第21話 チートAG
『あれを見ろ、黒い
無線越しで、誰かの声が聞こえた。
だが今の俺には関係ない。
何故なら連中が知る、クラスで陰キャぼっちと知られる「弐織 カムイ」では、既にないからだ。
この機体に乗っている自分こそが本来の姿だと言える。
偽りなく自分の能力を開放し、俺の意志を余すところなく最大限に表現できる
それが、“サンダルフォン”だ。
「――カムイ君、これが“サンダルフォン”だ。キミのための
3年前。
火星にあるヘルメス社独自の
俺はガラス越しで、まだ外装が取り付けられてない、辛うじて人型の何かと認識できる巨人の姿を眺めていた。
機械的な関節と骨格、また所々に筋肉組織で構成された存在は、無機的であり無有機的である。まるで機械と何かの生物が混合した人工生物あるいは生体兵器に思えてしまう。
そんな風に考えていた俺に対し、車椅子に乗った真っ白な老人が言ってきた。
枯れ木のように痩せ細った男性だ。
しかし、眼光だけは健在であり、煌々と赤い輝きを放っている。
老人は自分で車椅子を操作する力はなく、いつも同じような特徴を持つ全身が真っ白で美しい少女に押されていた。
当時、11歳のイリーナだ。
そして、この老人が彼女の父親であり、ヘルメス社の代表取締役社長にて創設者でもある、『ヴィクトル・スターリナ』である。
周囲から色々と言われているが、少なくとも俺には優しくて命の恩人とも言える人物。
「サンダルフォン? 今開発中の
「……あれは、国連宇宙軍の注文で、急ピッチに製造させているレプリカだよ。この機体に比べれば、コストを大幅にさげた急場凌ぎの玩具にすぎない。まぁ、これまでの
「が?」
「所詮はレプリカ……私が求めている代物ではない。この“サンダルフォン”こそが、私にとっての希望であり、全てと言えるのだ」
ヴィクトルさんは、医師から余命3ヶ月と宣告されたのにもかかわらず、とても滑舌の良い口調で説明している。
「どうしてヴィクトルさんは、俺にこの
「はっきり言うとカムイ君、キミしか乗りこなせないからだよ……
「ギフト……ですか」
「キミにとっては事故による障害でしかないかもしれないが、これから人類が生き抜くには、カムイ君が必ず必要となるだろう。“サンダルフォン”はそれを表現し証明するための
「……俺が必要と証明するための
だから、カムイ君。
あれから3か月後、ヴィクトルさんは老衰によりこの世を去った。
俺は恩人である彼の意志を継ぎ、この
しかし“サンダルフォン”は、ヘルメス社にとって超重要機密の
そして脳の後遺症と元々の性格もあり、周囲から陰キャぼっちとして空気同然の扱いとなり認知されるに至ったのだ。
『――“サンダルフォン”!?』
レクシーが叫ぶ。
俺はすぐ機体を移動させ、単機で奮闘するレクシー機に接近していた。
彼女の“エクシア”に迫る触手群を
蒼白い二つの閃光が筋を帯び、“レヴィアタン”の顔面部に直撃する。
これまでにない大きな損傷を受け、超巨大な体躯を持つ
『離れていろ!』
俺は無線回線に割り込み、レクシー機に警告する。
彼女は『……う、うむ』と戸惑いながら、後方へ下がって行く。
「ホタル――レギオン・アタック!」
『COPY!』
ホタルの相槌と共に、モニターから照準が表れた。
俺は間髪入れずトリガーを絞る。
“サンダルフォン”の両肩に取りつけられた双翼が展開され、折り畳まれたギミックが開き、片翼に20機ずつ計40機の小型ミサイルが発射された。
ドゥ! ドゥ! ドゥ、ドドド――……!!!
真空である宇宙空間では音は聞こえない。
これらは
先端がドリル状の
頭部ごと顔面が崩壊し、原形を失った“レヴィアタン”は沈黙する。
だが完全に斃したわけではない。
俺はアクセルをベタ踏みし、“サンダルフォン”を旋回させる。
そのまま“レヴィアタン”の下側に移動し、未だちまちまとライフルを打っている訓練生の所へと向かう。
ハヤタ機とアルド機の間をすり抜けた。
『黒い
『な、何だよ、こいつ!?』
『――邪魔だ、どけ』
俺は冷たく言い放ち、使用武器の
“サンダルフォン”の大きな6枚の翼のうち、副翼の一枚が可変し、瞬く間に『移動砲』へと形成されていく。
それは、《
「
高速かつ高出力の
散々手を焼いていた、その巨漢で分厚い装甲をいとも簡単に撃ち抜き貫通させる。
“レヴィアタン”の身体は泡立つように膨れ上がり、蒼白い光輝と共に弾け飛び散らって消滅していく。
それは完全に体内の『
――“レヴィアタン”の撃破に成功したのだ。
『す、凄い……』
近くに居合わせた、“エクシア”各機から溜息と声が漏れている。
俺は連中を無視してスラスターを焚き、その場から離れた。
「――任務終了。これより帰還する、っと言いたいが……どうしたらいいかな?」
ふと我に返り、冷静に状況を整理する。
俺が乗っていた“エクシア”は桜夢に預けたままだし、このままAチームに戻らないのも不自然だよな。
『カムイ、貴方はそのまま戦線離脱した“エクシア”10番機を回収したフリをして戻ってらっしゃい。後は私がなんとかするわ』
メインモニターの隅からウィンドウが開き、イリーナが言ってくれる。
「助かる……そうさせてもらうよ」
『それと、一つ貸しだからね!』
「わ、わかっている。何にでも付き合うよ……イリーナ」
『!? や、約束よ! うふふふ』
急に機嫌がよくなる、イリーナ。
これはこれで嫌な予感がするぞ。
間もなく、桜夢が乗る“エクシア”機と合流した。
『カムイくん、その黒い
「……後で説明するよ」
イリーナから直接な。
だけど桜夢のことが心配だから俺も傍にいてやろう。
「それより、桜夢……その“エクシア”は故障扱いで戦線を離脱しているんだ。みんなには、この“サンダルフォン”がキミと一緒に機体ごと回収したってことにしてくれないか?」
『……いいけど、どうして?』
「俺が、この
俺としてはストレス回避が一番の目的だけどな。
『わかったよ、カムイくん」
桜夢はモニター越しで、ニッコリと優しい微笑みを浮かべた。
邪推しない性格の良い子で本当に助かる。
「よし、それじゃ帰還しよう――」
これで、ようやく護衛任務が完了した。
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