第109話 美少女達とBBQ大会
「コバタケも司会ご苦労だったわ。なかなか見事な進行ぶりだったわよ。貴方、ただの根暗マッドだと思っていたけど意外な才能があるのね?」
イリーナは労いながら毒を吐いている。
しかしコバタケは気にせず、軽く頭を下げて見せた。
「ありがとうございます、イリーナ嬢。ボクもレディオ社長と同じ意見ですので……それに、こう見ても100年以上前のアイドルとか大好きだったんですよ。今の時代で、こうして復活できてどんなに嬉しいことか……まだ推しの子は決めていませんがねぇ、ハイ」
コバタケはニヤつきながら、桜夢達を舐め回すように見渡していた。
視線がなんだか不審者っぽいので、彼女達は身を寄せ合い警戒心を抱いている。
「そ、そぉ、ありがと……それで頼んでおいた作業は?」
「ハイ、既に太陽系ネットで『
「流石ね、コバタケ。伊達に“サンダルフォン”の開発を担っていたマッド博士じゃないわ……フフフ、これで一歩どころか百歩くらい、こちら側が優位となった筈よ! もう勝ったも当然だわ! アハハハハハハハ!」
イリーナは暗躍する黒幕っぽく、身体をのけぞらせ高笑いしている。さっきまでアイドルしていた「エリーナちゃん」で見せた愛嬌の良さは微塵も感じない。
俺的には普通に勝負しても十分に勝てる相手だと思うけどなぁ……。
「社長、言われた通り、焼肉コンロ持ってきたけど、どうすんの?」
ハヤタが尋ねると、イリーナはピタッと笑うのを止める。何かを思い出したか様子で、「忘れていたわ」と言葉を零した。
「せっかく皆で集まったから、ここでデビュー記念の祝賀会を行いましょ。カムイ、食材用意してあるから、お肉焼いてよ」
「俺が?」
「そうよ、私だってカムイが調理した焼肉を食べたいんだからね。クラスメイトばかりに振舞って不公平よ」
「だって、イリーナいなかったじゃん」
「ずっとライブの準備していたのよ。増員した二人の歌とダンス指導もあったしね。それにカムイだってマネージャーでしょ? 私もそうだけど、桜夢やレクシー、リズとシャオだってまだ何も食べてないのよ。まぁ、みんな緊張して食べ物も喉に通らなかったところもあるけどね……」
「緊張か……流石のイリーナもか?」
「勿論よ。こう見ても人前に出るのが苦手な方の……ましてや歌や踊りなんて。始めてみれば結構、楽しかったけどね」
イリーナは言いながら満足した晴れやかな笑顔を浮かべる。
久しぶりに見る表情だ。ヘルメス社の社長に就任してから初めてかもしれない。
考えてみれば、彼女もまだ14歳。
大企業をほぼ一人で切り盛りしているだけに、今時の女子とは思えない超ハードの生活を余儀なくされている。
宇宙アイドル『
「わかったよ。その代わり煙るから換気はしっかりな」
「ありがと。ハヤタも手伝ってあげてね。チェルシー代理とコバタケも『宇宙アイドル・プロジェクト』に関しては戦友よ。一緒に楽しみましょう」
「そういうことならお呼ばれいたしますわ、イリーナ社長」
「もちのロンロンですねぇ、ハイ」
ライバル企業であるグノーシス社の二人も、今日は素直に応じている。
ところで、もちのロンロンってどういう意味だ?
「ねぇ、カムイくん……」
セシリアが服の袖を摘まみ引っ張ってくる。
「どうした?」
「あたし、躍ったらすっかりお腹空いちゃったから、お肉多めに焼いてね?」
「いや、セシリア……さっきも俺が焼いた肉、独りで完食してたじゃん。てかまだ食べるのか?」
意外と大食漢だったんだな。
こりゃ食事を誘う時、食べ放題の店にしないと小遣いがなくなるぞ。
っと、いうわけで。
美少女達との第二次BBQ大会が始まった。
けど、ハヤタも手伝ってくれたこともあり、先程と違い俺も食べる余裕があったりする。
「ねぇ、カムイくん。わたし達のパフォーマンスどうだった?」
ふと、桜夢が声を掛けてきた。
「ああ、凄く良かったよ。桜夢もセンターで頑張っていたというか……堂々としてカッコイイと思ったよ」
「えへへ、最初はとても緊張したけど曲が始まったらなんて言うか……なりきっちゃえって感じで覚悟を決めて最後までやり遂げることができたのよ」
「覚悟を決めるか……
「いや、カムイ。私はあまり関係なかったぞ。イリーナに言われるがまま、あれよあれよで、あんな感じだ」
レクシーはまだ状況をよく理解してない様子で不満気に、箸で焼けた肉を突っついている。
あんな感じって言う割にはしっかり踊れたのは流石だと思うけどな。
そんな彼女の隣には、妹のチェルシーがエレガントにナイフとフォークを使って肉を切り分けて食べている。
焼肉だよね、それ? ステーキじゃないぞ。
「弐織先輩、ワタシィも頑張ったヨ」
「そうだな、シャオ。実に見事だったよ……そういや前から思っていたけど、情報科を専攻している割には運動神経とか良い方だよな?」
周囲に引けと取らないくらい、無難になんでもこなせる後輩だと思った。
まぁそれを言うなら、赤毛のリズ・フォックスも半端なく器用なんだけどな。
「うん、幼い頃からお姉ちゃんと武術を学んでいたネ。ダンスも演舞に共通しているところあるから、なんとなく踊れるヨ」
「シャオのお姉ちゃん? ゼピュロス艦隊にいるのか?」
「違うネ。エウロス艦隊で
なるほど、だとしたら姉も『傍受マニア』なのか?
花婿募集中は余計な情報だけどな。
などと考えながら、俺はチラッとイリーナに視線を向けた。
彼女はリズと仲良さそうに話し込んでいる。
リズも不思議な子だ。俺達の前ではイリーナに対して苦手意識を持っているような言い方をするが、実際『
素直な性格の桜夢とは異なる、忠実さすら感じる。
俺にはほとんど話し掛けてこない分、余計にわからないキャラだ。
「そういえば、カムイくん。アルドくん達と仲良くなったんだね?」
桜夢は何やら嬉しそうに聞いてくる。
「仲良くなったというか……無理に従わせたというか。けど、これまでのこと謝ってくれたし、もういいかなって。一応、一緒に戦う仲間だしね」
「うん、やっぱりカムイくんって凄いなぁ。普通は思っても簡単に実行できないことだと思うよ」
「そうかな……自分ではただの自己満足としか思ってないけどね。それに、俺もクラス内じゃ冷めていた部分も確かにあったしね」
「けど本当のカムイくんは強くて優しいよ、誰よりも……だから、わたし」
「だから?」
俺が聞き返すと、桜夢は頬を染めて首を横に振るう。
「ううん……何でもない。もう少し自分に自信をつけてから……」
自信をつける? どういう意味だろう。
桜夢は今でも十分すぎるほど頑張っているのに……。
とても意味深な言葉に、何故か胸が高鳴ってしまう。
踏み込んで聞いてもいいけど、今の関係を壊してしまい兼ねない。何故かそんな予感が過ってしまった。
おかげで間が悪くなり、俺達は沈黙し食べることに集中した。
しばらくして、イリーナがハヤタ呼びつけ何やら小声で話をしている。
あの子が俺以外の男子を呼びつけるのは非常に珍しいので、暇になったこともあり、異常な聴力を発揮し聞く耳を立ててみた。
「――ハヤタ。上手くグノーシス社と共同できたのも、貴方のおかげでもあるわ。今回ばかりは礼を言わせてもらうわね、ありがと」
「礼なんていいっすよ、社長。色々と学べて楽しいっす。それにチェルシーちゃんや博士も、そう悪い人達じゃないっすよ」
「貴方の言いたいことはわかるけど、私とは因縁深い連中には変わりないからね。人間一度でも拗れたら、そう簡単に分かり合えない部分もあるのよ。それよりもハヤタ、貴方に褒美を用意したわ」
「オレに褒美? ま、まさか……未発売のHGキット“サンダルフォンMk-Ⅱ”!? やっべぇ! めちゃテンション上がってきたわぁ! 博士に自慢できるっすよ~!」
「……はぁ? 何それ? まさかプラモデル? バカね……そんな安っぽいのじゃないわ。まぁ、
「
「――型式番号:HXP-S003、“スラオシャブルー”。“サンダルフォン”の兄妹機にして3番目の支援機よ。第102期生カースト一位の腕前を持つ、ハヤタに託そうと調整している専用の機体よ」
「オ、オレ、専用の
マ、マジかよ……イリーナさん。
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