第112話 最強チーム結成




『お疲れ~』


 “スラオシャブルー”との模擬戦闘が終わり、俺達は戦艦“ミカエル”と帰還した。

 ヘルメス社専用の格納庫ハンガーにて、コックピット・ハッチが開かれ、ハヤタが舷梯タラップから降りてくる。


 先に“サンダルフォンMk-Ⅱ”から降りていた俺は、とぼとぼと歩く彼と合流して声を掛けた。

 特殊スモークが施されたヘルメットを被っているので表情はわからないが、俯いて歩くその雰囲気から相当気落ちしている様子が伺える・


『あ、ああ……お疲れ。はぁ……やっぱり弐織には勝てなかったよ。せっかくの新型機だったのによぉ』


『いや、まぁ。勝負云々で言えば確かに俺が勝ったけど……ハヤタも以前とは見違えるほど腕を上げてたぞ。きっとガチで挑まなきゃ、危なかったと思う』


『え? 弐織がガチ? オレ相手に?』


『ああ、イリーナじゃないが俺も最近のハヤタは白兵戦に成長を感じていたからな……“スラオシャブルー”を得たことで、それが本来以上の力を引き出したように思えるぞ』


 俺は偽りのない感想を述べてみた。

 途端、ハヤタは俯いていた顔を上げてこちら側に向けてくる。


『ってことはよぉ! 結構、オレ善戦してたのか!?』


『そうだと思うよ。逆に強化改修された“サンダルフォンMk-Ⅱ”だから重装盾シールドを失う程度で済んだところもある。今のハヤタなら、きっと“ベリアル”にも勝てるだろうぜ』


 これはお世辞じゃない。ガチの話だ。

 “ベリアル”は超高機動戦闘に特化し、ヒット&アウェイ戦法を得意とするFESMフェスムだが、はっきり言えばそれだけと言える。


 “スラオシャブルー”の《ステルス・コーティング》で隠れて近づくか、また圧倒的な突進力でカウンターを食らわせば、あれほどのハイパワーを駆使できるAGアークギアなら一撃で斃すことができるだろう。


 つまりハヤタはエース機以上のチートマシンを手に入れたことになる。


『おおぅ、弐織のお墨付きか! なんか自信ついてきたわ~! ヒャッホーイ!』


 ハヤタは自信を取り戻し飛び跳ねて見せる。

 相変わらず現金な男だが、それが彼の良いところかもしれない。


『――マスター。オーナーから000トリプルゼロ-11イレヴンと共に艦内の作戦会議室ミーティングルームに来るようにとのことデス』


『了解した』


 ホタルから言伝を受け、俺とハヤタは指定された場所へと向かった。



 艦内の作戦会議室ミーティングルームには、イリーナとレクシーと桜夢がおり、何故か艦長のセシリアもいる。

 ちなみに、桜夢は素顔を晒しており脱いだヘルメットをテーブルに置いていた。


「二人共お疲れ様、ここならヘルメットを脱いでも大丈夫よ。その為に古鷹艦長を連れてきたのよ」


「あたしは単純にカムイくんに癒してもらいに来たんだけどね~、えへへ」


 椅子に座るイリーナの隣で、セシリアは俺を見つめながら普段通りにトロけそうな微笑を浮かべている。

 制服姿と異なり清楚感溢れる艦長服姿で言われると違和感しかない。


 俺とハヤタはヘルメットを脱ぎ、椅子に腰を降ろした。

 すると、いつの間にかイリーナ専属の仮面メイドが背後から現れ、コーヒーを差し出してくる。


 この赤毛メイドもやたら気配を消すのが上手い。

 まるで、クラスメイトの「リズ・フォックス」のようだ。


「ハヤタ、すっかり腕を上げたな。関心したぞ」


「うん、カムイくん相手にあそこまで戦えるなんて凄かったよ!」


 レクシーと桜夢がハヤタを労い褒めている。

 この二人から、まともに賞賛されたのは初めかもしれない。

 言われ慣れない言葉に、ハヤタも頭を掻きながらはにかんで見せた。


「ま、まぁ結局、負けちまったけどね……けど弐織も遠慮なく戦ってくれたんで良かったよ」


「私からも言葉を送るわ。ハヤタ、一時でもカムイを追い詰めたのは人間じゃ貴方くらいでしょうね。“スラオシャブルー”を与えて正解だったわ」


「そ、そんな……社長にまで……弐織、オレ、なんだか興奮して今日は眠れねーわ!」


 まぁな。けど、いちいち俺に話を振るのはやめてくれ。

 

「本当、見直しちゃったよ~、ハヤセくん。名前覚えた甲斐があったわ~」


「古鷹艦長、ハヤタっす。けど尊敬するみんなに認められて凄く嬉しいっす」


「謙遜することないわ。自信を持ちなさい。特殊システムのない状態で、あそこまで戦えただけでも大したものよ。おかげで貴重な戦闘データが収集できたわ」


「ん? イリーナ、あの“スラオシャブルー”も何か仕掛けがあるのか?」


 気になったので、俺が訊いてみる。


「あるわよ。今は封印して作動できない状態だけどね。“カマエルヴァイス”と同じ《KABRAカブラシステム》を導入させて連動させるか検討中よ」


「まだあったのかよ……ヘルメス社の技術水準も今じゃ相当やばいな。あんなの組み込まれた機体なら、もしかしたら俺でも危なかったってことじゃないか……」


 何せ、俺の脳と同じ状態にさせるシステムだからな。

 下手すると廃人になるらしいけど……。


「そうかもね……けど“Mk-Ⅱ”も調整中だからね。もうじき新しいのが使用できるようになるわ。まっててね、カムイ」


「新しい《ヴァイロン・システム》? そういやそうだった。ああ、楽しみにしているよ、イリーナ」


 きっと、シズ先生が俺のために作ろうとしている新型のナノマシンと連動する形なのだろうけど、一体どんな機能なのか凄く気になる……。


「せっかく、みんな集まっているから今後の構想を話すけど、これからは3機の支援機と“Mk-Ⅱ”でフォーメーションを組んだ戦闘訓練もありだと考えているわ。レクシーに桜夢、それにハヤタの三人にはカムイの負担を軽減するよう頑張ってもらうからね。勿論、ヘルメス社も全面的にサポートするわ」


 嬉しそうに話すイリーナに、俺達全員が頷く。


 “サンダルフォンMk-Ⅱ”を中心とする最新鋭のAGアークギア――“カマエルヴァイス”、“アナーヒターSP”、“スラオシャブルー”。

 まさに最強チームの結成だ。


 4機編成となると、AGアークギアでは小隊規模か。

 これからはチームとして色々な戦い方ができるし、俺の負担軽減にも繋がるだろう。


「あたしも艦長として皆さんをサポートします。レクシー特務中尉・ ・ ・ ・に関しては、ヘルメス社からの要請という形でテストパイロット扱いとして、“カマエルヴァイス”を与えられている形なので安心してください」


「特務中尉? レクシーが?」


 艦長モードで話すセシリアの説明に、俺は首を傾げる。

 イリーナが「私から説明するわ」と言ってきた。


「前回の奇態FESMフェスム戦の活躍が認められ、晴れてカムイと似た立場になったってわけ。レクシーは正規軍人だけど、ガルシア家のこともあるから誰も文句は言わないし、実力もあるからそう違和感もないでしょ?」


「確かにそうだな……」


 特務が付くということは、“カマエルヴァイス”に搭乗時は少佐並みの発言権を持つことになる。

 ある意味、AGパイロットとして異例の出世に違いない。


「立場や形はどうあれ、我らの敵は共通しているからな。しかし、カムイ……キミの背中は私達がしっかりと守らせてもらうぞ」


「ありがとうございます、レクシー先輩。いえ特務中尉」


「フフフ、キミは特務大尉だろ? 私より上官じゃないか?」


「いやぁ、ははは……」


 一つとはいえ年上ってこともあるからか、彼女にはつい畏まってしまう。

 普段から聖騎士のように凛とした雰囲気を持つ女子だから余計かもな。

 それがレクシーの魅力でもあるわけで……。


 俺が照れ笑いしていると、イリーナを中心とした女子達から白い目で見られてしまう。


「んん! 鈍感エースパイロットさんに一言皮肉でも言ってやろうと思ったけど、今日は気分がいいから止めにするわ。今のところ、ヘルメス社自体の運営は至って順調よ。“ガルガリン”は量産化されることに決定し、近日中に30機は導入されるわ。“プリンシパリティ”も試験機から若干形が変わるでしょうけど、量産化する方向で確定しているわ。こちらは複座型だから特殊任務用としてだけどね」


 鈍感エースパイロットってところは余計だが、イリーナの話からしてAGアークギア開発競争におけるヘルメス社の独占ぶりは変わらないようだ。


 ライバル企業のグノーシス社も“ツルギ・ムラマサ”以降は鳴りを潜めている。

 しかし、あのすっとぼけたレディオ社長率いる大企業だ。

 何を考えているか不明な分、そこが怖いけんだけど……。


 イリーナの話は続いている。


「……まぁ、そういうことだから、しばらく私も『Angelusアンジェラス』の活動に専念できそうよ。来週はいよいよ『セフィロト文化祭』だしね」


「来週からセフィロト文化祭か……そういや、宇宙アイドルのメンバー入りしたセシリアは、あれからマッケン提督と妙なことになってないのか?」


 そう聞いた途端、セシリアの表情が曇りだした。

 いつになく心境な面持ちで重々しく語り始める。


「う、うん……実はそのことなんだけどね――」



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