第8話 地球育ちの美少女転校生
いきなり学年カースト一位のハヤタが席から立ち上がる。
別に静かに立てばいいのに、あえて音を出して周囲から注目を集めた感じっぽい。
本人は無自覚かもしれないが、こいつはそういうあざといところが多々見られる。
「やめろ、男ども! 星月が困っているじゃねーか!!!」
出たぞ、無駄な熱血野郎。
何故か美少女が相手だと、やたらとイキりたがる。
さも「俺は違うぜ」的なアレだ。
そう思えてしまう、俺の目線もやさぐれて歪んでいるのは認めよう。
だが言わせてもらうぞ――
そんな熱血キャラなら、俺が頻繁にアルド達にイジられ陰口を言われ続けているのに、何故ハヤタはいつも無視ぶっこいてんだって話だ。
俺が陰キャで男だからだろ?
レクシーのような分け隔てのない
ただそれだけのことだ。
ハヤタが出て来たことで、桜夢を取り囲んでいた男達は黙り込み静かになった。
思わぬところで、カースト一位様のご登場でびびったってところか。
だが、この男だけは違う。
「ハヤタ……オメェ、またすぐいい格好しようとしやがって……どうせ、星月ちゃん目当てだろうが!」
悪いが、俺もアルドに一票だ。
こんな奴と同じ見解ってところは複雑な気分だけどな。
「ちげーよ! 俺は星月が可哀想だろって言ってんだ! んな男ばっかに囲まれていたら、彼女だって迷惑だろうが!」
正論を言ってくるハヤタに、他の女子達から黄色い声援が上がる。
「きや~! ハヤタくん、素敵ッ!」
「やっぱ違うわー!」
「マジ、他の男子無理ッ!」
「アルドくんもああいう所がなければねー!」
ここぞとばかりに、アルドを含めた男達を批判してきた。
安っぽいプライドを持つアルドは形相を歪め、奥歯を噛みしめて身体を震わせている。
「ハヤタ~、テメェ……!」
「喧嘩なら買うぜぇ、アルド!」
ハヤタも負けん気が強く、ファイティングポーズを構え、シャドウボクシングをしながらアルドを挑発し煽っている。
ところで何の争いだっけ、これ?
そんな中、隣席のセシリアが指先で、俺の肩をちょんちょんと突っついてくる。
「弐織くん、ここはお隣として止めに入ったら?」
な、なんてこと言い出すんだ、艦長!
いくら可愛い子だからって、今さっき会った子のために、そんなストレスを抱えてられるかっての。
俺は横目で意味不明な修羅場をチラッとだけ見る。
一瞬見るだけでも、大体のことは頭に入るからな。
二人の男達は今にも取っ組み合いをする勢いだ。
桜夢は両者の間に挟まれる形となってしまい、どうして良いのかわからず、あわあわと困った表情を浮かべている。
確かに目立ちたがり屋のハヤタがアホなせいで火に油。
益々酷い状況だ。
地球から上がって、初めて宇宙。
転校初日でこのトラブルはきついな。
彼女は何も悪くないのに……。
――しゃーない。
俺は伏せて寝るふりをする。
左手首に巻いてある腕時計型のウェアラブル端末に唇を近づけた。
「……ホタル、頼む」
『
小声で指示し、電脳AIのホタルは応えた。
キーンコーンカーン。
『第102期生、ハヤタ・セバスキーにアルド・ヴァロガーキの二名、今すぐ職員室に来なさい。繰り返し――』
不意に校内放送が聞こえる。
担任の先生の声で、二人が呼び出している内容だ。
「「チィッ」」
ハヤタとアルドは舌打ちし、教室から出て行った。
緊迫した状況が解かれ、教室は静まり返る。
はぁっと周囲から溜息が漏れていた。
無論、これはフェイクである。
俺が指示し、ホタルが学園の放送システムをハッキングして流させたのだ。
担任の声を装い喋っていたのも、全てホタルの仕業。
伊達に“サンダルフォン”のAIを担当している電脳妖精じゃないってわけさ。
問題児の二人が抜け、ようやく周囲が静かになった。
ふぅ、やれやれだわ。
「……ありがとね、弐織くん」
俺に対して感謝する声が耳に入ってきた。
不意のこともあり、俺は顔を上げてその方向に視線を向ける。
隣の席に座っている――星月 桜夢だ。
彼女は頬を桃色に染め、じっと俺を見つめている。
優しそうな表情で微笑んでいた。
まさか、俺のした事がバレているのか?
な、なんで?
~星月 桜夢side
今から約一世紀前。
外敵宇宙怪獣
生き残った各国が一致団結し共闘したことで、激戦の末に宇宙へと追い出すことに成功する。
当時、人類は70%の人口を失うも、次なる
太陽系が新たな戦いの舞台となったわけだ。
その間、地球も復興が進み、元の生活とまではいかないも人口が増えつつある。
反面、
なんとも皮肉な話だと思う。
さらに国連宇宙軍がその絶対的な立場を基に、宇宙企業を展開する軍需産業と手を組み、多額の軍資金を確保して潤っていく中、そのしわ寄せは地球に住む者へと訪れていた。
富裕層と貧困層の差は広がる一方であり、治安も悪くスラム街や闇市が増えている。
その背景には先軍政治のイデオロギーがあり、全て「太陽系境界宙域防衛計画」を掲げる国連宇宙軍を優先した政治思想があるからだ。
したがって、わたし達のような地球育ちからすれば、国連宇宙軍が
まるで天空から地上を見下ろす、絶対的な神の如く――。
当然ながら、地球に住む者からの批判もあり、実際に反政府勢力も存在する。
しかし、大半の政府要人達は宇宙に滞在しており、地上から国連宇宙軍に手出しする術を持たなかった。
また
唯一の手段は国連宇宙軍に入隊を志願し、宇宙へと上がり軍人に成りすまして政府の議員や高級官僚に近づき暗殺すること。
地球では、そんな噂も流れていた。
そして――って、あれ?
この話の流れだと、わたしがまるで暗殺者として
ち、違うからね(逆ギレ)!
わたしのお父さんは、れっきとした国連宇宙軍の軍人で「元ゼピュロス艦隊」の艦長だったんだから。
それが父親の名前。
苗字が違うのは、わたしは母方の姓を名乗っているからだ。
両親は離婚し、わたしはお母さんのところで預けられた。
父が国連宇宙軍の高官ということもあり、養育費などは全てお父さんが工面してくれていたみたい。
そのお陰で治安の悪い環境で暮らしていたけど、生活面での苦労はなかった。
お父さんとも宇宙という、途方もなく遠く離れた場所にいる人でも、手紙やリモートなので年に数回のやり取りを欠かさずに行っている。
地球に暮らしながらも、わたしなりに父親の存在を感じ尊敬をしていたと思う。
だけど3年前――
太陽系を巡回中に
正確には、
当時は
『絶対防衛宙域』を死守することは文字通り、命懸けで守るということなのだろう。
皆が覚悟と責任を持って『侍』のように、人類の天敵である
だから地球で聞いた、国連宇宙軍高官達の天下りや独裁政権の噂は、あくまでほんのごく一部の政治家や高級官僚に限られているとばかりに思っていた。
この
───────────────────
《物語の年表》
西暦~
2030年 FESM、地球へ襲来。被害拡大し人類の70%を失うことになる。
2035年 国連地球軍結成、ついに人類は反撃に出る。
2038年 地球上からFESMの一掃に成功。(人類が殲滅したのではなく、FESM自ら宇宙へ戻ったという説もある)
2040年 国連宇宙軍(国際連合宇宙軍)と改名し、新たなFESMの侵攻を予期し「太陽系境界宙域防衛計画」が開始される。
2045年 国連宇宙軍、宇宙へ進出し太陽系を中心に対FESM侵攻阻止の
西暦~
2135年 国連宇宙軍より各開発メーカー企業に命じ新たなエネルギー源である『エーテル(霊子力)』を使用した新型兵器の開発に着手する。
2144年 ヘルメス社によって人型機動兵器アークギア(AG)の試作機がロールアウトされる。
2145年 試作競争の末、人型機動兵器アークギア(AG)「エクシスア」を国連宇宙軍の主力兵器として量産化が決定する。
2147年 本編~「サンダルフォン」と呼ばれる謎のAG一機がFESMを殲滅するようになった。
※AG開発される以前は、宇宙用高機動型の戦闘機を主力兵器として使用されていた。
また当時は戦況に応じて戦艦ごと突貫する玉砕戦法も用いられている。
それだけに人類にとって「絶対防衛宙域」を死守することは必須であると言えた。
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