Episode:2 ガーゴイル隊




 “エクシア・ディオスクロイ”が装備する槍を沸騰させる長砲身ライフルが火を吹いた。

 

 予想通り、蠅のような機敏な動きで“ベリアル”に霊粒子エーテル弾が躱されてしまう。

 標的をこちらに向け物凄い速さで突進してきた。


「噂通り、かなり速い!」


 俺はウェポンを切り替え、背部ユニットのミサイルランチャーを発射させる。

 誘導性のあるミサイル弾幕が“ベリアル”を襲い掛かり、奴はすぐに踵返すように旋回して、回避行動を取った。


 そのタイミングを見計らい、俺はアクセルペダルを強く蹴る。

 脚部代わりの大型推力噴射装置ことスラスターが、高出力で蒼白い閃光を放つ。


 強烈なGを身体で感じながら、“エクシア・ディオスクロイ”は“ベリアル”を追撃した。


 その後もミサイルの雨を降らせは、バズーカ砲を撃つ。圧倒的な火力を見せつけてやる。

 しかし、“ベリアル”は高機動力と運動性を持って俊敏に悉く回避して、本機から距離を置こうと逃げて行く。


「よく躱す。だが想定内――」


 俺は照準を定め、“ベリアル”の逃げようとする進路方向に向かってエーテル弾を放った。



 ヒュン



 “ベリアル”は飛び跳ねる動作で霊粒子エーテル弾を躱した。


 だが――


 奴の、“ベリアル”の動きが止まった。

 まるで一時停止したかのように微動だにしない。

 よく見ると、全身を小刻みに震わせている。


「グット! 捕獲成功!」


 俺はサブモニターの映像を拡大し、ほくそ笑む。


 モニター越しで、次第に“ベリアル”の周辺から蒼白く発光するエネルギー幕が出現し始める。

 その身体を複雑に絡めていることが判明した。


 さらに左右と中央の下には、カスタマイズされた3機の“エクシア”の姿が浮かび上がる。

 俺の部下達だ。

 光学迷彩機能を持つ《ステルス・コーティング》を発動して姿を隠蔽し、ああして三角形の漁網もどきを張り巡らせ待ち伏せしていたのだ。


 漁網もどきも、グノーシス社が考案した最新型の兵器である《アトラク・ナチャ》という代物であった。

 専用銃から繰り出されるエーテル弾同士を繋ぎ合わせることで、エネルギーの防壁膜を造ることができる。

 したがって、敵が放つ霊粒子破壊砲エーテルブラストを防御したり、使い方によっては捕縛することも可能である。


 また防壁を展開する際、《ステルス・コーティング》の影響で霊粒子エーテルごと見えなくすることもできた。


 俺が追い込み、部下達が仕掛けた《アトラク・ナチャ》の罠に嵌った“ベリアル”。

 完全に身動きが取れないでいる。


「いいザマだな。大方、網に掛かった魚……いや、捕獲器にハマったゴキブリかな?」


 そう皮肉を吐き捨て、武器のセレクトを行う。

 長砲身ライフルは変形し、先端の部分がエーテル霊粒子を纏う鋭い騎槍ランスと化した。


「終わりだ!」


 俺が駆る、“エクシア・ディオスクロイ”が突撃する。



 ――ズン!



 “ベリアル”の胸部をランスが貫く。

 完全に『星幽魂アストラル』を破壊した。

 奴の全身から霊粒子エーテルが血飛沫のように溢れだし、肉体が崩れたと共に飛び散っていく。


 “ベリアル”の残骸は胞子状となり、闇に紛れるかのように消滅した。


「敵、撃破成功! 燃料が残り僅かか……まぁ、2機分だから燃費が悪いのは仕方ない。ガーゴイル隊任務終了、これより帰還するぞ! 後のFESMフェスムは他の部隊に任せる!」


 俺の言葉に、部下達から「了解!」と威勢の良い声が上げられる。


 あくまで自己満足だが友の仇討ちになったと思うか……。



 こうしてエウロス艦隊は、俺達ガーゴイル隊と現地改修強化された“エクシア”機の活躍により勝利を収める。

 

 たとえ相手がエース級のFESMフェスムだろうと、仲間達との知恵と結束力で乗り切ることができた。


 ――この時までは。




 エウロス艦隊、超大型セラフ級主力戦艦“ウリエル”。

 青を基調とした二等辺三角錐の形をした全長1,565mの超大型戦艦である。

 戦闘終了後は他の戦艦と連結して円弧上の形となり、コロニー船へと帰還して行く。



「ご苦労だった、ルドガー大尉。それにガーゴイル隊の諸君」


 AGアークギアから降りた俺達は軍服に着替え、艦長室へ呼ばれた。

 艦長から戦闘報告も兼ねて、我が隊の活躍を労いたいらしい。

 勿論、通常のAGアークギアパイロット達はここまでの厚遇を受けることはないだろう。


 それだけ俺達は戦果を上げ、エウロス艦隊に勝利をもたらし貢献してきた証である。


「ハッ、峯風艦長。これも有効な兵装を整え、惜しまず情報を頂いている艦長を始め、各スタッフ達の支援があっての成果だと思っております!」


 俺を含むガーゴイル隊のAGパイロットは、デスク越しの椅子に座る艦長に向けて整列し敬礼した。


 自己紹介をしよう――


 俺の名は、ルドガー・ヴィンセル。22歳のAGパイロットだ。

 元々はゼピュロス艦隊方面にいたが人員不足の補強から、この艦隊へ配属し現在に至っている。

 生まれつき白黒が混じった灰色の髪に、平均男性の中では身長が高めだ。事情があっていつもサングラスを掛けている。

 軍の階級は大尉でガーゴイル隊の隊長を担っていた。


 俺の隣で敬礼する小柄で華奢な少女は、エルザ・プルフノウ。18歳。

 見た目は中等部くらいで少し幼く見える可愛らしい顔立ちだが、本人も酷く気にしているので禁句らしい。

 黄金色のミディアムヘアで長い前髪を分けて一部をサイドで縛っている。

 最年少だが操縦技術は高く艦隊でもトップクラスを誇り、何かと俺に懐いた子犬、いや子猫っぽいところがある少尉だ。

 

 もう一人の若い男は、リック・ランデーニ。20歳。

 短髪の茶髪で毛先の跳ね上がりを気にする、見た目通りチャライところがある。

 性格も軽い分、回避能力や機動戦闘に定評があり隊ではムードメーカー的なポジの少尉だ。


 最後に初老っぽい男、ユイバン・アルナーゴ。年齢不詳。

 長い白髪を後ろに束ね、髭を蓄えた精悍で渋い顔立ちをしている。身体つきも俺より大柄で筋肉質な中尉であった。

 謎めいた部分が多いが見た目通り熟練された高い技能を持ち、隊の調整役ともいえる。


 以上がガーゴイル隊のメンバーである。


「うむ、確かにな。しかしそれらとて、パイロットの勇気と技能があって初めて功を奏するもの……貴官らガーゴイル隊が高位のFESMフェスムを討伐してくれるおかげで、我がエウロス艦隊において戦死者少ないのも事実だ。現に今回のグレゴリル、“ベリアル”はノトス艦隊を壊滅寸前に追い込み、あのゼピュロス艦隊すら半壊させた強力なFESMフェスムだった。本来なら昇格もあり得る快挙と言える」


 艦長こと、フルネームは「峯風みねかぜ 勇次郎ゆうじろう」大佐は笑顔を向けて、俺達を褒め称えている。

 日本人であり38歳の独身だと聞く。主力戦艦“ウリエル”の責任者だけでなく、エウロス艦隊の総指揮を担うエリート軍人だ。


 なんでも大佐の兄も嘗て、ゼピュロス艦隊の艦長を担っていたらしい。

 当時はまだAGアークギアが存在してなく、特攻戦法で「絶対防衛宙域」を死守したという伝説の名艦長だ。


「有難きお言葉、痛み入ります。“ベリアル”に関しても、予め両艦隊の情報があったからこそ……それに私と同期である、ロート・オーフェン少佐の仇でもありましたから」


「そうだったな。しかしこれでロート少佐を含む、多くのパイロット達も浮かばれるだろう。本当に“エクシア”でよくやってくれた」


 実際の所ロートを討った“ベリアル”は、ゼピュロス艦隊で活動するヘルメス社製の最新鋭のAGアークギア“サンダルフォン”が撃破したという話である。

 しかし相当苦戦を強いられた勝利だったようだ。


 その経緯もあってか、俺達ガーゴイル隊一人も欠けることなく、旧式の量産機の“エクシア”で撃墜したのは余程の偉業だったようだ。

 俺としてはあまり実感はないがな。



「――それでは艦長、我らはこれにて失礼いたします」


「うむ、ルドガー大尉。しばらく身体を休めてくれ。他の貴官らもな」


「ハッ、それでは失礼します」


「ああ、そうだ、大尉」


 俺は扉の前で艦長に呼び止められ立ち止まる。


「何か?」


「グノーシス社の社長、レディオ・ガルシアが近々貴官に会いたいそうだ。その際は、諸君らの武勇を語ってほしいと話されていたぞ」


「は、はぁ……」


 俺は曖昧な返事をして、艦長室を出た。


 グノーシス社か……エウロス艦隊に兵装面で貢献し、最近ではヘルメス社に続き頭角を現す軍需産業。

 

 しかし非人道的な黒い噂もあると聞く――。



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