第75話 事件解決と新たな影
ゼピュロス艦隊と戦域に入る前に、なんとかと“デカラビア”“アンドレアルフス”の
正直、“デュミナスJBカスタム”を失いかなり際どい状況だったと思う。
イリーナが配慮して届けてくれた、新型
それが、“サンダルフォンMk-Ⅱ”。
生まれ変わった、俺の愛機である。
「お疲れ様、カムイ」
ヘルメス社専用の
何せ、本来なら“サンダルフォンMk-Ⅱ”はロールアウトしてなく、大部分の調整作業が残された状態であり、俺のピンチもあり急ピッチで実戦投入されたらしい。
イリーナ曰く「“サンダルフォン”の専属パイロットである、カムイを失ったら、この
相変わらずドライな反面、そのきめ細かな心遣いに感謝している。
「ああ、イリーナ。ありがとう……命拾いしたよ。それに、この“サンダルフォンMk-Ⅱ”……いい機体だ。これで思う存分戦えそうだよ」
俺はコックピット直結された
すっかり見違えた漆黒の
「そっ、良かったわ。けど先に言ったけど、まだ調整中の機体よ。逆に良く無傷で戦えたと褒めてあげたいわ……そこは流石ね、カムイ」
「そんなことは……ってことは、またしばらく使えないのか?」
「うん、まぁね。前のように先陣を切るのはNGね。緊急事態なら四の五の言えないところかしら……」
「……そうか、肝に命じておくよ。それと、“デュミナスJBカスタム”と“ガルガリン”を失ってしまってすまない」
「もう、いいわ……あまりグチグチ言うとカムイのストレスになるでしょうし、それに戦闘データはホタルがしっかりバックアップしてくれているからね。けど、おかげで試作段階だった“ガルガリン”の開発も軌道に乗れそうよ。“デュミナスJBカスタム”も異なる
「“サンダルフォン”と同じって……ヘルメス社には俺の他にテストパイロットとかいるのか?」
「……あくまで、まだ構想段階よ。そのうち教えるわ」
最近、イリーナが遠回しに言う時は、決まって俺の身近な人間が巻き込まれることに気づき始めている。
けど今は言及している場合じゃない。
「それとイリーナ、『加賀キリヤ』の件だが……」
「仕方ないんじゃない? 最初から
「そ、そうだな……けど加賀の口振り、相当
「大抵はそうじゃないかしら? 地球上の大半は、私達が
「確かに軍の上層部とか何を考えているのかわからないところはあるけど……みんな、
「カムイの言う通りね。いっそ、みんな
なんだろう……ふと、イリーナがヴィクトルさんに見えてきた。
やはり親子だからだろうか……。
けどイリーナの場合、人間の善悪を面白そうに語っていたヴィクトルさんと異なり、どこか悲観的に思えてしまう。
それこそ、
――こうして暗殺事件は解決した。
ヘルメス社に捕らえられた主犯格である、『フェデリック・ウッズ准将』は国連宇宙軍に引き渡され、軍法会議にて極刑になるだろうとのこと。
加賀キリヤをサイボーグに改造した連中もフェデリック直属の部下だったらしく、パーツを提供した闇業者ごと逮捕されている。
今後はフェデリックと手引きしていた『反政府勢力組織』も明るみなり、地球の国連軍が掃討に当たるに違いない。
とりあえず、一安心ってところか。
余談だが、『加賀キリヤ』は偽名であり奴は日本人ではなく、とある極東の東洋人だったようだ。
さらに加賀と共に地球に上がって自害した、もう一人の
実はそちらの女
その背景と姉として慕っていた女
途中でびびって逃げ出してしまったけどな。
だが正直、加賀キリヤの気持ちもわからなくもない。
地球に住む者にとっては、宇宙から抑制され支配を受けているようなものだからだ。
けど宇宙船民だって遊んでいるわけじゃない。
その分、
したがって俺からすれば、全ては大人達の事情だと思う。
各々の根深い思いもあるとはいえ、命を懸けるべきところが違うような気がしてならない。
どちらにせよ、イリーナは俺が守る。
その考えは未来永劫変わりない。
たとえ全人類を敵に回してもだ。
**********
「――イリーナ様。フェデリックの尋問により、暗殺を
ヘルメス社の社長室にて、
「それで、誰?」
「紆余曲折こそありますが、最終的に許可したのはガルシア家の長男で跡取りでもある、レディオ・ガルシアです」
「……そぉ、やっぱりね」
イリーナは赤い瞳を細めるだけで驚きを見せることなく、
「ご察しの通りですか?」
「ええ……生前、お父様が嬉しそうに仰っていたわ。スターリナ家と親族である、ガルシア家で最も頭が切れる優秀な男だが、その分強欲で卑劣な人間その者だとね」
「はぁ……(いや旦那様、嬉しそうに言うとこ、そこ? 思いっきり最悪な人間ってことじゃない)」
曖昧な相槌を打つリサに、イリーナは両腕を組んで「ふぅ」と溜息を漏らす。
「お父様は善悪関係なく人間大好きだから仕方ないわ……けど、ヘルメス社を引き継いだ私にとっては、いずれ大きな障害となる人物だと思っていたけどね。まさか軍の高官を焚きつけて、私の暗殺を試みるなんて……ウザいわね」
「こちら然るべき手段を講じましょうか? ガルシア家にも潜入している暗殺に特化した
「そこまでしなくていいわ、どうせ証拠もないし。それにあの男の性格上、きっと暗殺も本気じゃなかった……おそらく私に対する嫌がらせ、あるいは遠回しの不満ごとか。どちらにせよ、悪戯程度のことよ。ガキの挑発に、あえて乗る必要はないわよ」
「悪戯ですか(な、何、好きな子にちょっかいかける男子的な……だとしても暗殺って)?」
「はい、これ」
イリーナは自分のタブレット端末を操作し、立体映像で一枚の薄いボードを浮き出させる。
それは、見たことのない
「……これは
「そっ。ガルシア家、いえグノーシス社とキリシマ重工業で共同開発した新型の
「キリシマ重工……日本で最も優秀と言われる重工メーカーですね。それがどうして、ガルシア家のグノーシス社と共同を?」
「グノーシス社は第三艦隊のエウロス艦隊と
「聞いたことがあります。カスタムした“エクシア”部隊で
「ええ、
「はぁ……イリーナ様それで、この図面をどこで?」
リサが聞いた途端、イリーナは真っ白な頬を膨らませる。
「フン! 事件が解決したと同時に送られてきたのよ! そのレディオ・ガルシアからね! ふざけたメッセージと共に!」
彼女は怒り口調で、リサに別の立体映像を見せてきた。
映像にはメッセージでこう書かれている。
~親愛なる白き姫君 イリーナ嬢へ
この度の災難、衷心よりお見舞い申し上げます。
父、ヴィクトル氏が逝去され、どれほど大変な思いで大企業を経営されているのか気遣われてなりません。
どうかご無理はなさいませんよう、年頃のご令嬢らしくご自愛ください。
PS
我がグノーシス社と日本のキリシマ重工業で共同開発した新型AGが完成いたしました。
多大な功績を上げているヘルメス社製に比較すれば玩具当然かもしれませんが、是非にご教授頂きたく、図面を遅らせて頂きます。
是非、そちらの黒騎士殿にもご評価頂きたい所存です。
我が妹、レクシーも黒騎士殿を大層気に入っている様子ですので……では。
グノーシス社 代表取締役
レディオ・ガルシアより敬愛を込めて~
「――ナメた文章です。明らかに、イリーナ様に対する挑戦状ですね」
「でしょ! きっと妹のレクシーを通して、カムイのことを知ったんだわ! 何が『大層気に入っている』よ! ガルシア家の如きに、カムイを渡すかっての!!!」
(いや、イリーナ嬢。激怒するとこ、そこじゃないでしょ?)
リサは思ったが口に出すことはなかった。
───────────────────
《設定資料》
〇グノーシス社
本来なら宇宙家電製品などで有名な企業であったが、軍需産業にも手を伸ばし、戦艦の部品やAI機器のシステムに至るまで、細々と国連宇宙軍に根づく深い関わりを持つに至る。
特に
※グノーシスとは、古代ギリシア語で「認識・知識」を意味し、自己の本質と真の神についての認識に到達することを求める思想である。
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