第108話 結成した真の目的
最初は『お祭り男』こと、マッケン提督と趣味活動が被ってしまったため、互いにしょーもない意地の張り合いとばかり思っていたが……。
いきなり人類の命運が握られていると豪語する、イリーナ。
けど宇宙アイドル活動と宴会で歌いそうな楽曲に、そんな壮大なテーマが秘められているとはにわかに信じ難い。
「どういうことだよ、イリーナ? 差し障りないのなら説明してくれ」
「いいわ。本当は極秘事項でもあるけど、この場にいる者達は最早同士よ。みんな聞く権利はあるわ!」
イリーナは強い口調で言い切り、事に経緯を語り始めた。
尚、闇の秘密結社である『賢者会』については、『政界と軍のトップ達』という言い方で変換された上で説明されている。
――実は以前から『賢者会議』で議題に挙げられていたそうだ。
それは「人類を惑わせる能力を持つ
現代ではシズ先生が考案し開発された新型のナノマシンを使用すれば、少なくても
しかし、それでは限りがあると予想された。
特に戦艦の
しかし、前回。
賢者達はそこに目をつけ、イリーナが密かに立ち上げ動いていた「宇宙アイドル・プロジェクト」に多額な費用をかけさせ、地球を含めた太陽系を巡航する全艦隊へ売り込み行き渡らせようと計画した。
万一の
実はこれも生前ヴィクトルさんが発案した企画であり、彼の意志を引きついたイリーナの計画通りの事業展開らしい。ただの趣味や娯楽だけじゃなかったようだ。
このまま順調に思惑通り進むと思ったが、しかし「賢者会」のメンバー内で異を唱えて手上げする者が現れたそうだ。
それが国連宇宙軍ゼピュロス艦隊の総司令官、マッケン提督こと「お祭り男」であった。
マッケン提督はこれまでの実績(セフィロト祭りなど)を掲げ、「私のマッケン・カーニバルこそが人類を救う歴史に刻むべき名曲である」と豪語し、『賢者会議』の場でイリーナと張り合う姿勢を見せたそうだ。
無論、他の賢者達は「いや、どう見たってイリーナ嬢の方が華もあるし、皆も費用を出しやすいでしょ?」と意見を交わしたが、マッケン提督は頑として譲らなかったそうだ。
当初は賢者達の多数決という案もあったが、マッケン提督は「どうせ貴様らスケベ爺ばかりだから、若くて綺麗なイリーナ嬢に加担するに決まっている。音楽は人類を代表する文化だぞ、舐めるなよ」と拒否し、あくまで実力での勝敗を希望した。
どこまでもウザイ男だが、これまでゼピュロス艦隊の奮闘と活躍を考慮すれば無視できない人物であるのは確かだ。
――そこで新たに提案されたのが、『セフィロト文化祭』である。
お互い催し物として曲を披露し、どちらが良いのか“セフィロト”の船民による投票で選ばれた方を採用することで決定した。
こうして『セフィロト文化祭』は、『
「――話はわかったよ、イリーナ。宇宙アイドル活動がヘルメス社や人類にとって、とても重要な『プロジェクト』だってことは理解したよ」
「ありがと、カムイ(だから大好きよ)。まとまりかけた企画に横槍を入れてきたマッケン提督にもムカついているけど、負けられない理由はそれだけじゃないわ!」
「と言うと?」
「『マッケン・カーニバル』なんて、ふざけたパクリっぽい曲で人類が救われてみなさい! 歴史上の汚点、恥じそのものよ! みんな違う!?」
イリーナの主張に
俺も前に映像見させてもらったが、なんていうか宴会とかお祭りなんかだと愉快で良い曲だと思うけど、人類の防衛目的と考えると些か軽くふざけすぎている感も否めない。
あれならまだ、
どうやら人類の汚点を残さないという意味で、意地でも勝たなければならないようだ。
けど、『
まぁ、いいや。
「そうか。それで人気の高い、レクシー先輩とセシリアを新たなメンバーとして引き入れたのか?」
「ええ、カムイ。急遽、メンバーを増員したのも絶対に勝たなければならないからよ。レクシーはコクマー学園の生徒でも男女問わず人気が高いし、おかげでガルシア家からの後ろ盾も得られたわ。古鷹艦長に関しては以前述べた通りよ。それとマッケン提督への精神的動揺を誘ったのだけど……今頃どんな顔をしているか見てみたいわ」
「既にマッケン提督に知らせているのか?」
「いいえ、今日の披露したデビューライブ中継を太陽系全体に流したのよ。宣伝も兼ねてね。きっと嫌でも知れ渡るでしょ? フフフ……」
流石はイリーナ、やることに抜かりがない。
おまけにグノーシス社も加わるとなると鬼に金棒か……。
すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
イリーナが「どうぞ」と返答すると扉が開けられた。
「イリーナ社長及び
レクシーの妹でありグノーシス社の社長代行である、チェルシー・ガルシアが入ってきた。
彼女の後ろには、コバタケのおっさんと仲良しのハヤタがついて来ている。
「チェルシー……どうしてここに?」
姉のレクシーが問い質した。
「お姉様が不在となった後、レディオお兄様から連絡が入りましたの……『ヘルメス社と共同してグノーシス社も
「……ワタシィ、いつの間に親友になったネ?」
シャオは小声で呟くも、チェルシーに完全無視される。
レクシーもそうだが、ガルシア家は一方的なところがあるらしい。
「兄上が? 珍しいな……どうせまた合理的な論理とか言いながら、何か企んでいるのだろう」
「今回はわりとまともな理由ですわ。『マッケン・カーニバルⅢ? いや糞ダッサいでしょ? あんなのに人類が救われるくらいなら、イリーナ嬢のユニットの方がまだ合理的だよねぇ』だそうですわ」
「珍しく彼と利害が一致したのよ。したがって『宇宙アイドル・プロジェクト』に関しては、グノーシス社と共同することにしたのよ。彼、妹思いだからレクシーを引き込んで正解だったわ」
イリーナが不敵に微笑み、ライバル企業を受け入れている。
地味にレディオと仲が良いんじゃないかと思った。
チェルシーは「やれやれですわ」と呟き、レクシーに視線を向ける。
「にしても、レクシーお姉様がまさかヘルメス社の傘下に収まるとは……そんなに宇宙アイドルをおやりになりたかったとは、わたくし知りませんでしたわ」
「いや、違うぞ、チェルシー! 私は家を離れる際に自分の力で生きていくため、
「その恰好で?」
「こ、これは……なんと言うか、そのぅ」
最早、説得力の欠片もない、レクシー先輩。
「もう皆まで言わなくて結構ですわ。それがお姉様の導き出した答えなのですね……どうか、宇宙アイドル道をお極めになってください。わたくしも応援しておりますわ」
「いや、だから違うんだ……ついノリに流されてしまったと言うか。うむ、ありがとう、チェルシー」
レクシーは言い訳しても無駄だと悟ったのか口篭り受け入れてしまった。
でも隔たりのあった姉妹同士、和解したぽくて良かったな……。
いや良かったのか、これ?
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