第6話 サンダルフォン
あれから数日が経過した。
休日にて、俺は訓練生寮で癒し系の音楽を聴いていると、ウェアラブル端末から「出撃要請」の通知が来てしまう。
『マスター、オーナーからの出撃要請デス。既にヘルメス社の迎えが外で待っておりマス。急いで準備して下サイ』
妖精型の美少女電脳AIであるホタルの指示で、俺は溜息を吐きながら準備をして寮から抜け出した。
外には厳つい大型バイクと、フルェイスのヘルメットを着用した女性ライダーが待っている。
シールド部分にスモークが貼られ顔は見えないも、ライダースーツ越しのボディ
「弐織様、どうかお乗りください」
甲高い声に丁寧な口調。
声から察するに、イリーナに仕える『
「わかった。いつもすまない」
「それが使命ですから」
俺が後部にまたがると、バイクは猛スピードで目的地へ向かった。
目的地とは宇宙船コロニーの“セフィロト”と連結している、ゼピュロス艦隊である。
俺は裏ルートから、主力戦艦“ミカエル”に乗り込んだ。
「どうやらギリギリだったようだ」
間もなくして“セフィロト”との連結部分が解除され、ゼピュロス艦隊は運航されて行く。
これから外敵宇宙怪獣
「特務大尉、急いでください!」
戦艦"ミカエル"に増設された、ヘルメス社が所有する
俺は専属の整備士にせかされている。
漆黒の軽装型アストロ(操縦士)スーツを着用し、ようやくヘルメットを装着したところだ。
今回は特に急かされる……。
おかげでストレスが溜まりそうだが、アストロスーツに備えられた「鎮痛剤」と「ナノマシン」が体内に注入されたことで、余程のことがない限り頭痛は襲ってこない。
ナノマシンは超微粒子型の機械であり、戦闘中の生理機能を抑制させ、さらに
ちなみにナノマシンは翌日の排泄物と共に流されていくので人体に問題ない。
整備ドッグで佇む漆黒の
機体に近づくと、胸部のハッチが自動で開かれた。
俺はそのままコックピットへと乗り込む。
愛機こと、型式番号:HXP-007
――“サンダルフォン”
全体が、ほぼ
量産機“エクシア”と比較すると一回り大きく太い武骨なデザインであり重装甲の機体だ。
全体と比較して頭部は小さく、双角のようなL字型のアンテナが左右2本備え、兜的な印象があった。
フルフェイスのマスクの奥で、吊り上がったデュアルアイが蒼く煌々と発光されている。
ボディと同じ漆黒色で大きな翼を彷彿させる形状の装甲版が計6枚あり、両肩にサブアームで取り付けられた翼が2枚、背部に主翼と副翼4枚で構成されていた。
主翼の2枚は大型スラスターとなっており、背部の中心部に1本のロケットのような巨大な
右腕部に長い銃身を誇る二連装式の
さらに補助噴射のバーニアが各部に搭載されており、巨漢な体躯にもかかわらず超高機動の推力を持つことを意味する。
まさに最強かつ最新鋭の
「ホタル、状況は?」
『監視されている「絶対防衛宙域」からホワイトホールが確認され、間もなく
「正規のAG部隊は?」
『各艦で待機中。マスターの出撃を待っていマス』
「了解した。しかし、いつもなら困った時にしか呼ばれないのに、今回の出撃要請は随分と早いタイミング……いや先陣ってやつか」
『それだけ、我が社の
メインモニターの片隅に小さなウインドウが開き、イリーナの顔が映し出された。
「……どうせ、軍の上層部に売り込んだんだろ? また強引な手を使って……」
『パイロットとて大切な人材よ。これ以上、正規のパイロットを失えば、学徒兵が主力として出撃しなければならなくなるでしょ? それなら"サンダルフォン"1機が先陣を切って大半を片づければ、それだけ戦死者は減るというもの――そう説明したの。これまでのカムイの戦果を見せつけた上でね』
「ならば一度くらいやってみろって許可が下りたってわけか? 別に俺は構わないが……以前の無人機化計画はどうなっているんだ?」
『あんなの白紙よ。
なるほど。
前回の戦闘でもクラゲのような
その場合、全オート補助システムを切断し、全てマニュアル操作に切り替えれば回避できる。
今のところ、人間の精神を支配したり乗っ取られた事例はないからな。
まぁ言うほど、容易い操作ではないのだが。
しかし、俺ならば……
「――問題ない! “サンダルフォン”、弐織カムイ、出るぞ!」
カタパルトデッキの出撃ランプが点滅し、カウントがゼロと示したと同時に機体が射出された。
本来なら耐え難いGが身体を襲うところだが、アストロスーツとナノマシン制御により、
宇宙に解き放たれた、"サンダルフォン"が両翼を広げ自由に飛び立つ。
秒速にして約7.9km/sの
俺は前方のメインモニターから、白く広がっていく巨大な渦を確認する。
『これより約100km先、ホワイトホールが展開されてイマス。
「敵が勢いに乗る前に強烈な一撃を入れてやる。このまま前進だ」
俺はアクセルペダルを踏み込み、さらに速度を上げた。
常に視界は良いも、逆に距離感が掴めにくいのが宇宙空間だ。
したがって、補助AIのレーダーやサポートに頼らなければならない。
だが、俺にはその必要はない。
脳をフルに活性化させ、五感を研ぎ澄ますことで、敵の位置を感知することができる。
特に
おそらく超能力とは違う、動物ならば誰もが持ち合わせる「危険察知能力」、また「未来予測(予知)」に近い感覚なのかもしれない。
それは真空の世界である宇宙空間でさえも適応できていた。
俺は視線を走らせる。
目の前で、白い渦が薄まりホワイトホールが消滅されていく。
『マスター、間もなく敵と遭遇しマス』
「出合い頭で《レギオンアタック》」
『
"サンダルフォン"の両肩に取り付けられている双翼が大きく展開され、さらにギミックが開かれる。
小型なミサイルのような物体が片翼に20機ほど、計40機が搭載されていた。
メインモニターには
俺はトリガーを引き、全弾が発射された。
ドドドドドゥ――……!!!
放たれたミサイル群は蒼い閃光の弾道を描き、確実に
小型でありながらも、その威力は絶大であり、一撃で撃破するに至っていた。
対
したがって宇宙空間では爆発が起こっても無音となるが、その代わり
「――奴らの出鼻を挫いてやったぞ。後は機動力と火力にモノを言わせて各個撃破だ。燃料の残量で引き際としよう」
『COPY』
俺は蒼く輝く複数の輝きの中を突進し、"サンダルフォン"の機動性と武装火力を駆使し
その圧倒的な
――最強のチート・マシンに、最強のスキルを持つパイロット。
俺と"サンダルフォン"の相性は抜群だ。
間もなくして、敵を半数近くまで撃破した頃――。
「よし十分だな。残りは正規のAG部隊に任せよう。撤退するぞ」
『COPY。お疲れ様デス、マイ・マスター』
こうして役目を終えた俺は、ホタルに労われて撤退した。
───────────────────
《設定資料》
〇サンダルフォン
型式番号:HXP-007
平均全高:16,5m(頭部の双角、L型アンテナを除く)
平均重量:本体重量11,5t
全備重量:50t(強化装甲をパージした際、11,5t )
ヘルメス社が保有する最新鋭の試作型
コストの都合で量産型のエクシアが当初の予定より大幅に性能を落していたのに対し、余すことなく最新技術の粋を集結させた、オーバースペック人型機動兵器である。
エクシアの数倍とされる大出力の
明らかに単機の
欠点としては超ハイパワーである分、燃料の消費が激しく背部に
またこれほどのモンスター
一部のパイロットの間で「チートAG」と呼ばれているとか。
《補足》
形式番号: HXP-007
H=ヘルメス社製
X=未知(どこにも属されていない)
P=プロトタイプ機
007=7番目に製造
〇レギオンアタック(軍団攻撃)
サンダルフォンの両肩に取り付けられた双翼に搭載されたオールレンジ攻撃(全方位/範囲攻撃)兵器である。
目標の敵に向けて小型ミサイルを射出させ、遠隔で攻撃を与えることが可能。
小型ミサイルに備えつけられたAIを介して、パイロットの指示の下、電脳AIであるホタルが遠隔で操作している。
《ミサイル形状》
先端がドリル状の小型ミサイル兵器。
常に回転しながら敵の装甲を突き刺して内部から爆発させる機能がある。
突撃する際、『
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