第74話 進化した漆黒の天使
“アンドレアルフス”の遠隔操作による
俺は迅速な判断で、機体を放棄し脱出を試みる。
幸い胴体部分は無傷だ。
背部に搭載された
ほぼ同時のタイミングで、“アンドレアルフス”が遠隔操作する
その勢いもあってか、俺を乗っている脱出ポットは流される形で、“アンドレアルフス”の射程距離から離れることができた。
奴の弱点は、自分の見えない場所での遠隔誘導攻撃ができないことにある。
「……幸い、機体の爆発が視界を奪う効果になったようだ。しかし、もう俺に打つ手はない。気づかれたら終わりだ」
撃破された残骸を装って、さりげなく脱出ポットのスラスターを吹かしながら後退していく。
今の俺にはこのまま逃げ切るしか術を持たなかった。
なんとか、ゼピュロス艦隊が来るまでやり過ごすしかない。
すると、
『マスター! 間もなく支援の
「そうか……って、早くないか? まだ3分ほどしか経ってないぞ? しかもたったの1機ってどういうことだ?」
『それは――ALERT! “アンドレアルフス”、こちらに気づきました! 遠隔
「クソッ! どうする――ん? あれは……なんだ!?」
ふと俺は遠くから物凄いスピードで迫って来る何かを見つけた。
サブモニターを拡大させると、1機の
それは六枚の翼を羽ばたかせ、漆黒の装甲を纏う機体。
随分と懐かしく感じると共に、どこか違和感を覚える。
けど間違いない、あれは俺の愛機――。
「――“サンダルフォン”!」
俺の呼び掛けに反応するかのように、“サンダルフォン”は
ドゥ! ドゥ! ドゥ!
こちらに襲ってくる、遠隔
なかなかの腕前だ。
「誰かが操縦しているのか!?」
『違いマス――途中からワタシが遠隔で操作してイマス』
「ホタルが? まぁ、不可能ではないが……あれが“サンダルフォン”? 随分とシェイプアップしたように見えるが……」
ヘルメス社の専用
そういや、フォルムも大分変わるだろうとも言っていた。
『――カムイ。その“Mk-Ⅱ”は、まだロールアウトしたわけじゃないからね!』
無線から、イリーナの声がノイズ交じりで聞こえてくる。
「またイリーナが射出してくれたのか?」
『私しかいないでしょ? 貴方を失ったら、誰がその
俺の無茶に相当ご立腹のようだ。
仰る通り無謀なチャレンジだったな……おかげでこの有様だ。
「……悪かったと思っているよ。けど、あの2体を“セフィロト”に近づけるわけにはいかなかった……
『まぁ、“デカラビア”を斃したのは流石ね……反省は後よ、話を戻すわ。その“Mk-Ⅱ”は貴方がピンチだったから、急ピッチで組み立てて、“セフィロト”から無理矢理に射出したモノよ。したがって武装も限られているし、本来のパフォーマンスも発揮されないわ』
「けど、どうしてゼピュロス艦隊より早く到着したんだ? まさか追い抜いたってのか?」
『そうよ。中途半端な状態でも、その“Mk-Ⅱ”はそれだけの機動力を持っているってことよ。とっとと乗り換えなさい』
「わかった……ありがとう、イリーナ」
イリーナとの通信を切る。
俺は彼女の配慮に感謝しながら、脱出ポットのハッチを開けた。
身を乗り出しヘルメットのバイザー越しで、新しく生まれ変わった愛機の姿を見据える。
改修前と同様に装甲部部分の基本カラーは
しかし新たに二の腕や大腿部に腹部など
以前の武骨なデザインから、より引き締まったような流線形が目立つフォルムとなった。
フェイスは変わりなく、兜のようなL型双角アンテナに吊り上がったデュアルアイで蒼々と淡く発光されいる。
漆黒の翼も健在であり、両肩のサブアームで固定された翼が2枚に、背部の主翼と副翼の4枚である計6枚で構成されている。
また背部の中心部に連結された
武装面では右腕に装備された
左腕にはデザインが一新され薄くなった
『――型式番号:HXP-007-2、“サンダルフォンMk-Ⅱ”。マスターの新しき
「これが“サンダルフォンMk-Ⅱ”……」
ホタルの説明に、俺は愛機の名を呟いた。
その“サンダルフォンMk-Ⅱ”は数発ほど
こちらを招き入れるかのように、胸部のコックピット・ハッチが開かれた。
俺は脱出ポットから離れ、アストロスーツの推進装置で移動して機体内部へと乗り込む。
コックピット・ハッチが閉められる。
シートに座ったと同時に、メインコンソールが前方を覆う。
魂を吹き込まれたかのように、“サンダルフォンMk-Ⅱ”のデュアルアイが輝いた。
「この感覚、何故か凄く懐かしいな……前と変わらないようだが、より洗礼されて進化した躍動を感じるぞ」
『機動性、運動性共に30%向上。ですが、オーナーが仰られた通り、カットされた機能も多く、使用できない武装もありますので気を付けてくだサイ』
「了解した――“サンダルフォンMk-Ⅱ”、これより戦闘に入る!」
俺はアクセルペダルを踏み、“アンドレアルフス”へ突貫する。
“アンドレアルフス”は背鰭に模した九つの
“サンダルフォンMk-Ⅱ”は半回転して完璧に躱しきる。
「いい感じだ、“サンダルフォン”!」
あの時の違和感はない。
寧ろ精密に、いやそれ以上の反応速度で応えてくれる。
より高みを目指せる
これが“サンダルフォンMk-Ⅱ”。
俺の新たな機体。
『マスター、遠隔誘導
「問題ない。3点バースト・モード!」
『COPY』
脳内をフル回転させ、直観力とフォトグラフィック・メモリーを駆使して迫り来る攻撃を見極める。
“サンダルフォンMk-Ⅱ”は機体を捻らせ、螺旋を描きながら
俺は
さらに同じ工程を繰り返し、残りの六つも撃破する。
「行けるッ!」
漆黒の翼が優雅に飛翔し、敵
逆に“アンドレアルフス”は敵わないと悟ったのか、胸鰭のような大きな白い翼を羽ばたかせて後退していく。
当然ながら逃がすわけがなく、“サンダルフォンMk-Ⅱ”は高速に“アンドレアルフス”の頭上を飛び越え、すぐ目の前に降りたつ形で接近した。
ついに至近距離まで追い詰める。
“サンダルフォンMk-Ⅱ”は“アンドレアルフス”の頭部に向けて、左腕に装備された
「終わりだ――!」
ドシュ!
――白兵戦用の兵器、パイルバンカーだ。
杭は敵
すると瞬く間に肉体は崩壊し、破裂するかのように飛び散り消滅する。
ようやく、“アンドレアルフス”の撃破に成功した。
「……ふぅ、またまたイリーナに助けられた。地味に新兵器も試せたな」
俺は戦闘終了の余韻に浸り、操縦桿を指先でなぞる。
“サンダルフォンMk-Ⅱ”の性能に確かな手応えを感じながら――。
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《設定資料》
〇サンダルフォンMk-Ⅱ
型式番号:HXP-007-2
平均全高:16,5m(頭部の双角、L型アンテナを除く)
平均重量:本体重量11,5t
全備重量:25t(強化装甲をパージした際、11,5t )
搭乗者である弐織カムイの進化した超反応に追従が困難となったことで、本機の改修を行い一新された
装甲には『特殊強化軽装素材』という、新開発された特殊チタニウム合金と
その結果、これまで武骨な重装甲だったスタイルも細身となり、機動性や運動性も30%向上する。さらに欠点であった燃費も節約され、
改修は機体だけでなく武装にも施されており、二連装式のツィンライフルは排除してバースト撃ちが可能となった
そして、切り札であり諸刃の剣であった《ヴァイロン・システム》も今回の改修を契機に見直されることになったようだが、現時点では非公開されている。
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