第83話 新世代のプリンシパリティ
「レディオ・ガルシア……貴方、最初からそのつもりで私達を招いたのね? 我が社のパイロットと最新鋭
『“ツルギ・ムラマサ”ですよ。なんですか、ツルリンパって……いいじゃありませんか。これで、例の件はチャラってことで』
例の件とは、第三艦隊方面で現在進行中の
「……そうね、悪い取引じゃないわ。でも生憎様、“サンダルフォンMk-Ⅱ”は調整中よ。今からじゃ、とても間に合わないわ。それと、エウロス艦隊には強化型の“デュナミス・カスタム”3機を既に送っておいたから、後はそちらで好きにするといいわ」
『……なるほど、貴女なりの誠意ですね。了解しました、こちらはそれで手打ちといたしましょう』
「あと模擬戦でパイロットを貸す件はいいわよ。この二人が“ツルピカ丸”の相手をしてあげるわ」
イリーナは両手を広げて、後方に立つ俺と桜夢を提示する。
対するレディオは青い瞳の双眸を細め『……ほう』と呟く。
『てか、“ツルピカ丸”ってなんなのです? すっかり遠のいているじゃありませんか? 貴女、絶対にわざとでしょ……まぁ、それも亡きヴィクトル氏の得意とした手口ではありましたが……しょーもないところまで引き継いだのですね』
「どうでもいいでしょ。それでどうするのよ?」
『そちらこそ、ご自慢の
「心配ご無用よ。
『ほう……新型ですか』
イリーナの言葉に、レディオの表情が一変する。
飄々とした優男風から、何かを探るような鋭い眼光を宿した。
イリーナは動じることなく、両腕を組んで頷いている。
「ええ、っと言っても実験機だけどね。機動テストもまだしてないわ」
『しかしそこはヘルメス社だ……おそらく《知恵の実》の恩恵による賜物。噂の黒騎士さんなら、正しく性能を引き出せそうですね……いいでしょう。是非、その
「わかったわ――至急、“プリンシパリティ”の手配をして頂戴」
イリーナは俺と同様の腕時計型のウェアラブル端末に、形の良い唇を近づけて指示を送る。
それからすぐ、俺と桜夢に視線を向けてきた。
「……っということよ。貴方達も準備してね」
『イリーナ、俺達同時にか? その新型
「1機よ。“プリンシパリティ”は複座型、つまり二人乗り用の
『なんだって?』
二人乗り用の
てか、どうやって操縦すんの?
「
『ああ勿論だ。その際の
「そっ。まぁ、パイロット育成用の練習機としても想定していたんだけど……あとね、ちょっと二人共、顔を近づけなさい」
イリーナに指示され、俺と桜夢は従ってヘルメット越しで顔を近づけてみる。
一拍置き、彼女は重々しく口を開いた。
「……これは非公表だけど、
『『え!?』』
「しーっ! 声が大きいわよ!」
『す、すまん。は、初耳なんだけど……新種か?』
俺の問いに、イリーナは首を横に振るう。
「……違うわ。100年以上前、地球に降りて来た時からいたわ……現在でも実例があるわ」
『実例って?』
「今、私が説明できる範囲だと……エウロス艦隊が戦っている“サンダルフォン”6号機。あの機体も、その
マジかよ……人間の身体と人格を乗っ取る
『どうして非公表なんだ?』
「その
『あと?』
俺が聞き返すも、イリーナは首を大きく横に振るう。
「なんでもないわ。私から話せることは以上よ――つまり、“プリンシパリティ”はそれも想定として造られているのよ。
『万一、乗っ取られたら、そのパイロットをコックピット内で始末するためか……まぁ仕方ないけど』
「そうよ。そんなのを想定として造っているんだもの……余計に言えないでしょ?」
『まぁな、理解した。けど今回は模擬戦だよな? オペレーター役は不要じゃないのか? 俺にはホタルがいるわけだし……』
「何言っているのよ? “プリンシパリティ”の戦闘データを獲得するために決まっているじゃない。グノーシス社の“ツンツルテン”ばかりに美味しい思いさせてどうするの? 転んでもただでは起きないのがスターリナ家よ!」
『……“ツルギ・ムラマサ”だろ? 俺達にまで、そういうボケをかますのやめてくれよ……了解した。それと、ごめんな……桜夢。また変なことに巻き込ませてしまって』
俺は申し訳なく想い、小声で桜夢に詫びた。
『そんなことないよ。わたし、カムイくんと二人きりで
またなんて嬉しいことを……本当に性格のいい子だ。
よし! いつでも俺が守ってやる!
そんな俺達に対して、イリーナがジト目で睨みつけている。
「流石にコックピット内はあり得ないと思うけど、イチャコラ禁止だからね! 万一のために監視カメラを設置しておくから! あと正しいデータ収集のため、必ず拳銃と
『新型のナノマシンだって? 一体なんだよ、それ?』
ナノマシン好きの俺が食いついた。
「従来の性能に加え、五感を任意で操作することができる作用があるわ。例えば損傷した部位の痛覚や止血は勿論、空間認識能力を高めるために視覚や聴覚なんかも調整できるようになったわ……シズがカムイのデータを基に開発したのよ」
『シズ先生が……あの
「
あっ、やばい。
『ごめん、イリーナ……俺、もう打っちゃったわ』
「え!? どうしてよ!?」
『いや、それは……そのぅ』
い、言えない……イリーナの後ろで桜夢に手を握られたり、その前にもセシリアとご飯行の件でなんやかんやあって頭の中がもやもやしたから、ホタルに頼んでこっそり打ちましたなんて。
「仕方ないわね……サクラだけでもいいわ。搭乗前にヘルメス社の整備班から貰って頂戴」
『わかりました、社長』
かくして、両社の思惑が交差する中。
グノーシス社製
ヘルメス社専用の|格納庫にて。
『――これが、“プリンシパリティ”か?』
『随分と変わった形をしているね……複座型だからかな?』
桜夢も、悠々と佇む機体を見上げながら感想を漏らしている。
それは通常の
既存より一回り大きく、胸部が前後に突き出ている。機体バランスを保つためか両肩の装甲が翼のように広げられており、両脚部は太く足底が十文字に拡張されていた。
あらゆる箇所に姿勢制御用の
武装に関しては、両腕に長銃身型の
なんでも前回戦った
その堂々とした出で立ちといい、まるで機動性のある要塞と思えてしまう。
“プリンシパリティ”という機体。
まるで新世代の
───────────────────
《設定資料》
〇プリンシパリティ
型式番号:HXE-001P(実験機)
平均全高:19,5m(頭部の
平均重量:本体重量17,5t
全備重量:35t~(追加外装、装備により異なる)
イリーナ曰く、対特定
またパイロット育成用の練習機として想定されているらしい。
主操縦席と副操縦席に分かれており、特に副操縦席には最新型の情報処理能力や演算処理能力に優れた次世代のOSを搭載することで、複数の
(つまり2機以上の
また仮に
余談として、より高い空間認識能力が要求される機体のため、パイロットには新型ナノマシン注入が義務付けられていた。
H=ヘルメス社
X=所属未定
E=Experimental aircraft(実験機、本来実戦投入されない機体)
P=Prototype(試作機、ゆくゆくは量産を想定されている)
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