第107話 Angelusデビュー
ついに宇宙アイドルグループ、『
グタグタな活動だったけど、練習だけは真面目にやっていたのを見ていただけに、つい期待と不安が過ってしまう。
てかマネージャーの俺とハヤタに声を掛けないってどういうことよ?
別にいいけど……。
俺は背伸びして集まっている人混みの向こう側を眺める。
視力は抜群だから離れていても問題ない。
奥の方で大掛かりな会場がいつの間にか設営されている。
大勢の作業スタッフがは鉄筋を組み立て、重機まで持ち出されていた。
絶対にヘルメス社の社員達だろう。かなり手際が良い。
あっという間に野外ステージが完成する。
やたらと煌びやかなで豪勢な舞台。とても無名アイドルがデビューする単独ステージとは思えない。
ましてや一曲しか歌えない筈だよな?
すると何故かステージにコバタケのおっさんが堂々と上がって来る。
マッド博士の白衣姿じゃなく、背広で身形を整えており胸元に大きな蝶ネクタイを付けていた。
奴の手にはマイクが握られている。何気に小指を立てながら。
『皆さ~ん! 青春を満喫しているか~い! もう間もなく、期待の新人宇宙アイドル「
流暢な口調で名乗りを上げる、コバタケのおっさん。
何が起こっているのか、俺にはさっぱりわからない。
『それじゃ~、カウント入りますよ~! 皆さんも一緒に~、ハイ!』
コバタケのおっさんは片腕を掲げ音頭をとる。
するとバックのステージ上からプロジェクションマッピングで巨大な30カントが表示された。
1つずつ数字が減る度に、周囲のボルテージが上がっていく。
残り10カントに入ると、その場にいる全員が大声で刻み始めていた。
カウントが0を刻んだ瞬間、ステージから大きな
スモークが晴れると共に、ステージ上には少女達のイントロポーズがカッコよく浮かび上がっていた。
――宇宙アイドル、
そのメンバー全員が、色違いのアイドル衣装に身を包んでいる。
軍服の改造した、可愛らしいヒラヒラのミニスカートだ。
着飾った桜夢をセンターに、イリーナとリズ、それにシャオって……って、あれ?
4人ユニットの筈なのに、6人もいるぞ。多くね?
俺はさらに目を凝らし、両端に立つ二人を見据える。
――レクシーとセシリアだ。
な、なんで、彼女達がメンバー入りしてんの!?
完全にスモークが晴れたと同時に前奏が流れる。
J-POP風のデビュー・ソング。
気づいてInsensitivity♪
センターの桜夢を中心に4人の美少女達が合わせて歌い踊る。
イリーナとリズとシャオは練習通りに完璧なパフォーマンスだ。
特にイリーナなんか普段絶対に見せない笑顔と愛嬌を感じる。もう完全にアイドルになり切っているじゃないか。
そして明らかに覚えたてだと思われる、レクシーは歌うまでの余裕はなさそうだが持ち前の運動神経と記憶力の良さで、なんとか周囲に遅れることなく動いている。
普段、凛とした立ち振る舞いから想像もできないくらいキュートに踊っていた。
一番驚いたのはセシリアだ。
天才艦長と呼ばれるだけあり記憶力が抜群なのはわかる。けど、ついさっきまで俺が焼いた肉を口いっぱいに頬張っていた少女と同一人物とは思えないくらいアイドルしている。
動きはやたらキレキレだし、何より笑顔が弾け輝いていた。
そういや、「マッケン・カーニバル」シリーズではバックダンサーを強制的に務めているらしいから、きっとステージ慣れしているのだろう。
さらに桜夢の歌唱力も複座型
こうして再び聞けて幸せな気持ちになってくる。
「星月ちゃん、ガチ可愛い~! 歌、最高ッ!」
「凄げぇ、あの白い子誰だよ!? もう超可愛くね!」
「やべぇ、みんなレベル高すぎ! 絶対にイケてるよ~!」
顔見知りの桜夢は勿論だが、ほぼ初顔のイリーナに至るまで声援が送られていた。
さらに彼女達のパフォーマンスで、客席みんなのボルテージがMAXまで盛り上がる。
なんだか俺も胸が躍り高揚してきたぞ。
実は今日一番のリフレッシュになったかもしれない。
最後の決めポーズで曲は終わり演奏が締め括られた。
途端、客席からアイドル達に向けて大歓声が湧き上がる。
『
謎の司会進行役であるコバタケのおっさんが再びステージに上った。
普段は根暗そうな博士とは思えないハイテンションぶりだ。
歌い終えた少女達は軽く息を切らし一列に並ぶ。
『さぁて~、ここから質問タイムだよ~ん! まずはみんなも気になっている、真っ白な美少女ちゃんから聞いちゃおうかな~! ハイ、キミぃ、まずはみんなに自己紹介してね~、ハイ』
コバタケ博士はイリーナに振ってきた。
『はい!
彼女は抜群の笑顔と愛嬌を振り撒きながら、客席に向けて手を振って見せている。
とても超高圧的な剛腕カリスマ社長と同一人物だとは想像つかない、ブリブリの完全なアイドルがそこにいた。
わざわざ、エリーナという偽名まで使っている。
イリーナは現役のヘルメス社社長だが、あの若さ故に滅多に表舞台で顔を出すことはない。
したがって多少は顔バレしても気づく人には気づく程度らしい。
あの真っ白な髪や赤い瞳も、キャラ付けだと言えばそれまでだからな。
案の定、周囲に気づかれることなく、「キャーッ、エリーナちゃん激カワイイ~!」と絶賛の声が飛び交っている。
それから他の『
ちなみにレクシーだけは「いやぁ、あ、うん、うむ……」と最後まで自分のキャラを捨てきれず戸惑いを見せている。
「――まずは第一
舞台裏に仮設された楽屋にて。
イリーナはアイドル衣装を着たまま両腕を組み素に戻っている。
ステージ終了後、俺は彼女のボディーガードであるアギョウとウンギョウに両脇を抱えられ、半ば強制的にここに連れて来させられた。
「とりあえずお疲れ様。みんないいステージだったよ。ところでイリーナ、『エリーナ』って何よ?」
「アイドル活動時の芸名よ、カムイ。私の存在は別に知られてもいいけど、素のままならファンどころか敵を増やし兼ねないからね。アイドルとしてのキャラ作りと気持ちを切り替えるための ルーティンよ」
メンタルコントロールって意味か? 一応は身の程を知っているようだ。
それはそうと……。
「どうしてレクシー先輩とセシリアがアイドルしてんの? 即興にしちゃ二人とも見事だったけどさぁ……」
「わたしが雇ったのよ。レクシーはヘルメス社の一員になったんだから不思議じゃないでしょ?」
「そうだけど……セシリアは? 彼女、『マッケン・カーニバルⅢ』でマッケン提督とデュエットするんだろ?」
「引き抜いたわ。流石に現役艦長を社員にはできないけど、色々な口約と交換条件の下にね。こうして、『
「カムイくん……あたしね、あんな糞ダッサい『マッケン・カーニバルⅢ』をパワハラ提督とデュエットするより、みんなと宇宙アイドルしていた方が楽しいんだぁ。カムイくんもマネージャーとして関わってくれると聞いたしね」
セシリアはタオルで汗を拭きながら、柔らかく微笑んでいる。
やりきった感が伝わりどこか可愛らしい。
「そっか……けど大丈夫か? マッケン提督ってもろ上官だろ? 変なことにならないのか?」
「心配無用よ、カムイ。『
「グノーシス社のレディオ社長も? なんだか随分と大事だな……たかが『セフィロト文化祭』だろ?」
「たかがじゃないわよ……この『プロジェクト』は、人類の命運を握ると言ってもいいほど絶対に負けられない聖戦なのよ! そのためにも文化祭は、どうしても勝たなきゃいけないの! 手段は選ばないわ!」
人類の命運? 聖戦?
おいおい、随分と壮大なことになってんぞ?
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