第22話 超圧迫面接
「特務大尉、お帰りなさい」
「相変わらず、お見事な戦いでした!」
主力戦艦“ミカエル”に増設された、ヘルメス社が所有する
帰還した途端、“サンダルフォン”専属の整備兵達が褒め称えてくれる。
俺は軽く手をふり、回収された訓練生の“エクシア”10番機の所へ向かった。
「特務大尉? カムイくんが?」
コックピットのハッチが開き、桜夢は機体から降りた途端に首を傾げて見せる。
同じクラスの訓練生だと思われているので、彼女の反応は無理もない。
「色々と事情があってね……
「うん」
桜夢は素直に頷いてくれた。
普通なら、もう少し食い込んでくるが彼女にはそれはない。
まるでずっと以前から、俺の気性やストレスを抱えやすい体質であるのを知っているかのように聞いてくれる。
性格の良く従順、いや人に配慮できる子なのだろう。
『――カムイ、待ちなさい』
「うわぁ!」
突如、目の前にプロジェクションマッピングで、イリーナの顔が立体的に映し出される。
しかも、やたら顔がでかい。
俺の身長より大きいじゃないか?
そんなのがいきなり現れてしまったので、思わず声を上げてしまった。
一方で、イリーナは赤い瞳を細め、ジト目で俺を睨んでいる。
『うわって何よ……こんな美少女を捕まえて』
美少女って自分で言うと嫌味だぞ。
まぁ、本当のことではあるけどな。
「びっくりしただけだよ……イリーナこそ、あからさまに顔のサイズ間違えているぞ」
『こういう仕様なの。文句ある?』
「べ、別に……それで、なんだよ?」
『
言いながら、キッと桜夢を睨んでいる、イリーナ。
……やっぱり嫌な予感しかしない。
けどイリーナが雇い主である以上、俺は従うしかない。
今回のことも一応は感謝しているからな。
それからゼピュロス艦隊は、コロニー船である“セフィロト”と合流し連結する。
俺と桜夢は戦艦から降りると、ヘルメス社の社員がリムジンで迎えにきていた。
「弐織様、星月様、お迎えに上がりました。さぁ、こちらへ」
能面のような仮面をつけたメイド服姿の少女が、リムジンから降りて俺達を案内する。
素顔はわからないが、すらりとしたバランスの良い体形であり、赤毛のショートカットの少女だ。
俺と桜夢は頷き、リムジンに乗車すると、車はすぐ発進する。
王冠を意味するマルクト地区へと辿り着いた。
その後も赤毛のメイドから案内を受け、ヘルメス社のオフィスへと向かう。
桜夢は滅多に見られない贅を極めたと言わんばかりの光景に、完全におのぼりさん状態で周辺を見渡していた。
赤毛のメイドが、社長室の扉をノックして開ける。
無言で俺達を通すとメイドはどこかへ去って行った。
広々とした一室の中央に、イリーナが偉そうにディスクに座っている。
机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に添えている高圧的なポーズ。
まるで悪の総帥じゃないか。
「――よく来たわね。私はヘルメス社の代表取締役社長のイリーナ・ヴィクトロヴナ・スターリナよ」
「綺麗な子……」
桜夢はイリーナを見た瞬間、そう呟いた。
確かに「白き妖精」と呼ばれるほどの神秘的な美少女だと思う。
――あくまで見た目はな。
中身は執念深く手段を選ばない側面がある。
父親譲りってやつだろうか。特に嫌いな奴に対して……。
そのイリーナはポーズを解き、「ふ~ん」と鼻を鳴らしながら椅子へと寄り掛かった。
「……なるほど。カムイが認めるだけはあるようね。器量もいいし見込みはあるわ。貴女、桜夢って言ったわね? 気に入ったわ」
「気に入ったって何がだよ」
何やら意味深なこと言っているイリーナに対し、俺が聞いてみる。
「なんでもないわ、まぁ座りなさい」
勧められるまま、俺達二人はソファーに座った。
「星月 桜夢さん、貴方のことは調べさせてもらったわ。色々と聞きたいことがあるでしょ? 特にそこのカムイに関してね」
「はい」
桜夢は首を縦に振り頷いて見せる。
「教えてあげる。その代わり他言無用よ――」
イリーナは自分の素性だけでなく、俺との関係や“サンダルフォン”の専属パイロットであり何故に普通の訓練生として過ごしているのか、脳の障害や症状についてまでほと細かく説明した。
俺も桜夢なら知られても別に良いかと思い、黙認することにする。
全ての説明が終わり。
「――カムイくんが……だから普段から一人でいることが多かったんだね」
「まぁ、あのクラスの連中とウマが合わないってこともあるけどね」
「ごめんね……きっと、わたしも何も知らないところで」
「いや、そんなことないよ。初めは正直、警戒もしたけど……それは俺の問題もあるから」
「でも凄いと思う……だって一人で、あれだけ戦えるし、今回だってみんなの命を助けたんだからね。わたしも含めて」
「いや、なんて言うか……」
は、恥ずかしい……。
こうして面と面を向き合って直接お礼なんて言われてことなかったからな。
しかも全ての事情を知ってもらった上だと余計に。
俺が照れていると、イリーナが大きく咳払いをして見せる。
また不機嫌になった。
ようわからん社長だ。
気まぐれな高級白猫のようだぞ。
「それで、星月さん……いえ、
「誠意?」
「そう、率直に言うわ――ウチの会社で働きなさい。工作員のアルバイトとして」
「「え!?」」
桜夢と俺は同時に驚く。
「おいイリーナ、いくらなんでも彼女を巻き込むのは……桜夢は信用できる。ただの口止めでいいんじゃないか?」
「カムイはお黙りなさい!」
「はい」
イリーナに鋭い眼光で睨まれ、俺は飼い犬のように従う。
駄目だ、俺も所詮は雇われパイロット。
おまけに恩と義理もあり、キリっとしたイリーナには逆らえない。
「工作員とは何……いえなんです? わたしにどこかに潜入してスパイになれというの?」
「貴女にそこまでは要求しないわ。もう既に他の者がおりますし」
やっぱり居やがるんだ、スパイ!
そいつが学園で俺の様子を監視して、こいつにチクってやがるんだな!?
誰よ!?
「だったら、わたしに何をさせようと……」
「カムイのサポートよ」
「「え?」」
再び声を揃えて驚く、桜夢と俺。
「カムイの病状、いえ
「イリーナ……」
ちょっと嬉しい、いや凄く嬉しい!
普段は高圧的なわがまま娘だが、実は優しいところもあったりする。
だから、俺も守ってやらなきゃと思えてしまうんだ。
「わかりました。わたしでよければ是非に!」
桜夢は快諾してくれる。
彼女も性格が良くていい子だ。
「採用決定ね。但しあくまで友達ポジよ! それ以上は認めないからね!」
「は、はい……」
「それと工作員、いえ社員としても色々と働いてもらうわ。まぁ、貴女の立場を悪くしない程度だから安心して」
「わかりました。人道に背かなければ特に拒みませんので……人類の未来のための戦いであれば」
その言葉を聞いて、イリーナはニヤリとほくそ笑む。
……こいつ他にも何か企んでいるな?
まぁ、いざとなったら俺が止めればいい。
そこは雇い主とか関係ない。
特に俺絡みで、桜夢のような良い子に迷惑を掛けるわけにはいかない。
とはいえ、イリーナの気遣いに感謝もしているけどな。
「イリーナ、色々と配慮してくれてすまない。ありがとう」
「――虎穴に入らずんば虎子を得ず。問題なくてよ」
「ん? どういう意味だ?」
「なんでもないわ……話は終わりよ。サクラ、後日契約書にサインするのよ。当面はアルバイト扱いだけど、働きによっては正社員として起用してあげるからね」
「は、はい……では失礼します」
謎の言葉を残したイリーナに向けて、桜夢は立ち上がり一礼した。
それから俺と一緒に社長室から退出する。
こうして、桜夢はヘルメス社の工作員(アルバイト)として採用された。
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