第19話 レヴィアタン戦




 訓練生である俺からの指示を受けて、レクシー機体は一瞬戸惑った様子を見せる。


 しかし、すぐ状況を理解した様子だ。


『そうだな、弐織!』


 レクシーから個人回線で返答が聞かれた。


『――では、私とキーレンスで、あのFESMフェスムの注意を引き付ける! 各機はその隙に装甲の薄い下側へと旋回し、「星幽魂アストラル」を目掛け一点に集中砲火を浴びせろ!』


『ちょ、レクシー!? 待ってくれ! どうしてボクまで囮役をしなきゃならないんだ!?』


『もうじき正規パイロット来る! それまで教官役であり上級生でもある、学徒兵の私とお前で奴の気を引くのが適任だろ!?』


『いや意味わかんない! 普通、指揮する班長ごと二手に分かれて作戦を行うものだろ! どっちかがやられた際、誰がこの隊の指揮を取るってんだ!?』


 レクシーの指示に、キーレンスが猛反発してきた。


 こいつ……さも最もらしい理屈だが、ぶっちゃけ自分は囮役なんてやりたくないって言っているように聞こえる。


『しかし、敵を引き付けるのも、相応の上級技術が必要となる。私一人で、どこまで引き付けられるか……』


『だったら、やっぱキーレンスパイセンがやりゃいいじゃないっすか? レクシー教官へのアピールチャンスっすよ~』


 アルドが嫌味たっぷりで言ってくる。

 以前からキーレンスがレクシーに気があるのは、訓練生の間じゃ割と有名な話だからな。


『今は関係ないだろ!? ボクは嫌だと言っているんだ!』


 この事態で、なんて往生際の悪い奴だ。

 普段、物静かな紳士風のエリートぶっている癖に最低だな。


 こういう場面で人間は本性が出る。


 レクシーは困っているし揉めている時間もない。


 ならば――


「レクシー班長、がお供致します」


 俺は手上げし志願する。


『弐織?』


「訓練では機体操作には定評も頂き、それなりの自信もありますので」


『……そうか、頼む』


 噛みしめながら、どこかホッと胸を撫で下ろしているように聞こえる、レクシーの声。

 単機で囮になるよりは精神的にもまだ安心するだろう。


『わたしも同行いたします』


 何故か、桜夢まで志願してきた。


 その様子に、アルドとハヤタの態度が一変する。


『星月ちゃん!? いきなり、どうしたのよ!?』


『何言ってんだよ、星月!? だったらオレの方が……』


『ううん。優秀・ ・なハヤタくんは、キーレンス教官をサポートして集中砲撃に回ってください』


 いつも柔らかい物腰の桜夢とは思えない、語気を強めた口調である。


『わ、わかったよ』


 ハヤタは納得を示した。

 いくら過保護にしたくても、あれだけ毅然として言われてしまうと、最早否定しようもないわな。


 しかし、桜夢。

 いきなりの初陣にもかかわらず度胸が据わっている。


 この辺が地球上がりである彼女と、学生気分が抜けない他の連中との覚悟の違いなのだろう。


『わかった! 星月、許可しよう! それでは、私と弐織と星月で、“レヴィアタン”の注意を引き付ける! 他の者はキーレンスの指示の下、作戦行動に移ってくれ!』


 レクシーの指示で、各機AG部隊が作戦行動に出る。




『行くぞ! 撃てぇ!』


 俺達3機の“エクシア”が前方から、“レヴィアタン”の注意を引き付けるため、攻撃を仕掛ける。


 “レヴィアタン”は直撃を受けるも、大した気にする素振りも見せずに、俺達に向けて大口を開けて迫ってきた。


 その隙にキーレンス達が下側に迂回し、肉の装甲が薄いとされる部位に一斉攻撃を仕掛ける。


 “レヴィアタン”の腹部から、幾つも蒼い閃光が直撃し、より眩く光輝を発していく。

 どれくらい削れたのかわからないが、“レヴィアタン”は物怖じせず、囮役である俺達へと向かって来た。


 しかし、妙だぞ。


 17機のAGアークギアが総力を上げて連続でエーテル霊粒子砲を浴びせているのに、どうしていつまでも『星幽魂アストラル』に届かないんだ?


 いくら、爵位級ロイアルに分類される強力なFESMフェスムとはいえ、集中砲火すれば普通に穴ぐらい開くもんだろ?

 その為のAGアークギア部隊なんだからな。



『キーレンス、何をしている!? 早くしろ!』


 レクシー機は射撃と回避行動を繰り返しながら催促している。



『や、やってますよぉ! キミ達、しっかり狙って集中して撃ちなさい!』


『デカブツめ、落ちろ!』


『死ね死ね死ね死ね!!』


『ひゃはーっ、オラオラオラ!!!』


 なんだろ……こいつら本当に一点に集中攻撃しているのか怪しいぞ。


 俺達がここまでお膳立てして、まさかテンパりすぎてバラバラに撃っているんじゃないだろうな。


『――カムイくん、危ない!』


 桜夢の声。


 “レヴィアタン”の大口から複数の触手が伸ばされ、俺が乗る“エクシア”に襲い掛かってきていた。


「ふん!」


 俺はギリギリの角度で巧みに躱し、常装備された霊粒子刀剣セイバーブレードでカウンターの斬撃を与える。


 同じ動きで向かってくる触手を全て斬り落としてやった。


「これもブースト系を改良してくれた、イリーナとヘルメス社の整備士に感謝だな。だが、制作時にコストをケチられたと愚痴っていた割には、癖もなくいい機体じゃないか?」


 その分、これといった特徴もないけどな。


 俺は操縦桿グリップを握り直し、“エクシア”というAGアークギアを評価した。


『す、凄い……カムイくん』


「偶然だよ。桜夢さん、回避に集中!」


『はい!』


 見惚れるあまりに動きを止める、桜夢に一喝を入れた。


 俺のことより、まず自分のことに集中するべきだ。

 じゃないと簡単に死神って奴は襲ってくる。


『弐織、やはりな……私の目に狂いはなかった』


 レクシーは自機を操作しながら、しっかりと俺の操縦を見ていたようだ。


 参ったな……。


 自分から志願したとはいえ、すっかり墓穴を掘ったってやつだ。

 レクシーにだけは、俺のガチを見せたくなかった。


 ――しかし、キーレンスじゃ力量不足。


 きっと正規パイロット達が駆けつける前に、二機とも撃破されてしまう。


 だったら俺がやるしかないと判断した。


 そして、やるからには、偽りなしの本気で挑まなければならない。

 当然、普段の仮想操縦訓練シミュレートのような手を抜く戦いは不可能だ。

 ミスったら、そこで全てが終わるからな。

 訓練やゲームのように、やり直しはできない。


 それが戦場という現実リアルだ。


 しかしまさか、桜夢まで囮役に手上げするとは思わなかった。

 改めて凄い子だと思う。



 それから、ようやく正規パイロット2機が合流してくる。


『待たせたな! なんだ!? あれだけ撃っているのに、まだ「星幽魂アストラル」に届かないのか!?』


『もう、何やってんのよ!?』


 女性パイロットが苛立ち、“レヴィアタン”の新たな触手攻撃を躱しながら真下へと向かう。

 危なかしさもなく、流れるような回避技術。

 流石は正規のパイロットだ。



 残りの俺達は、彼女を援護する形で霊粒子小銃エーテルライフルを撃った。


 しかし、“レヴィアタン”の様子が可笑しい。


 巨大な口をさらに開け、その空洞内から赤い光輝を放ち蓄積される何かを感じた。


ALERTアラート! マスターいけまセン!! すぐ回避行動を!!!』


「やはり、《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》か!? まずい、各機逃げろ――」


 俺が叫ぶ瞬間に、“レヴィアタン”の口が開かれる。

 そこから蒼白い灼熱の光輝が放射された。


 大口から発せられた《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》は、主力戦艦並みの威力と攻撃範囲を持っており、たとえ直撃は免れたとしても機体の損傷は免れないだろう。


 俺を含む、各機は散開し回避行動を取る。


 レクシー機は、俺とほぼ同時に動いており、おかげで攻撃範囲から逃れることに成功する。


 しかし、


『ぐわ――!』


 正規パイロットは回避しきれず、直撃こそ避けられたが、そのギリギリの激しい熱量を浴びて機体が被弾し大破してしまう。

 宇宙空間では爆発こそ起きないが、崩壊した霊粒子動力炉エーテルリアクターが飛び散り、蒼い閃光が花火のように一瞬だけ弾け飛び消滅していく。


『ああ!?』


 桜夢機も回避に成功するも、すぐ目の前で正規兵のAGアークギアが無残に撃墜されたことに驚愕している。


「桜夢――そこからすぐ離れろ!」


 直感が走り、俺はまたもや素で叫んでいた。



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