第73話 デカラビアとアンドレアルフス




 突如出現したFESMフェスムによって、暗殺者アサシンの加賀キリヤはAGアークギアと試作支援機“ガルガリン”ごと撃墜されたらしい。


 襲ったのは爵位FESMロイヤル級の堕天使グレゴリル、“デカラビア”と“アンドレアルフス”の2体だった。


 これら2体は先に俺が言った通り、遠距離から全方位攻撃を得意とする厄介な連中だ。


 まず“デカラビア”だが、外観は巨大な五芒星のようでヒトデとも思わせる形状であり、背部と思われる裏側に小さな白い双翼が生えていた。

 身体の中心部に蒼白い瞳に模した『星幽魂アストラル』が剥き出しになっており、そこから戦艦の主砲並みの霊粒子破壊砲エーテルブラストを放つ。

 また五つの角隅から、同じ姿を模した小型の遠隔誘導攻撃義体を射出して、霊粒子小銃エーテルライフル並みのエネルギー弾を全方位から同時、あるいは連続攻撃を繰り出すことが可能であった。

 

 そして“アンドレアルフス”は、色鮮やかな装飾に魚類の蓑笠子ミノカサゴに似た形状をしている。側面側には胸鰭を彷彿される大きな白い翼が生えている。

 背鰭と思われる個所には、九つ大きな棘のような刃剣ブレードが突き刺すように生えており、それらを放出させ自在に遠距離からの斬撃を可能とした。


 どちらもタイプは異なるが、強力かつ幅広い戦術を得意とするFESMフェスムだ。


 通常、奴ら1体につき中隊規模のAGアークギア部隊で迎え撃つ必要があるとされている。

 それほどまで、脅威かつ厄介な相手。しかも双方の機動力が高い。


「このまま俺が撤退したら、奴らは間違いなく“セフィロト”に向かうだろう……ゼピュロス艦隊が到着するまで、おおよそ5分くらいか……」


 俺はコンソールパネルのサブモニターで宙域座標を確認しながら思考を巡らせる。


『マスター、何を?』


「……FESMフェスムを斃すのではなく足止めをする。ゼピュロス艦隊が来るまでの間……それなら、この機体でいけるかもしれない」


『その条件での成功率50%、危険デス。お勧め致しまセン』


「しかし、“セフィロト”に近づけさせるわけにはいかない。特に多彩な広範囲かつ遠距離攻撃を得意とする、あの2体はな……わかるだろ、ホタル?」


『イエス、マスター。ですガ……』


「大丈夫だ、“ガルガリン”もある。イリーナだって、こいつの実戦データが必要な筈だ」


『COPY。“デュミナスJBカスタム”及び“ガルガリン”はこれより戦闘態勢に入りマス。敵との距離約100㎞デス』


「――霊粒子破壊砲エーテルブラスト発射ファイアッ!」


 俺はロックオンされた照準に目掛け、操縦桿のトリガーを絞った。


 “ガルガリン”の機首ヘッド部分の霊粒子破壊砲台エーテルブラスト・キャノンから、高出力のエネルギーが放出される。


「ぐっ!」


 機体越しに振動が伝わり、コックピットを激しく揺らした。

 これは……“サンダルフォン”が持つ霊粒子破壊砲エーテルブラスト以上の威力だ。


 一直線に伸びていく、蒼白い火箭の閃光は次第に細くなり途切れていく。

 同時に、コックピット内の振動も沈静化した。


「やったのか!?」


『イイエ、直前で回避されておりマス。既に“デカラビア”と“アンドレアルフス”は、本機を捕捉し、自分らの射程内に入れるため接近しつつありマス』


「確か得意の遠距離も自分の視界内でなければ使用できないんだよな? 霊粒子破壊砲エーテルブラストは外してしまったが、とりあえずこちらに注意を向けられたのは狙い通りだ。ホタル、次のチャージまでどれくらい掛かる?」


『今の一撃のみデス』


「はぁ? 嘘だろ……チュートリアルじゃ、3~4発は撃てるって……」


『この“ガルガリン”はテスト中の試作機なので……申し遅れましたスミマセン』


 そうなのか? まぁホタルが謝ることじゃない。

 てか戦闘前に確認しなかった俺のミスだ。ストレスにならないよう、この子なりのフォローのつもりだろう。


「仕方ない。なら相応の戦い方をしてやる。ホタル、機体の戦闘データをバックアップしておいてくれ。でないとイリーナが後でうるさい」


『COPY……マスター、何を?』


「これより敵陣に向けて突貫する――GO!」


 俺はアクセルペダルを踏み込んだ。


 “ガルガリン”の大型スラスターから蒼白い霊粒子エーテルが猛烈な勢いで噴射され、機体は一気に最大加速まで達した。

 超高速により、ほんの一瞬で2体のFESMフェスムとの距離が縮まる。


「――来る!」


 俺のフル稼働した脳内で、そう直感が囁き疼いた。



 ドウッ!



 後方から霊粒子エーテルを受け、機体はコントロールを失い旋回していく。


「ぐっ!」


ALERT緊急警報! “ガルガリン”、後方からの攻撃によりスラスターの一部が破損ッ! 機体制御できマセン!』


「“デカラビア”の方位射撃だな!? だが想定内だ! “ガルガリン”の機体制御は俺がマニュアルで行う!」


 俺は片手で操縦桿を握り機体を操作しながら、さらに片手でコンソールに浮かぶキタッチパネルを打ちこみ、“ガルガリン”のOS設定を書き換え始める。


 すると、“ガルガリン”は旋回を繰り返しながらも、ブーメランのように着実にFESMフェスムに近づいていく。


 何度も過ぎていく視界で、巨大な五芒星の形をした“デカラビア”を捉えた。


 “デカラビア”は五つ角の部分から小型遠隔誘導攻撃義体を射出して、“ガルガリン”の全方位を包囲する。


「――いまだ!」


 一斉射撃する瞬間、俺は“デュナミスJBカスタム”を“ガルガリン”との連結を解除させ、引き離した。

 AGアークギアの姿勢制御バーニアを吹かし、さらに後方へと下がっていく。


 刹那、



 ドォォォォン!



 “デカラビア”の包囲斉射により、“ガルガリン”は撃墜された。

 搭載された霊粒子動力炉エーテルリアクターの大破により、蒼白い閃光が視界を覆う。

 

 しかし、これこそ俺の計算通りだ。


『マスター! 敵FESMフェスム霊粒子エーテルの散開により、ワタシ達目標を見失っておりマス!』


「よし、目眩まし作戦成功だ! ホタル、武装セレクト! ジャイアント・ガトリングに装備移行――“デカラビア”に向けてロックオン!」


『COPY!』



「――もらったァ!」


 “デュナミスJBカスタム”の代名詞とも言える、ジャイアント・ガトリングが蒼白い閃光を撃ち放ち炸裂する。

 長大な砲身を誇る六連装の銃口が高速に回転し、“デカラビア”に向けて霊粒子エーテルが内蔵された弾丸を発射させた。



 ヴヴヴヴヴヴヴ――ッ!



 全ての弾丸が“デカラビア”の中心にある瞳のような『星幽魂アストラル』に命中して粉砕する。

 心臓部といえる『核』を破壊されたことで、巨大な五芒星の肉体は制御を失い、煮え滾るように膨れ上がっては泡のように弾け飛び消滅した。

 当然、切り離していた分身である小型な攻撃義体も同様の現象を見せて散開する。


 ――まずは“デカラビア”の撃破に成功した。


「残る1体ッ!」


 俺は機体を操作し、“アンドレアルフス”に銃口を向ける。


 が、



 ――斬ッ



 霊粒子刀剣セイバーブレードのような蒼白い光輝を纏う何かが横切り、ジャイアント・ガトリングの砲身を両断した。


「うおっ、クソォッ! 得意の遠隔誘導斬撃か!? 武装解除――《EXMエクストリームモード》発動ッ!」


『COPY!』


 “デュナミスJBカスタム”はジャイアント・ガトリングを放棄し、霊粒子小銃エーテルライフルに切り替える。

 切り札である霊粒子推進機関エーテルエンジンを一時的に制限リミッター解除させるシステム、《EXMエクストリームモード》でさらに機動性を向上させた。


 メインモニターから、離れた距離で浮遊する“アンドレアルフス”を捉え、突撃を仕掛けようとスラスターを噴射させる。


 その瞬間、全方位360度から刃剣ブレードが襲い掛かってきた。


「チイッ!」


 俺は舌打ちをして攻撃から一転し、回避行動を余儀なくされてしまう。


 直感力を研ぎ澄ませ、複雑かつ独自に飛来してくる九つの刃剣ブレードを見極める。

 霊粒子小銃エーテルライフルで、なんとか三つまで撃ち墜とすことができた。


 刹那。


 ――マズイッ!


 本能で自分の危機を予見してしまった。


 真下からの攻撃に、俺は察知し操作するも、《EXMエクストリームモード》状態にもかかわらず機体の反応が遅れ追従できないでいる。

 結果、脚部に斬撃を受けてしまい、両足を切断されたことで体制を崩してしまう。次の斬撃で右腕と左腕までもが斬られてしまった。


 “デュナミスJBカスタム”は四肢を失う無惨な姿となり、完全にコントロールを失ってあらぬ方向に回転を繰り返している。


「もう駄目だ――脱出する!」


 咄嗟にそう判断し、このまま機体を放棄することにした。



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