第20話 最強の相棒
“レヴィアタン”によって撃破されたAGの残骸が、桜夢機に接触する。
回避行動を取れないまま、体勢を崩してまった。
『きゃあ!』
同時に、“レヴィアタン”の触手が桜夢機の下肢部に巻き付いた。
触手は伸張され、まるで蔦を張るように機体全体を覆い尽くそうとする。
――だがしかし、桜夢は聡明な子だった。
完全に触手が覆われる前に、“エクシア”の胸部にあたるコックピットのハッチを開放する。
桜夢はコックピットから飛び出し、自ら機体を放棄したのだ。
ほぼ同時に、“エクシア”から蒼白く眩い光輝が発せられ、内側から四散した。
内部の
おかげで、桜夢機の“エクシア”は乗っ取られることなく触手ごと崩壊し、残った俺達にも危害が及ばずに済む。
しかし、
飛び散った、
――クソォ、なんてこった!
「桜夢ッ!」
俺は“エクシア”を動かし、その後を追う。
正直、レクシー機を残していくのは心配だが、今は桜夢を優先するべきだと思った。
この広大な宇宙に流されたら、永遠に見つからない可能性がある。
――それ即ち、死を意味するからだ。
しかし俺の立場上、後先も考えなければならない。
ここはイリーナが施してくれた、もう一つの機能を使用して、“エクシア”が故障したかのように偽装する。
表面上はシステムエラーが起こり、機体の各関節部から火花が散らされた。
さらに
『弐織どうした!?』
「レクシー班長、システムエラーによる駆動部のバーストかと……」
『わかった、すぐ戦線離脱しろ! ここは私が引き受ける! もうじき、正規のAG部隊が来る筈だ!』
「はい、すみません!」
俺は申し訳ないと思いつつ、戦線を離れて行く。
漂流した桜夢を捜索することにした。
脳内をフル稼働させ、「フォトグラフィック・メモリー」を発動させる。
これは、その場で見た出来事を一瞬で映像として記憶する能力だ。
俺は記憶を頼りに、桜夢が流れて行った方向へと向かう。
しかし、いくら俺でも広大な宇宙で一人の女の子を肉眼で探し出すのは至難の技だ。
「ホタル、俺が割り出した予想範囲を中心に、あらゆるレーダーを展開しろ! 他のエクシア機や監視船をハッキングしても構わない! 桜夢の位置を割り出してくれ!」
『COPY』
桜夢が意識さえ失ってなければ、アストロスーツから救難信号は出していると思うが……。
『マスター、予想範囲に救難信号を確認。レーダーに転送シマス』
「頼む!」
ホタルが割り出してくれた座標に向けて、ゆっくりとブーストを吹かし機体を移動させていく。
モニター越しに映し出される、宇宙に浮かぶ少女の姿。
ようやく、桜夢を発見した。
俺は“エクシア”のマニュピレーターを操作し、優しく彼女の全身を包み込む。
プシュっと内側から空気が抜ける音をさせ、俺は胸部のコックピット・ハッチを開けた。
『桜夢、無事か!?』
ヘルメットの無線を通して呼び掛ける。
『カムイくん……どうして?』
『どうしてもあるか! あのまま放置していたら延々と宇宙を彷徨って死んじまうぞ!』
『ごめんなさい……』
大きな瞳に涙を溜め、桜夢は謝罪している。
『い、いや、別に怒っているわけじゃない……とにかく無事でよかったよ』
『うん、ありがとう……でも不思議』
『ん?』
『カムイくん、さっきから口調変わっているよ』
『あっ、これは……いや、そのぅ』
つい素の状態で話していた……。
基本、不器用な性分らしい。
『普段もいいけど、そっちもいいね。それに、わたしを「桜夢」って「さん」抜きで呼んでくれて嬉しい』
『そ、そう?』
パイロット能力以外で褒められるのは初めてだから照れてしまう。
でも呼び捨てにされて嬉しいものか?
俺は桜夢の手に握り、コックピットの中へと引き寄せた。
ハッチが閉められ、ブース内から再び空気が入っていく。
少し息苦しいので、ヘルメットのバイザーを上げる。
シート席後部の簡易式の複座が上がり、桜夢はそこに座った。
「カムイくん、この機体は大丈夫なの?」
「ああ、故障したように見せているだけさ……理由は後で話すよ」
もう彼女に隠し事はできないようだ。
しかし、どこまで話して良いものか。
「問題ないなら、レクシー教官のところへ戻らなきゃ……」
だろうな。
桜夢の性格なら、そう言うと思った。
しかし戦線離脱した俺が戻って、レクシーに不審に思われないかどうか。
適当に叩いていたら、
あるいは、下側で攻撃しているキーレンス達が頑張って、“レヴィアタン”を斃してくれれば万々歳なのだが。
「わ、わかっている……ん? 凄いな、彼女」
コンソールのサブモニターで、レクシー機の姿を捉えた。
“レヴィアタン”の攻撃を悉く躱し、カウンターでライフル弾を撃ち返している。
もろエース級の腕前じゃん。
だが、そう長く持つとは思えない。
一方の下側では、正規パイロットがキーレンスに代わって指揮を取っており、先程とは違いまとまった集中砲火を浴びせている。
このまま行けばと期待もしたが――
『くそっ! まだ、「
無線から、そんな声が漏れている。
先程の無駄弾が祟ったようだ。
やはり俺が行くしかない。
しかし、このまま参戦したとして勝てるかどうか。
だからと言って、このまま連中を見捨てるわけにもいかない。
いくらクラスで冷遇を受けているとはいえ、同じ人間であり一応は共に戦う仲間だ。
それに……俺は、レクシー・ガルシアを助けたい。
なんだかんだ、いつも俺のことを庇って認めてくれていたからな。
教官として尊敬もでき、パイロットとして見所もある。
そして女子としても魅力的な部分も……。
『――あら、随分と楽しそうね。カムイ?』
突如、メインモニターから別ウィンドウが開き、イリーナの顔が映し出される。
明らかに仏頂面で不機嫌だ。
やれやれ……。
「イリーナ、今それどころじゃない! 後にしてくれ!」
『何よ、その言い草……イラっとするんだけど。まぁいいわ、意固地になって貴方を失うわけにもいかないわ――既に“サンダルフォン”を射出しているから乗り換えなさい』
「“サンダルフォン”!? マジか!?」
『本当よ。正規AG部隊が出撃する前にね。もうじき、そちらに着くわ。ホタルに指示してタイミングを計るのよ。ミスったら、貴方の身体が吹き飛ぶからね』
「わかった、感謝する!」
『但し、誰にも知られては駄目よ。貴方と“サンダルフォン”は、ヘルメス社にとって超重要機密事項なんだから……後ろの子は、私がなんとかするわ』
後ろの子?
桜夢のことか?
なんとかって、何する気だ?
ぶっちゃけ嫌な予感しかしないんだけど……。
だけど、この状況でイリーナと口論している暇はない。
「りょ、了解した。ホタル、あとどれくらいで到着する?」
『30秒デス。軌道修正済。速度を合わせた上で、ワタシの指示でマスターが降りれば成功率98%問題ありマセン』
「わかった……桜夢、悪いけど、この“エクシア”機の操縦を代わってくれないか? しばらく俺のフリをしてほしい」
「う、うん……いいけど。カムイくん、どういうこと? サンダルフォンって何?」
『――俺にとって最強の相棒さ』
俺はバイザーを下げ、ニッと笑って見せた。
遠くから猛スピードで迫って来る、
俺の愛機――“サンダルフォン”が接近してくる。
“エクシア”を操作し、ぎりぎりまで近づけさせ機動速度を合わせて行く。
両機のコックピット・ハッチが開き、俺は身を乗り出した。
『マスター、今デス!』
ホタルの指示で、俺は迷わず飛んだ。
アストロスーツの推進装置が作動し、そのまま“サンダルフォン”のコックピットへと滑り込んだ。
加速Gが働いていただけあり結構な衝撃だ。
イリーナじゃないが、少しでもタイミングがずれていたら、間違いなく身体がバラバラになるところだった。
“サンダルフォン”のコックピット・ハッチが閉められ、“エクシア”が離れていく。
「――やはり、この
俺はシートに座り、
「それじゃ、
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