第33話 相談を受けるエースパイロット
絶対防衛宙域の巡航中、
現に最初の方は、犠牲こそ多いも順調に敵を駆逐していたらしい。
だが1体の
幸い敵側も損害も多かったからか、その1体と他の
「第二艦隊は相当な壊滅状態だが全滅はしてないらしい……主力艦“ラファエル”は辛うじてだが健在のようだ」
「その場で動けず救援を待つ戦艦もあるって……きっとすぐ『ゼピュロス艦隊』にも通達しがあるぜ」
「え~っ! じゃあ、私達も戦場に行かなきゃいけないわけ?」
「いやいや、まず正規パイロットからだろ? それから学徒兵が救援とか回収作業じゃね?」
朝からクラス中で、その話題で持ち切りだ。
国連宇宙軍が主力とする全四艦隊のうち一艦隊が行動不能に陥ったからな。
太陽系である「絶対防衛宙域」を
再編成されるまで、他に残った艦隊がその穴を補わなければならない。
クラスの連中が言っていた通り、学園の生徒も必然として駆り出されるだろう。
まぁ半熟以下の訓練生である第102期生が、いきなり実戦に投入されることはない筈だ。
“サンダルフォン”のパイロットである俺はどうなるかわからんが、普段通りお呼びが掛かるまで待機扱いってところか。
にしても『ノトス艦隊』を壊滅させたという、1体の
どんな奴なのか気になる。
「おはよう、カムイくん。昨日はありがと」
桜夢が教室に入り、隣の席に座ると同時に小声で挨拶してくれる。
俺が目立たないよう支援してくれる、相変わらず気配りのできる子だ。
こちらも頷き小声で答えた。
「おはよう、桜夢……朝のニュース知ってるか?」
「う、うん……ノトス艦隊のことね。わたしのお父さんも元ゼピュロス艦隊の艦長だったから、やるせないなぁ」
そういや、そうだって聞いたな。
一昔前こそ、戦闘機や戦艦ごとの体当たり戦法が主流だったらしい。
絶対防衛宙域を死守するためとはいえ、玉砕覚悟の神風特攻なんて凄ぇな。
俺なら絶対に真似したくないけど。
でも桜夢のお父さんの気持ちもわからなくもない。
命懸けで大切な家族を守るためと思えば……か。
「やっぱり今日は古鷹さん、お休みしているんだね」
桜夢は俺のもう一つの隣席が空席であることを指摘し呟いている。
「セシリアさんかい? まぁ事が事だからね……艦長だから仕方ないと思うよ」
「そう……カムイくんは?」
「え?」
「……ううん、ごめんなさい。ちょっと心配しただけ」
俺の正体を知る桜夢は身を案じてくれているようだ。
相変わらず優しいな。それに嬉しい。
無論、何かあれば出撃しなければならない。
その覚悟は
午後となり突然、専門学科の授業は中止だと告げられる。
理由は、やはり『ノトス艦隊』の壊滅したことに起因していた。
そして、
「レクシー姐さんとキーレンス先輩が正規の
集められた操縦訓練科の教室で、第102期パイロット訓練生こと俺達に向けてそう告げられた。
二人と親交のあるハヤタが一番に驚き声を荒げている。
「そうだ。本日づけで私とキーレンスは実戦部隊に配属されることになった。だからしばらく不在となるだろう……もしかしたら、こうして皆に会うのも最後になるかもしれん」
つまり学徒兵から士官となり、階級も准尉から少尉に昇格するらしい。
あの年齢で士官なのだから、本来なら凄く名誉なことなのだが……。
「レクシー! 縁起でもないこと言わないでくれ! ボクはキミと違い、こんなパワハラ任命を納得したわけじゃない! 学徒兵と違って前線で戦わなくちゃいけないんだぞぉ! ボクは……ボクは死にたくない……ううう」
キーレンスが半ギレしてぐずぐすと鼻を鳴らし、挙句の果てには半ベソまでかいている。
どうやら自分で志願したわけじゃなく、准尉ってことで軍から強制的を辞令を受けたようだ。
なんでもゼピュロス艦隊のうち、主力艦“ミカエル”と巡洋艦数隻で他の艦隊と合流し、例の絶対防衛宙域で生き残った“ラファエル艦”と生存者達を救援する任務であるとか。
無論、ノトス艦隊を壊滅寸前に追い込んだとされる
「やめろ、キーレンス! 訓練生が見ている前だぞ!」
「そんなこと言ったって嫌ものは嫌なんだ……まだボクは死にたくないんだよぉ~!」
キーレンスの奴。
仮にも教官の癖に嫌がりすぎだな……まるで駄々子、もう訓練生以下だぞ。
そういや以前の「レヴィアタン戦」でも臆病風に吹かれ、レクシーを困らせていたな。
だから彼女からも距離を置かれているのだろう。
その普段は穏やかな紳士風の優男先輩とは思えない醜態ぶりに、誰もがドン引きしていた。
特に奴に憧れを抱いていたクラスの女子達から「……なんか、キーレンス先輩ダサくない?」などと、こそこそ話が囁かれている。
怖いと思うのは仕方ないが、AGパイロットとしての誇りと覚悟が足りないのも確かだ。
どの道、俺達訓練生は二人の教官を見送ってやることしかできない。
それから放課後。
俺は掃除当番を終わらせ、一人で教室内を出ようとした。
「――カムイ」
廊下から聞こえた凛とした声。
レクシー・ガルシアだ。
彼女も一人のようだけど。
「レクシー先輩?」
「ちょっといいか?」
「……構いませんけど」
俺がそう言うと、彼女は教室に入り扉を閉めた。
広々とした空間に二人っきり。
昨日のこともあるからか、ちょっぴり緊張してくる。
「すまんな……キミに相談したいことがあってな」
「僕にですか? 答えられる範囲であれば」
「う、うむ……実はキーレンスではないが、私も正規の
「僕の意見?」
「そうだ、
遠回しに「お前、何度も実戦に出ているだろ」と言いたげだな。
既にレクシーには俺が“サンダルフォン”のパイロットだとバレている。
俺に配慮してあえて言及しないで見逃してくれているわけで……。
だったら下手に誤魔化さず、真剣に彼女と向き合うべきだ。
「――
「キミでもか?」
「はい。けど常にそう見せないようにしています……周りを不安にさせてしまうだけですから」
特にイリーナ、彼女は俺が守らなければならない。
たとえ世界中を敵に回そうと、そう決めているからだ。
「そうか、結局は己自身がモノを言うところか……」
「そうですね……けど俺は常に信じて戦っています」
「信じているだと?」
「ええ。パイロットとしての自分自身、搭乗するAGや後ろで支えてくれる戦艦の乗組員、そしてセシリア艦長とか……」
いくら脳が異常活性化し、AG
「つまり仲間を信じるか……なるほどな。参考になったよ、カムイ」
「そ、そうですか」
「ああ、ありがとう」
ニコっと柔らかい微笑を浮かべる、レクシー。
他の誰にも見せないだろう、素敵な笑顔だ。
それに、とても綺麗だと思う。
やばい……またまたまたドキドキしてきたぞ。
「大丈夫ですよ、レクシー先輩。きっと漆黒の
「漆黒のAG……“サンダルフォン”か。確かに頼もしい守護神だ。頼りにしてるぞ、カムイ」
「は、はい……」
ああ、つい勢いて自分からバラしてしまったな、俺。
でもレクシーならいいか。
「しかしまぁ、悪い話だけじゃないんだ。一応、新型機が投入され、私達に割り当てられるらしいからな」
「新型の
「そうだ、ヘルメス社が開発した試作機で“デュナミス”という機体らしいが知っているか?」
「いえ、俺はそこまで関与していませんので……はい」
そうか、昨日イリーナが言っていた急用ってこのことか。
案外事前に聞きつけて、新型機のロールアウトを早めたのかもしれない。
その時だ。
バシュ――
突然、扉が開けられた。
「――この教室か? 弐織カムイっという訓練生がいるのは?」
なんだ?
いきなり誰かがぞろぞろと教室に入ってきたぞ。
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