第72話 試作支援機ガルガリン
イリーナの策略通り、加賀キリヤは警備隊から車を奪い逃走した。
ヘルメス社の工作員が依頼主である『フェデリック准将』の振りをして、加賀を
その
なんでも超耐熱タイルと冷却システムが搭載されたサーフボードのようなシールドに身を包み、そのまま滑空して降下していくらしい。
――と言っても、これらは全て
実際に、
そのシールドは戦艦の予備装甲を適当に加工してそれっぽく見せた
しかし暗殺が失敗した今の加賀なら、藁にも縋る思いで食いついてくるに違いない。
奴にとって地球こそが唯一の逃げ場所だからだ。
『――あとは地球まで行けるという
「
『――“ガルガリン”よ。先日、
「《知恵の実》? ってことは、情報媒体と化したヴィクトルさんの記憶か……確かイリーナが注文したんだよな?」
『そうよ。量産機の“エクシア”でも戦艦並みの火力と機動力があれば、
「二機って言ったよな? その一機を
『ええ、カムイはもう一機の“ガルガリン”を使用して、加賀を誘導して欲しいのよ。できるだけ、“セフィロト”から離れるように……あとはこちらで対応するわ』
「俺に見届け役も兼ねてか……了解した。俺も、イリーナを狙う
ここはドライになって割り切るしかないだろう……。
そして作戦が決行された。
加賀は工作員の誘導で
俺は迎えに来た例の大型バイクに跨るフルェイスのヘルメットを着用した女性ライダーの後ろに乗り、ヘルメス社専用の
「ん? “サンダルフォン”は?」
前に訪れた際に、装甲が外されて愛機がどこにも見当たらない。
「調整中です。今回の作戦には間に合わないかと。カムイ様は“デュミナスJBカスタム”で出撃せよとのご指示です」
女性ライダーは丁寧な口調で言ってくる。
「ああ、イリーナから聞いている。それで、“ガルガリン”とやらは?」
「
相変わらず手回しがいい。
下手な『反政府勢力組織』や
俺は自分のアストロスーツを持って、指定された
「あ、あれが……“ガルガリン”?」
その偉観を誇る光景に驚愕し声を震わせる。
外観は細長い流線型の巨大バイクだ。
その真ん中には、シート部分と思われる
一応、主力武装のジャイアント・ガトリングも背部に搭載されている。
俺は整備員達に急かれる形で、学生制服のままコックピットに乗せられた。
『マスター、加賀キリヤは既に強引にハッチを破壊し、“ガルガリン”で逃走してイマス。速くアストロスーツに着替えてくだサイ。尚、この機体は相当な推進力デス。ナノマシンでの身体制御が必要となりマス』
電子妖精の姿をしたホタルがメインモニターから立体的に現れる。
俺の周囲を飛びながら催促してきた。
「わかっている、そう急がせるな! わりと時間が掛かる作業なんだよ!」
『では、先にナノマシンを打ってくだサイ。移動しながら着替えまショウ。それまで操縦はワタシが担いマス』
「ああ、頼む」
俺がナノマシンを投与しアストロスーツに着替えをしている中、漆黒の“デュナミス”機を乗せた“ガルガリン”は
『“ガルガリン”、発進シマス!』
「それ、俺が言いたかった決め台詞――うおぉぉぉっ!!!」
射出ランプのカウントがゼロと示し、赤く光ると同時に機体は発進した。
直後、急速なGに見舞われてしまい、着替え中の俺は座席シートの上でひっくり返ってしまう。
「ああ、クソォ! なんて日だ!」
何とか姿勢を正し、アストロスーツに着替えを終える。
ヘルメットのバイザーを下げながら愚痴を零した。
虚空の宇宙区域を猛スピードで直進する、“ガルガリン”。
“サンダルフォン”と同等の推進力を持つだけに相当な速度だ。
その場で目を通したチュートリアルでは、戦闘機を操縦する感覚で操作するとか。
俺はホタルと操作を切り替え、操縦桿のグリップを握り締めた。
束の間。
『マスター、目標を確認しマシタ。距離、約50km先デス』
「ん? 思いの外、離されてないな……トラブルか何かか?」
『イエ、向こうはワタシがおりまセンし、マスターのような技量もございまセン』
「つまり初心者だから、びびりながら操縦しているのか……」
まぁ
宇宙での操縦感覚はそう簡単には慣れないだろう。
しかし妙だぞ。
「もう結構、“セフィロト”から離れている筈だ。何故、いつまでも泳がせるんだ? まさか試験運転の延長とか言うんじゃないよな?」
俺の問いに、ホタルはすぐに返答してこない。
別の誰かと通信している様子だ。
『……イエス、わまりマシタ。マスター、オーナーからのメッセージデス。このまま加賀を見逃し、本機は直ちに帰還せよとの指示デス』
「なんだと? 結局、奴を見逃すのか? まぁ、“ガルガリン”の推進速度なら、地球まで降りられそうな気もするが……燃料もそこまでもつのか?」
『イイエ、違いマス。只今、『監視船』より小範囲のホワイトホール反応を確認したようデス。丁度、この軌道上先の宙域にあたりマス』
「
少なくても群体型じゃない。
野良か、あるいは以前のレヴィアタンみたいな
『うわぁ、なんだぁ!? あっ、あああ――……』
突然、コックピット内で悲鳴に似た通信が入る。
驚愕し戦慄する男の声が聞こえ、何故か途切れた。
すると、カッと前方が蒼白い光り小さく輝き、すぐに消えてしまう。
「なんだ、今のは!?」
『前方を移動していた“ガルガリン”デス。まだホワイトホール内にいる
「ってことは、加賀キリヤか? 奴はどうなったんだ?」
『通信が途絶え、
なんだって? 死んだってことか……突如、現れた
俺は奴の死を見届ける役目だったとはいえ、少し複雑な気持ちはなくもない。
しかしだ。
「ここは、まだ“セフィロト”からそう離れていない距離だ……高機動型の
指示通りにこのまま撤退するべきか正直迷っていた。
ゼピュロス艦隊が来るまで、ここで食い止めるという選択も視野にいれている。
『イエス。マスター、ホワイトホールから敵が姿を見せました――
クソッ、そちらのパターンか……厄介だな。
「それで識別は?」
『“デカラビア”と“アンドレアルフス”、双方とも『
「タイプは別だが、どちらも遠隔で全方位攻撃を得意とする
やはり最近の奴らは、今までと何かが異なっている。
一体、何を目的としているんだ!?
───────────────────
《設定資料》
〇ガルガリン
型式番号:HXA-001P
最大全長:35,2m(ヘッド部分に装備される
平均重量:47,8t
搭載可能AG数:1機
最大移動時速/ 約28,400km(秒速:約7.9 km/s)
巨大なバイクを思わせる外観。AGを搭乗させ移動することができる試作型の超高速移動型自走砲台(ロマン砲)であり、超長距離飛行が可能とされている。
“サンダルフォン”並みの推進力を持ち、低スペックAGでも最大高威力とされる
《由来》
ガルガリンとは「車輪」「瞳の意」とも呼ばれ、巨大な車輪そのものか、無数の瞳をもつ天使として描かれる。
H=ヘルメス社製
X=未所属機(国連宇宙軍保有となれば、「U」となる)
A=Attack support…攻撃支援
P=プロトタイプ
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