第110話 蒼き熱血のスラオシャブルー
俺の支援
最近すっかり打ち解けたこともあり、今では友達ポジともいえる存在だ。
コクマー学園第102期生の操縦訓練科において常にトップの成績を誇り、クラスでも人望と人気が高い事実上のカースト一位である。
おまけに人懐っこい熱血漢の性格から、教師や軍のパイロット達からも評価が高いようだ。
さらにその実力は
今回の「宇宙アイドル・プロジェクト」において、グノーシス社と共同に至ったのも、ハヤタが険悪な両社の橋渡し役として担ったこともあったようだ。
基本俺以外の男子はNGであるイリーナも、珍しくその功績を称えている。
褒美という形で、ハヤタ専用の
一応、“サンダルフォンMk-Ⅱ”の支援機らしいけど……。
「……“スラオシャブルー”? 一体どんな機体なんっすか?」
ハヤタは顔を強張らせながら、イリーナに聞いている。
「見てのお楽しみよ。次の休日まで調整しておくからね。言っておくけど、パイロットの技量次第じゃ、型にさえはまれば“Mk-Ⅱ”を上回る性能を発揮するわ」
なんだって? ちょっと聞き捨てならないんだけど。
「オ、オレ専用の
ハヤタは熱血ぶりを発揮する。
まぁ、興奮するのも無理はない。本人としては一番のご褒美かもしれない。
「しっ、声が大きいわ! ハヤタも一応はカムイとサクラと同じ、秘密パイロット扱いになるんだからね。誰にも言いふらしちゃ駄目よ。まぁ、貴方は口が硬いから信用した上で大切な試作機を預けるんですからね!」
「うぃす! 超頑張ります!」
「次の休日には、実機を使用した模擬戦闘を行うわ。相手は“Mk-Ⅱ”よ。カムイには私の方で頼んでおくわ……って、どうせ聞いているんでしょ、地獄耳さん」
イリーナは聞く耳を立てている俺を直視してくる。
どうやらバレてしまっていたか。
俺は観念し、彼女達に近づく。
「ああ……ぶっちゃけ驚いているけどな。ハヤタ、俺達と同じってことは過酷な条件で実戦に出ることになるぞ。それでもいいのか?」
「ん? 心配してくれるのか? ありがとうよ、弐織。けど俺だって
「俺の支援?」
「ああ、弐織ってなんでも一人で背負っちまうだろ? これまでもそう、今回のアルドとユッケの件だってそうだ。少し前の頭痛で動けなくなったことも、きっと普段のそれが影響しているところもあると思うぜ」
「そうかもしれないけど……今までは、俺しかいなかったからな」
「だからこそだ。これからは、俺達がお前を支える番だ。どうか俺達を頼ってくれよ!」
「ハヤタの言う通りよ、カムイ。時代と戦況は少しずつ変わり始めているわ。これからは一騎当千じゃなく、みんなで戦う時代よ。ヘルメス社はその礎になると言ってもいいわ」
「イリーナ、ハヤタ……ありがとう。模擬戦の件はわかったよ。最近、“Mk-Ⅱ”に乗ってないから、リハビリも兼ねてやらせてもらうよ。但し遠慮しないからな」
「当然よ、実戦データの収集目的もあるからね」
「おおっ、新型機で弐織とのガチ模擬バトル……超やべぇ! 今から震えが止まらねぇ!! 燃えてきたぁぁぁぁぁ!!!」
些かはしゃぎすぎるハヤタに、イリーナが「もう、静かにしなさいって言っているでしょ!」と注意していた。
少し軽い感じだが実力はあると認めている。
それに俺を支えてくれるという言葉が何より嬉しかった。
ハヤタもすっかり成長し、俺もそんな彼を認め受け入れている。
今まで塞ぎ込んでいた時とは思えない、とても清々しい気持ちだ。
俺も少しは成長しているのだろうか? だとしたらハヤタのおかげかもしれない。
そして、次の休日。
俺は
「おはようございます、特務大尉。皆さんは既に“ミカエル”でお待ちです」
整備班のリムが声を掛けてくれる。
相変わらず整備用の帽子を深々と被りゴーグルにマスクと完全に顔を隠していた。
そうしなければならない理由が彼女にあるのだろうか?
いや、それよりも。
「ヘルメス社の試験的な模擬戦闘に、わざわざ主力戦艦を出すのか?」
「はい、セシリア艦長が特務大尉に会いたいという理由と、あとはやり新型機のお披露目でもありますから、ゼピュロス艦隊としても全面的にバックアップしていきたい意向もあるようです」
セシリアの動機は相変わらずだけど、艦隊もヘルメス社に恩を売って何かしらあやかろうとしているのかもしれない。
総司令官のマッケン提督とは色々あって険悪だが、国連宇宙軍全体としての影響力はやはり抜群に高いようだ。
「わかったよ。人前に出るなら、先にアストロスーツに着替えた方がいいな。準備してから、そのまま連結している“ミカエル”へ向かうとするよ」
俺は自分専用の更衣室へと向かい、アストロスーツに着替えた。
前回と同様、ヘルメットのバイザーにスモーク処理が施され音声加工もされている。
『ホタル、ナノマシンは通常のか?』
『イエス、マスター。Dr長門より「カムイ君用のナノマシンも開発中だから後に渡すわ。なんならベッドでもいいわよん♡」と仰ってイマス』
『ちょい、頭がくらくらしてくるから、そういうネタはやめてくれない?』
シズ先生ってばキレ者の癖に相変わらずの痴女だ。
けど、俺専用のナノマシンか……凄く気になる。
当たり前のことだけど、場合によっては倫理に反した過激なものまで開発されるからな。
《キシン・システム》や《KABRAシステム》のように――。
幸い開発元の両社も慎重に取り扱っているようだけど。
準備を終えた俺は、戦艦“ミカエル”の
既に、イリーナを初めとするボディーガード達と軍服を着たレクシーが待機している。
さらにベイビー・ピンクのアストロスーツを纏った桜夢もいた。
彼女は俺と同様にヘルメットのバイザーにスモーク処理が施されて誰だかわからない仕様となっている。
学徒兵である彼女も極秘パイロット扱いだから仕方ない。
『――あれが新型の試作機、“スラオシャブルー”か?』
俺は“サンダルフォンMk-Ⅱ”と向き合う形で佇む機体を見入った。
ハヤタのイメージカラーであるコバルトブルーに全身を一色に塗装された
兄弟機である“サンダルフォンMk-Ⅱ”と“カマエルヴァイス”よりも細く、“アナーヒターSP”に似た流線形だが、より隆々とした逞しいデザインだ。
フェイスは兜のような頭部に吊り上がったデュアルアイに、I型のアンテナが
背部には小型化された翼のようなメインの
両肩の裏側にはサブアームに固定された二枚の
他は目立った
『まさか接近戦闘用の
俺はイリーナに近づきながら彼女に尋ねる。
「そうよ。一応、
『軽装なところを見ると、装甲は“Mk-Ⅱ”と同様の「特殊強化軽装素材」か?』
「ええ、しかも《ステルス・コーティング》が施されているわ」
『ステルス・コーティング?』
「光学迷彩システムよ。一時的に機体を周囲の景色と同化させ、
『ああ勿論だ。機体を見えなくする機能か……凄いな。ヘルメス社はそんなのまで開発していたなんて……』
「……まぁ、開発元はグノーシス社だけどね。ここだけの話」
『え? まさか、盗用したのか?
「内緒よ。別にいいじゃない。
相変わらずだ。
どっちもどっちだけど……。
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《設定資料》
〇スラオシャブルー
型式番号:HXP-S003
平均全高:16,5m(頭部の双角、I型アンテナを除く)
平均重量:本体重量11,5t
全備重量:20t(外付けリアクターや装甲など取り除いた際、8,5t)
機体色:コバルトブルー
“サンダルフォンMk-Ⅱ”を支援目的で造られた3番目の
近接戦闘を主体とする機体であり、フレームから装甲にかけて同質の『特殊強化軽装素材』が使用されている。さらにより運動性を向上させるため、装甲は必要箇所のみに削減され、機体各部の干渉部分を解消させる配慮が施されている。
主流武器は
これらを使用する際はボクシンググローブのように両マニピュレータに保持し、拳撃と同時に繰り出すことになる。
万一全ての武器が損失した際、各部の
また隠密性にも非常に優れた
これは光学迷彩システムにより一定時間(およそ180秒間)のみ景色と同化することができる機能で、基本目視と触覚でしか判別できない
他、“カマエルヴァイス”と同様の特殊機能、《
H=ヘルメス社製
X=未知(どこにも属されていない)
P=プロトタイプ機
S=サンダルフォン兄弟機
003=3番目に製造
《由来》
スラオシャ:ゾロアスター教に登場する中級神霊こと天使。
その名は「聞くこと」を意味し、「聴取」と「従順」を守護するという。
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