第18話 遭遇するFESM




ALERT緊急警報! マスター、30㎞先に時空転移反応アリ! 空間が歪められ、もうじきホワイトホールが発生しマス!』


「何だと!? この宙域にFESMフェスムが出現するというのか!?」


 すると、遥か前方に眩い光輝を発した。白い渦が出現し大きく広がり始めている。

 まだ大分距離があるにもかかわらず、虚空なる宇宙空間では肉眼でも小さく認識できた。


 俺はサブモニターを拡大させ、それがホワイトホール現象によるものだと理解する。


「まさか、訓練生ばかりの状況で『敵』に遭遇する羽目になるとは……」


 何年も出現していない区域エリアとはいえ、正規パイロットが2人のみ。

 他は学徒兵2名に、俺達訓練生が30名だけの状況である。


『ホワイトホールから、FESMフェスム出現デス! その数1体!』


「1体だと? 野良ってやつか?」


 時折いるらしい。

 FESMフェスムは基本組織的であり、群体で一斉に襲ってくる。

 だが稀に群れからはぐれたのか、単体で『絶対防衛宙域』に出現する奴もいた。


 小型FESMインプ級なら駆除するのに造作もないが、そういう奴は決まって大型FESMマラーク級が多い。

 

 あるいは――


『全長、約1,500mはありマス! 爵位ロイヤル級かと思われマス!』


主力戦艦ミカエル並みの大きさはあるってわけか……わかった。ホタルは、そのまま敵の索敵を続けてくれ。俺は周囲の出方を見ながら行動を起こす」


『マスター……』


「どうした?」


『いえ、何でも――COPYコピー


 ホタルは何か言いたそうだったが、モニターから姿を消した。


(……そういう事か。どうやら気を遣わせてしまったようだ)


 進化型のAIだけに自我はあるも、俺の指示に忠実な電脳妖精のホタル。

 俺のストレスにならないよう彼女・ ・なりの配慮もあり伏せられているが、その口振りから、相当やばい事態だと予想できる。


 ホタルが報告した「爵位級ロイヤル」とは、FESMフェスムの中でも個体に名前が付けられた最高位の存在であることを指している。


 以前、仮想訓練装置シミュレーターで戦った“バルバトス”もその一体だ。


 爵位級ロイヤルクラスの中でも、さらに細かく区分化されているが、今は説明している暇はない。


 中隊規模の戦力があるとはいえ、この訓練生ばかりのAG部隊で勝てるかどうかだ。



 ――案の定、不意を衝く敵の出現に周囲はパニックを起こしている。


FESMフェスムだと!? 嘘だろ!?』


『聞いてねーよ!』


『ど、どうするのよ! 訓練生ばかりの私達で戦えって言うの!?』


 無線の回線を変えることなく、全機に筒抜けで訴えてくる訓練生達。

 余計、火に油を注ぐというものだ。


 焦りや混乱は伝染するものだ。俺はそう思っている。


 現に俺達Aチームにも、その兆候が見られていた。


『い、いきなり実戦やれってのか!? やべーよ、やべーよ! どーすんだよ、ハヤタ!?』


『クソッ、上等だ! こちらから先手を撃ってやるぅ――くらえ!』


 アルド機はそわそわと落ち着きなく動き回り、ハヤタ機は霊粒子小銃エーテルライフルを構えて発砲している。


『落ち着け、ヴァロガーキ! ハヤタも、まだFESMフェスムと遭遇していないのに、むやみに撃つな馬鹿者!』


 レクシーは宥め制止を呼び掛ける。

 他の学徒兵達も「慌てるな! 訓練通りにやればいい!」と全体に向けて呼び掛けていた。


『カムイくん……』


 桜夢が乗る“エクシア”3番機が、俺の機体に近づいてくる。

 きっと、この子にとっても初の実戦になるのかもしれない。


「あくまで上官の判断になるけど、ここが『絶対防衛宙域』である以上は、正規軍が来るまで僕達で侵攻を食い止めなければならないと思う」


 いや、そう判断せざるを得ない状況だろう。

 それが国連宇宙軍の存在意義であり使命だからだ。


 さっきホタルが俺に伏せていたのはこういう意味だろう。


 正規パイロットばかりの中隊なら、たとえ爵位FESMロイヤル級だろうと1体程度のFESMフェスムであれば、まだ戦える相手である。

 

 しかし御覧の通り、戦う前からこの醜態。


 正直、話にならない。


 だからホタルは何かを言いかけた際、思わず躊躇したのだろう。

この子は俺の生存を最優先する使命がある。

 きっと訓練生達のパニックに生じて、イリーナが機体に施してくれた『偽装』を使って、戦線から離脱させようと考えたのかもしれない。


 即ち、この連中を見捨てろという意味だ。

 如何にもAIらしい冷静かつ冷徹な合理的思考。


 だがホタルは自我があるため、俺の精神的部分を配慮する倫理観を持っている。

 それは誰かがプログラムしたわけじゃなく、彼女自身が俺と接することで覚え成長した思考と感性だ。


 だから俺は、ホタルをAIとしてだけじゃなく、時には普通の女の子として見るように接している。

 肉体があるかないか、それだけの違いとして――。


 さっきも気を遣わせてしまった。

 俺の気性を汲み、「見捨てて逃げる」という提案と選択をしてこなかったのはその為だ。



『すぐに正規軍が到着する! それまで、この宙域は我らで防衛するぞ!』


 班長であり訓練生の教官である、レクシーの指示が飛ぶ。


 俺達訓練生は「了解!」と応答を返した。



 ちなみに監視船は既にCチームと合流しており、これから向かってくる正規兵と合流して回収されることになっていた。


 また後方で待機している、2機の正規兵もこちらに向かっているらしい。




 数分後。


 蒼白く発光する巨大な物体が接近してくる。


『で、でかい……』


 その禍々しい存在に誰もが息を呑む。


 未だ数キロは離れているのに、はっきり確認できるほど威圧感を醸し出していた。


 まるで主力戦艦ミカエルを彷彿させるような超巨大なFESMフェスムである。

 ぱっと見は魚類、または鯨のような流線形、あるいは瓢箪ひょうたんとも言える歪な体躯。

 魚の胸びれにあたる部分に、真っ白な大きな両翼が生えて羽ばたかせながら推進し、宇宙そらの海を泳いでいる。

 巨大な蛇のような隆々とした尻尾を左右にしならせ、移動と進路方向を安定させているように見えた。

 恐竜を彷彿させる形状の巨大な口を持ち、全長15mの“エクシア”であろうと、いとも簡単に飲み込めるだろう。

 

 ――“レヴィアタン”


 最高位である爵位FESMロイヤル級に分類される、強力なFESMフェスムだ。



「“レヴィアタン”か……こいつは群れからはぐれたんじゃない。最初から群れる必要がなかっただけだ」


 敵の姿を目の当たりにして、俺はそう理解した。


『――撃て!』


 レクシー班長の指示で、防衛線を張っていた各エクシア部隊は発砲する。


 巨大であるだけに、全弾が向かって来る“レヴィアタン”の顔面に命中した。


 蒼白い閃光を放ち、外部装甲は削れるも範囲がまばらな付着する米粒のように小さく、まるで致命傷にはならないようだ。


 しかし、霊粒子エーテルを使用したエネルギー弾なので、しばらく自己再生される心配はない。

 このままタケノコの皮むきのように削っていき、体内にある活動の源であり永久機関(心臓部)である『星幽魂アストラル』を完全破壊すればいい。


 だが俺達が乗る“エクシア”の装備では、あれだけ巨大で分厚い装甲板のような肉体に対し、そう簡単には中心部へは届かないだろう。


 ましてや、こうもバラバラに撃っていたのでは――



 この状況ヤバいな……。



 俺は個人回線に切り替え、レクシー機へと近づく。


「レクシー班長! ここは正面からの囮となる役と、装甲が薄い下側面から一点集中攻撃する役割に分かれて装甲を削っていかないと、あのFESMフェスムの『星幽魂アストラル』は破壊できない! キーレンス班長にそう指示してくれ!」


 つい見てられなくなり、素で指示してしまう俺であった。






───────────────────


《設定資料》


〇FESM(フェスム)※主な概要の詳細は「第01話」を参照。


 西暦2030年に突如、地球へ襲来した正体不明の宇宙怪獣群。

 見た目は醜悪その者だが、何故かどれも『白い翼』が大小なりと生えている。

 単体、あるいは軍隊のように組織的な行動をする。

 個体の大きさや形状タイプと組織役割により、悪魔の名で命名されている(あくまで人類側の見解と認識)。


 太陽系内の亜空間(ホワイトホール)から出現し、地球圏へ舞い降りたとされている。


 通常兵器も有効にダメージを与えられるが、内蔵された活動の源であり永久機関(心臓部)である『星幽魂アストラル』を完全破壊しなければ破損部分はすぐに自己再生してしまう。

 但しAG(アークギア)装備された霊粒子エーテル系の武器(霊粒子銃ライフル霊粒子刃ブレード等)であれば再生を抑制し、あわよくばそのまま撃破も可能である。



《種別カテゴリー》


 国連宇宙軍では人類の天敵であるFESMに対し区別するためカテゴリー化されている。

 配色や形状など異なるタイプが多いため、主に特異性と大きさで区分けされていた。


小型FESMインプ級……全長10m内で群体型が多い。大した戦闘力はなく、AG開発前では通常の戦闘機でも撃墜することができた。


中型FESMサタネル級……AGと同等、あるいは一回り大きいサイズ。小型FESMインプ級より強力な戦闘力を持ち、AGのシステムを乗っ取り同士討ちさせる能力を持つ者もいる。


大型FESMマラーク級……戦艦に匹敵する巨大サイズが多く、その役割から群体の司令塔ではないかと推測されている。


爵位FESMロイヤル級……最高位のFESMで、個体により名称が付けられ数が少ない。何かしらの特殊能力を有していることから単独行動が多いとされる。

 中でも脅威と畏怖から『堕天使グレゴリル』という、エース的な別格扱いで区別されるFESMも存在した。




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