦長に艦を預けつつ、こうして通学しているのだ。
勿論、現役の軍人なので専修科目は選択せず、午後からは艦長をしている。
「おはようございます、古鷹さん」
一応は社交辞令的な挨拶を交わす、俺。
「セシリアでいいよぉ。えへへ~、やっぱ弐織くんは癒されるねぇ」
「癒されるですか?」
「そっ、キミを見ているとね。艦長って激務でしょ? だから、あたしは癒しを求めているわけ」
彼女、いつも何が言いたいんだ?
よくわからない。
俺と顔を会わせる度に決まってそう言ってくるんだ。
馬鹿にしているとか、イジるとかじゃなく、心から親しみを込めた言い方。
だから不快にならず、俺もある程度ならと言葉を交わして受け入れてもいる。
陰キャぼっちのレッテルを貼られている俺にとって、セシリアは唯一のお話友達かもしれない。
実は艦隊を仕切る艦長と、ヘルメス社に雇われた謎のパイロットという奇妙な関係だけどな。
「よぉ、セシリアちゃん、チィース! 久しぶり~! んな、ぼっちに構ってないで、俺らとダベらない?」
アルドがチャライ口調で声を掛けてくる。
学園内では軍人階級や身分は不問とはいえ、怖いモノ知らずにも程がある。
見た感じは、ふわふわしている女の子だが、事実上ゼフィロス艦隊の命運を担う重要人物だぞ。
「嫌よ! あたし騒がしい人が嫌いなの! そんなの上層部とヘルメス社の『悪役令嬢』だけで充分なんだから!」
セシリアは気持ち良いほど、バッサリと斬り捨てる。
騒がしい人という点では、俺も理解できるけどな。
ちなみに「ヘルメス社の悪役令嬢」とは、イリーナのことだ。
イリーナは令嬢ではなく立派な代表取締役社長だが、軍からは「白き妖精」の他に皮肉を込めて「悪役令嬢」と呼ばれている。
あのわがままで傲慢な態度が一部の上層部から不評を買っているらしい。
セシリアに断られ、アルドは肩を竦める。
「セシリアちゃん、きちぃ~! ほんじゃ、またね~!」
と、おどけながら離れて行く。
チラッと俺に視線を向け、ギッと睨みつけながら。
大方、「陰キャぼっちの癖に」と言いたいんだろう。
きっと直接、俺に絡むと自分のカースト上位としての価値が下がると思い、スルーしたようだ。
こっちこそ、放っておいてくれと言いたいけどな。
すると先生が教室に入ってくる。
見たことのない、一人の女子生徒を連れてきた。
……転校生か? 珍しい。
にしても、一瞬どこかのアイドルと見間違えるほどの綺麗で可愛らしい女子だ。
きめ細かな肌に小さく整った鼻梁。長い睫毛に縁どられた大きな黒瞳と可愛らしい桃色の唇。どれを取っても自然体なのに、繊細で可憐な美しさを放っている。
まさに容姿端麗、あるいは大和撫子という表現に相応しい。
おまけに均等の取れた華奢で抜群のスタイル。
他人に興味のない、この俺でさえガチでそう思える。
クラスの連中、男子から女子に至るまで、引き込まれるように彼女を魅入っていた。
「今日から皆と同じクラスになった、
先生が教壇に彼女を立たせ紹介する。
名前から察するに、俺と同じ日本人のようだ。
「
桜夢は背筋をのばし、見た目によらずはっきりと力強くお辞儀をして自己紹介する。
「うほっ! 超かわいいぜぇー!!!」
「ガ、ガチかわええ~! 最高ッ!」
「桜夢ちゃーん! よろしくねー!」
アルドを中心にほとんどの男達はテンションMAXで異様に盛り上がりを見せる。
反面、女子の何名かは舌打ちしていた。
先生が「うるさいぞ!」と一喝を入れ、男達を黙らせている。
「それでは空いている席は……」
「先生、ここです~! ここが開いていま~す!!!」
アルドが隣に座る女子を無理矢理に押し退け、わざと空席を装っている。
こいつなんて見え透いた真似を……バカじゃねーの!
つーか、その子に失礼だろ!?
「弐織の隣が空いてるな」
「えええーっ!!!」
男共からのブーイングの嵐。
そして鋭い視線と殺気。
あらゆるヘイトが俺に集中している、マジ勘弁だ。
「よろしくね、弐織くん」
ちょこんと隣の席に座り、お辞儀をして見せる星月。
社交辞令として、俺も軽く頭を下げて見せた。
「……よろしく」
「えへへ、弐織くん。これって両手に花だね?」
反対側の隣席に座るセシリアが余計なこと言ってきた。
両手に花って何よ?
妙なこと口走るのはやめてくれよ、艦長。
ホームルームが終わった休み時間。
男達は早速と言わんばかりに、星月に向けてアピールをしまくっている。
「星月ちゃん! 俺はアルド・ヴァロガーキ、よろしくね! 何か困ったことがあったら、いつでも頼ってよぉ! 宇宙の彼方からでも、いつでも吹っ飛んでくるからな!」
「アルちゃん、ずるい! 俺のこともよろしくね、星月ちゃ~ん!」
「も、もう、マジで可愛い! 地球育ちの日本人だよね!? 出身どこ!?」
まるでハイエナの如く、男達は桜夢の周りに群がっている。
互いに似たり寄ったりな自己紹介と売り込みをしては、彼女を質問攻めにしていた。
そんな肉食獣達を他の女子達がジト目で見ている。
一方の星月 桜夢は、おどおどしながら恐縮してしまっているようだ。
きっと誰も悪気がないのだろうが、転校初日から彼女が可哀想に見えてしまう。
まぁ、どちらにしても、俺には関係ない。
今日は消音用のイヤホンを持参しているから、あまりにも騒がしくてなるようなら使用してやればいい。
下手に関わると、それだけストレスになるからな。
やれやれと思いながら、俺は黒縁の伊達眼鏡の位置を指先で直す。
「はぁ~、弐織くん……癒されるわ~」
セシリアは俺の横顔をじっと見つめ、何故かトロけそうになっている。
一体、この艦長さんは俺に何を求めているのだろう……。
しかし、そんな時だ。
ガタン!
ハヤタが不意に椅子から勢い良く立ち上がった。
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