第111話 戦慄の蒼騎士




 新型試作機AGアークギア“スラオシャブルー”の胸部ハッチが開かれる。


 最初に整備服を着た男性スタッフがコックピットから降り、後にもう一人青色のアストロスーツを待ったパイロットが出てきた。

 俺が着用しているのと同タイプであり、その背格好からしてハヤタ本人だと悟る。


 ハヤタは舷梯タラップから降りて、こちらへと近づいて来た。


『いやぁ、凄げぇよ、やべぇよ、マジ感動だよ~! 社長、本当にオレなんかでいいのかよ~?』


 ヘルメットのバイザーにスモークが施されているので顔はわからないが、今どきの口調からして完全にハヤタである。


青騎士ハヤタ仮想訓練バーチャルでの演習を見させてもらったけど、思いの外問題なさそうね。操縦士仮想訓練装置パイロット・シミュレーターでも白兵戦に定評があるようだから、“スラオシャブルー”と相性がいいかもしれないわ」


 なるほど。イリーナもただのご褒美じゃなく、ハヤタの操縦技術を把握した上で新型機を託すに値すると判断したようだ。


『考えてみれば、格闘に特化したAGアークギアって初めてだ。どう戦ってくれるのか楽しみだよ』


『お、おう……俺も黒騎士の本気ってやつを見せてもらうぜ』


 ハヤタは若干ビビリながら言ってくる。

 初対戦の相手が俺だからな。色々と緊張しているようだ。


「いい二人共。あくまで模擬戦だけど実戦さながらにやるのよ。貴方達の戦闘データが次のAGアークギア開発に繋がるんだからね」


『わかっているよ、イリーナ。期待には応えるつもりだ』


『オレもこんな凄ぇ機体を与えられた以上は死ぬ気で頑張るっす!』


「そっ、いい返事ね。期待しているわ、頼もしい二人の騎士ナイトに――」



 イリーナからの激励の言葉を受け、さっそく俺とハヤタは互いのAGアークギアに乗り込んだ。

 コックピット内なので、ヘルメットのバイザーを上げる。


『マスター、只今“ミカエル”艦が発進しました。間もなく戦闘宙域に入りマス』


「了解。“スラオシャブルー”はホタルのような電脳AIはいないのか?」


『イエス。最新版OSは搭載されてマスが、大抵はマニュアルでの操作が必要デス』


「そうか。であればこちらも同じ条件で戦わないとフェアじゃないな。ホタル、普段通り状況報告だけ頼む。後は俺が自分でやるからな」


『COPY』


 後はハヤタがどんな戦いを見せてくれるかだ。

 少なくても『AG杯』の彼ではないのは確かだろう。


 ちなみに模擬戦闘であるため、各兵器に模擬射撃のシムファイヤ・仮想訓練型赤外線装置シミュレーション・センサー・システムを搭載させている。

 これらは実際に兵器を作動させず、全て合成映像によって命中と破損の評価が下されるシステムだ。

 さらに先方の “スラオシャブルー”は格闘戦がメインなので、霊粒子短剣ダガーブレード霊粒子刀剣セイバーブレードに同様の処理が施すよう設定されているらしい。

 但しそれ以外の攻撃、殴る蹴るは実際にダメージを負い振動もリアルに発生するので注意しなければならない。



 そして戦艦“ミカエル”は戦闘宙域に入る。


 “サンダルフォンMk-Ⅱ”と“スラオシャブルー”はそれぞれの射出機カタパルトに搬送され移動していく。


『出撃カウント入りマス。ご準備を』


「OK、“サンダルフォンMk-Ⅱ”出るぞ」


『“スラオシャブルー”行くぜ!』


 別々の射出機カタパルトから飛び出し出撃した、2機のAGアークギア


 推力噴射装置スラスターを全力で吹かし、すぐさま戦闘宙域へ辿り着いた。



「流石に今回はFESMフェスムは現れないか……」


 俺はコンソールパネルのサブモニターを操作しながら、目視で周囲状況を確認する。


 機体周辺は普段通りの景色。点々と星々が煌めく深淵なる虚空の宇宙そら


「……ハヤタの奴、まだ来てないのか? まぁ、機動性は“Mk-Ⅱ”の方が上っぽいからしゃーないか」


『ノー、マスター。敵機、既に接近しつつありマス……おっと、ルール違反デスネ。もうし訳ございまセン』


 ホタルの謝罪と共に、俺の直感が走る。

 すぐさま機体を旋回させた。



 ガキィィィン!



 翳した重装盾シールドに衝撃と蒼白い閃光が放たれた。

 無論、《シムファイヤ》が見せて体感させる疑似映像だが、臨場感が本物と変わりない。


「うおっ! この感覚……霊粒子刀剣セイバーブレードか!?」


 するとモニターから徐々に、攻撃を仕掛けたAGアークギアの姿が浮き彫りとなる。


 蒼い装甲を纏った一角の頭部を持つ機体、“スラオシャブルー”だ。


「《ステルス・コーティング》か!? クソッ、目視じゃまるっきりわからなかった!」


 識別レーダーには、霊粒子エーテルの熱源などくっきりと探知されている。

 あくまで見えなくするだけの効果しかないようだ。

 しかし、視覚や触覚でなければ判別できないとされるFESMフェスムには脅威でしかない。


 俺は頭部に備わっている霊粒子エーテル機銃を撃ち、強襲を仕掛けてきたAGアークギアから離れようと試みる。


 “スラオシャブルー”は素早く横にスライドする形で躱し、“サンダルフォンMk-Ⅱ”から離れることなく左右に持った二刀の霊粒子刀剣セイバーブレードを振るい斬りつけてきた。


「速いッ! まるで“ベリアル”並みの突進力、いや攻撃力はそれを遥かに上回るぞ!」


 インファイトを得意としている点では共通しているが、パワーが桁違いだ。

 “ベリアル”なら重装盾シールドで押し切ることもできたが、“スラオシャブルー”はそれが難しい。


 まるで暴走機関車のように突進して乱撃を浴びせてくる。


 こちらも応戦し、技を使い攻撃を受け流した。相手の体勢が崩れたのを見計らい、霊粒子刀剣セイバーブレードでカウンターの一撃を与えようとする。

 しかし“スラオシャブルー”はすぐに立て直し、いつの間にか持ち替えた短機関銃サブマシンガンを撃ち弾丸の雨を降らせた。


 なんて驚異的な運動性だ。


 俺は近距離だろうと高機動を活かし、重装盾シールドを翳して霊粒子エーテル弾を躱しきる。


 束の間。



 ドォォォォン!



「くっ、なんだ!?」


杭打ち機パイルバンカーデス。今の攻撃で、重装盾シールドの耐久性が0と判定しマシタ。完全に破損した扱いとなり使用不可。切り捨てパージしマス』


 ホタルの報告と共に、重装盾シールドが切り離されていく。

 

 メインモニターから、マニピュレーターに装着された重装盾シールド式の杭打ち機パイルバンカーを構える、“スラオシャブルー”の姿が映されている。


「斬撃と射撃、そして刺撃のコンボ技か? ハイパワーな上に高い運動性と機動性を兼ね備え、隠密性に特化したAGアークギアか……」


 ふとイリーナの言葉が脳裏に過る。

 型にさえはまれば“Mk-Ⅱ”を上回る性能を発揮する――。


 “スラオシャブルー”か。

 こうして戦うと末恐ろしいAGアークギアだ。

 流石は“サンダルフォン”の兄弟機。


 しかも、ハヤタとの相性もいい。

 つーか、しっかり腕上げてんじゃないか。


 フッ


「――面白い。てか、初めて人間相手にガチになるかもしれない」


 俺は口角と吊り上げ、ほくそ笑む。


 アクセルペダル思いっきり蹴る。全ての計器がレッドゾーンまで達した。

 操縦桿を捌き、暴れ駆け上がる機体を抑え込む感覚で調整し軌道を安定させる。


 今度はこちらが距離を詰め、霊粒子刀剣セイバーブレードで斬り掛かった。



 ギィィィィン!



 “スラオシャブルー”は重装盾シールドで完璧に防ぐ。

 しかし想定内だ。


「《ミラージュ・エフェクト》!」


 装備していない腕部を翳し、ギミックを作動させる。

 機体を後方に下げ、当時に至近距離から5機の模擬投影機体ダミー・プロジェクターを射出させた。

 

 模擬投影機体ダミー・プロジェクターは“スラオシャブルー”に接触し、搭載された霊粒子エーテルが共鳴する形で誘爆していく。

 一瞬、視界いっぱいに蒼白い閃光が広がった。


 俺は《ミラージュ・エフェクト》を機雷として代用させたのだ。

 無論、一時的に相手の視界を奪い惑わせるためである。


『サ、“サンダルフォン”がいない!?』


「後ろだ、ハヤタ」


 俺の声で、“スラオシャブルー”は反応し後方を振り向く。

 

 少し離れた位置で、“サンダルフォンMk-Ⅱ”が待機していた。

 その両肩に取り付けられている双翼を高々と掲げ、ギミックが展開された状態である。


「――《レギオンアタック》!」


 操縦桿のトリガーを引いたと同時に、40機の小型ミサイルが一斉に発射された。

 全弾が複雑な蒼い閃光を描き、“スラオシャブルー”に襲い掛かる。


『いや、こんなの躱せねぇって――うわぁぁぁぁぁ!』



 ドドドドドゥ――……!!!



 命中判定と共に、俺の勝利が確定した。



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